第四章 イージーライダー 2
2000年7月1日、午前8時15分
「お帰りなさーーーーーーーーーーーーい。花の浮き島礼文島へよーーーこそーーーーーーーー!!!!」
汽笛と共に礼文島香深港から大勢の迎えの声が聞こえてきた。
前日稚内市内にある民宿で一晩過ごした茜は稚内港より 東日本フェリーに乗船し、約2時間かけて最果ての島礼文島に足を踏み入れた。7月言えども最高気温が12~13度位しか上がらず、茜は慌ててジャンパーを着込んだ。
(ひゃーーーーーーーーー!さぶっ!!!本当に夏とは思えない!!!!)
あまりの寒さに驚いた茜はすぐさま予約しておいた民宿に向かった。
北海道礼文島 、別名『花の浮き島』と呼ばれるその島は本州その他の地域では見る機会がない高山植物が咲き乱れ、中でも『エーデルワイス』と呼ばれる レブンウスユキソウは丁度7月がピークを迎えていた。更に観光地としても非常に名高い所でもあり レブンアツモリソウ群生地に スコトン岬、 ゴロタ岬、 桃岩展望台、地蔵岩等数々の名所があり、そして島の玄関である 香深港では天気の良い時になると隣島 利尻島にある 利尻富士を望む事もできるのである。
「こんにちわー、お世話になります。」
民宿へ到着した茜は部屋に入り、荷物を降ろして一息ついた。
礼文島初日の夕食は ”ホッケのチャンチャン焼き”であった。礼文島は海産物が非常に豊富で、中でもホッケとウニは地元の名産物として名を馳せていた。
「キャーッ!すっごくご飯が進む。美味しいーーーーーーーーーー!」
普段滅多に食べたことがないモノだった為、茜はいつも以上にご飯が進んだ。
尚、この日の宿泊客は茜の他に初老の夫婦1組にハイキングにやってきた4人連れのグループ、そしてあと1人一見若そうに見えるが明らかに30代後半から40代前半と見られる男性が1人いた。しかし皆一緒のテーブルで
食事をしていた為にお互いすぐに打ち解けて会話が盛り上がっていた。
「へぇ、じゃあ駐車場に置いてあった250TR、あれ君のだったんだ。」
30代後半から40代前半と見られる男性が茜に言った。
「あらら、あれご存知だったんですか?実はまだ乗って間もないんですけどね。」
「ほうほう、でもいきなり新車で関東から道内までよく来れたよね。ただ250TRってさ、俺の中で
どうしても街乗り用っていうイメージが強くてツーリングだと辛いんじゃないかなって思うんだよね。事にカワサキのだと重量があって慣れるのに時間がかかるって聞くしさ。まぁ別に自分が乗りたいモノで走るのが一番だからあんまり関係ないんだけどね。」
何やらこの男、少々オートバイの知識がありそうな印象があった。もしかしたら彼自身ライダーなのかもしれない、と茜はふと思った。
「いやー、私初心者だしあのバイクも本当に何も考えずに思いつきで手に入れたんですよ。随分とオートバイに詳しいみたいですね。」
「そりゃ俺だってバイク乗りだからね、と言ってもそんなに走る事ないから今回は乗って来なかったけどさ。」
やっぱりこの人ライダーさんだったんだ、と茜は思った。
「そうそう、皆さん明日はどこら辺を行かれるんですか?私達はもう帰ってしまうけど・・・・。」
初老夫婦の夫の方が尋ねて来た。ハイキング組の4人連れは礼文岳へ、例の男性ライダーはやはり早朝のフェリーで島を出る、との事だった。そして茜は
「私、明日はバイクで 礼文林道 を走ってレブンウスユキソウを鑑賞する予定なんですけど。」
と言った。しかしその瞬間ライダーの彼が口の中に入っているご飯を噴き出して驚いた顔で言い出したのである。
「ハ、ハァ?それ本気で言ってるの?250TRでダート走ったらたちまちタイヤがやられるって!」
「へっ?そうなんですか?だってタイヤ普通のよりゴツそうだし大丈夫かなって思って・・・・。」
そうなのである。オートバイのタイヤには市街地等舗装された道路に適しているオンロード用と、ダートと呼ばれる未舗装道路等凹凸の激しい道路に適したオフロード用と2種類がある。そして茜の カワサキ250TRは一見オフロード仕様に見えるが、実は完全な街乗り用でオンロード仕様なのであった。
「あはははは!なるほどね。まぁはじめの内は分からない事だらけだと思うから仕方がないけど、悪い事は言わないからあのマシンでで林道はやめた方がいいよ。それに礼文島だったらバイクよりもむしろ徒歩で行動した方がいいと思う。島内じゃ車両乗り入れ禁止の場所多いしさ。」
(ふんだ、何もそんなに笑わなくたっていいじゃないさ!)
内心茜はムッとしていたが、結局徒歩で礼文林道へ行く事にした。
翌朝その男と老夫婦は0便と呼ばれる稚内行きの始発船で礼文島を後にし、4人グループは礼文岳へ、そして茜は徒歩で礼文林道へハイキングをしに行った。




