第三章 サイクル野郎 ~青年は荒野をめざす~ 13
「とにかくお前が何と言おうと今すぐ一緒に帰るぞ。自転車は後で配送してもらう様に手配をしておくから。さぁ、早くしないと新幹線の時間に間に合わないからすぐに部屋に戻って荷物をまとめるんだ。」
「・・・・・・・・・。」
「どうした、荷物をまとめろと言ったのが聞こえないのか?」
「嫌だ・・・・俺は絶対に帰らない!」
「何を言っているんだ!父さんも母さんもどれだけお前の事を心配しているか解ってるのか!?」
「うるせー!!!何が”心配”だ?今まで俺の事腫れ物みたいに扱ってたくせして今更そんな事言っても手遅れなんだよ!!!!!」
「何だと?それが親に向かって言う言葉か!!!!」
食堂にて靖と靖の両親の3人が話し合っていた。そしてペアレント夫妻も傍で3人の話を聞きながら黙って傍にいた。しかし話し合いは難航し、首に縄をくくり付けても帰そうとする父親に旅を続けたい靖の意見が対立して既に取っ組み合いの喧嘩寸前にまで至っていた。
「もう2人共いい加減にして!!!!ねぇ靖、お願いだからもうこれ以上周りを引っ掻き回すのをやめて!!!!あの事件以来私達が近所でどれだけ白い目で見られているか解ってるの?本当にいい加減にして頂戴よ!!!!!!」
靖の母親が泣きながら靖に訴えた。
「母ちゃん・・・けど俺・・・・。」
靖は何を言えばよいのか分からなかった。自分のした行為がどれだけ周囲を巻き込んで迷惑をかけてしまったのか、それについては十分に反省をしていた。だがもしあの場で自分が身代わりにならなかったら茜が殺されてもっと大変なことになってしまったに違いない。それにこれ以上現実から目をそらすのは嫌だった、だから茜の事も逃げずに立ち向かったのだ。しかしそれをどう言えばいいのか全く分からずに靖は心の中でもがいていたのである。
「あの・・・お話中済みません、ちょっと宜しいでしょうか?」
ペアレントが途中で口を挟んだ。
「先程から3人の話を聞いて思ったんだけど・・・・。古村君、君がここに来てからの姿を見て僕は君の事を何て元気で活発で前向きな子なんだろうって思ってたんだ。だから君が”強くなりたい”という気持ちから旅に出た、という話を聞いた時は本当に偉いと思ったしこれから君がどんな旅を続けていくのかと想像するととても楽しみで心から応援をしていたんだ。
それから昨日、事件に巻き込まれた時だって自分を犠牲にしてまで人を助けた姿には正直驚いたし、自分には絶対に真似できないと思った。古村君、君は強い意志と正義感を持ち合わせた子だと思う。だから
これからも旅を続けてほしいとも思うし、視野も広めていってほしいと思うんだ。」
「ペアレントさん!!!!」
靖はペアレントの言葉を噛み締めながら嬉しく思った。ところが今まで穏やかだったペアレントが突然真剣な眼差しで靖に言って来た。
「しかし、だ。今回の件は事が事なだけあるしご両親が心配するのも無理はないと思う。それに古村君、君はまだ未成年で自分1人の判断で行動するにはまだ早過ぎる年頃なんだ。今回は幸い軽い怪我で済んだけどこれがもしちょっとでも打ち所が悪かったらどうなっていたと思う?
君は確実に死んでいただろうし、残された人達だって大変な事になっていただろう。それに今後似たような事が絶対に起こらないとは限らないんだ。だから今回はご両親と一緒に帰った方がいいと思うんだ。」
自分の味方になってくれたと思ったペアレントから帰った方がいいと言われ、靖は失望した。
「ペアレントさん!どうして、どうしてなんだよ・・・・・・・。」
ペアレント自身だってこのまま靖を帰すのはあまりにも残酷だというのが本音であった。しかし両親がいる手前迂闊な事を言う訳に行かなかったし“ペアレント”という世話役の立場上無責任な行為はできなかったのである。
「さぁ靖、もういいだろう?早く支度をしなさい。」
そう父親に言われると靖も観念して帰る準備をするために部屋に戻ろうとしたが、突然茜が談話室から出てきて食堂の入り口の前に立ちはばかったのである。
「ちょっと待って!私の話を聞いてください!!!!」
茜は皆の前で話をし始めた。




