第四章 イージーライダー 3
茜が礼文島入りしてからどの位の月日が経ったのだろう。時は既に7月半ばに入り、本州では梅雨が明けていよいよ夏本番に入る頃であった。その頃茜は礼文林道のハイキングをはじめとして、桃岩展望台に地蔵岩など島内のあらゆる場所を訪れた。そしてある日はスコトン岬より地元の漁船で無人島である トド島へ訪れて1日中何もせずにそこでボーッとする日もあれば島内の土産物屋へ旅費の足しとして手伝いに行く事もあった。それは茜にとってリストラ後初めての労働でもあった。会社員時代と違って比べて立ち仕事である上に直接客と接する仕事でもあり、しかも大変な割には賃金も極めて小額ではあったが、それでも今の茜にとっては十分にやり甲斐があったし、何しろ汗水を流してお金を得るという事がどれだけ大きな喜びを感じる事ができるのか、会社員時代よりもはるかに大きく実感していたのである。
しかし現実はなかなか上手く行かないもの。島内という島内を全て周り尽くし、ホッケもウニ丼も飽きる程食した。それに礼文島にいる限り単車で移動する事もあまりない為にそろそろ又走りたくなって来たのである。
(礼文にはもう随分長いこといたし、そろそろ稚内に戻って移動したいな・・・・。)
ある日の晩ふと思いついて翌朝茜は宿のチェックアウトを済ませて香深港へ向かい、0便のフェリーにて礼文島を後にした。
フェリー内にて茜の携帯電話へ2通のメール着信があった。礼文島内では電波がずっと圏外だったため、久しぶりのメール着信であった。1通目は妹の歩からで、宗谷岬から送られた手紙が届いたのはいいがその後何の連絡もないから一体何をしているんだ、という心配の内容であった。
そしてもう1通は岩手県遠野市で出会った少年、古村靖からであった。茜が遠野を後にしたのと同じ日に靖も出発し、秋田県へ移動して現在は青森県の農家で住み込みで短期のアルバイトをしている、との事だった。アルバイト料が入ったら更に北上して北海道へ向かうかもしれない、とメールに書いてあった。
(靖君!あの子と出会ってからもう1ヶ月以上も経つけど元気にしているみたいで良かった!)
しかし茜にとって一番の関心事である『憧れの君』こと入江勝からは未だ1通もメールが来ていなかった。仙台で別々になってから何度も教えてもらったフリーメールアドレス宛にメールを送信してはいたが勝自身がまだ旅を続けてて沖縄の自宅に戻っていないのか、全く返信がなかったのである。そして間もなく稚内港到着のアナウンスが流れた。
これからどこへ向かおうかと地図を広げて眺めていると背後から声を掛けられた。
「あれ?君この前礼文島で一緒だったカワサキ250TRの子だよね?」
声の主の方へ振りくと、そこには礼文島入りした日の晩、250TRで林道を走る事を止めさせた男性ライダーがいたのである。




