第三章 サイクル野郎 ~青年は荒野をめざす~ 8
「全くもうどこに行ったのよ・・・。靖くーーーーーーーーーーん!!!」
茜は同宿者に過去の事を抉り出されて傷ついて宿を飛び出した靖の事を必死で探した。外はもう夜が更けており、しかも周囲には殆ど民家もないので暗闇に包まれていた。
(ああ・・・外套が全くないから何も見えないや。懐中電灯持って来ればよかった。本当にどうすりゃいいのよ・・・・・・。)
「靖くーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!お願いだからどこにいるか返事してーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
暗闇の中茜は懸命に靖を探し続けたが、返事もなければいる気配さえ感じなかった。しばらくすると何処からか泣き声が聞こえた。もしやと思って声のする所へ向かうとそこには靖が泣きながらしゃがみ込んでいた。
「靖君、こんな所にいたのね・・・・。もう心配かけさせないでよ。とにかく一緒に帰ろうよ、ね?」
茜が近づこうとすると
「来るなーーーーーーーーーー!どうせ、どうせ俺なんて・・・・」
と、靖が叫んだ。ただ泣きじゃくる靖の姿を見て茜は何もできずにおろおろとしていた。
「ね、ねぇ靖君。確かにあんな事言われて嫌な思いをしたかもしれないけどさ、もう夜も更けてるし皆だって心配しているんだから、帰ってからしばらく落ち着こうよ。それにこのままだと寒いし風邪引いちゃうよ。」
いくら6月言えども東北地方という場所柄、夜になるとまだまだ冷え込む時期であった。
「うるせーーーー!お前に俺の何が分かるって言うんだよ!!!会ってまだ3日しか経ってないくせに偉そうな事ばっかり言うんじゃねぇよ!!!!」
「偉そうな事だなんて、どうしてそんな事言うの?
私はただ靖君の事が心配だから言っているだけなんだよ!」
「黙れーーーーーーーーーーーーー!黙れったら黙れーーーーーーーーー!!!
うぅ・・・・・・畜生、畜生ーーーーーー!うわぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」
靖はしゃがみ込んだまま握り締めた拳を地面に叩きつけながら号泣した。
「俺だってイジメられたくてイジメに遭ったんじゃない。高校だって辞めたくて辞めた訳じゃないのにどうして、どうして皆俺の事分かってくれないんだよ・・・・。
俺はチビで頭も悪くて不細工で何1つ取り得がなくて、小学校や中学校の時も存在感が全くなくていつも損ばかりしてた。だから高校に入ったら今までの自分を変えたくてゼロからスタートしようとして明るく振舞ったりして努力してきたのに、それなのに今度はイジメかよ?!もう俺どうすりゃいいのか分かんねぇよ・・・・・・。」
せっかく入試に合格して入学した高校もイジメが原因ですぐに中退し、以来自分の部屋に篭る様になり、たまに部屋から出れば母親や年の離れた弟に暴力を振るい、時には父親と口論になって取っ組み合いの喧嘩になる事もあった。そしてそれが原因で両親の喧嘩も絶えず、家庭崩壊寸前にまで至った事など全て泣きながら振り返っていた。
「けど俺だって“このままじゃいけない”ってずっと考えてた。だから自分がどこまで強くなれるか試したくてチャリで旅に出たんだ。そしてここに来て楽しい思い出ができてやっと自分に自信が持てたばかりだって言うのに…・やっぱり俺、あいつらが言ってた通りどこに行っても何をやっても駄目な奴なんだ!!!」
「靖君・・・・・。」
茜はただ黙って靖の言っている事を聞くしかなかった。
「だからあんたもさ、俺の事なんてもう放っておいてくれよ。どうせあんただって俺の事心配しているフリして心の中では軽蔑しているんだろ!?」
靖は完全に自暴自棄になっていた。
「軽蔑なんてしてないよ!とにかくもう帰るよ、ホラ!」
茜は靖の腕を掴んだが振り払われた。
「痛てぇ!何すんだよ、離せよ!!!!帰れよ、帰れってんだーーーーーーーーー!!!」
「何言ってんのよ!こんな暗闇の中で1人放って置く訳には行かないでしょ!?」
「うるせぇ!!!俺は誰の指図も受けねぇよ!どうせ今までだって1人だったんだから、もういい加減俺に付きまとうの辞めてくれよ!!!!」
必死で説得する茜を避けようとする靖だった。しかし茜も負けていなかった。
「待って!お願いだから私の話を聞いて!」
「お前の話なんか興味ねぇよ!」
靖は茜の言う事を一切聞かずに振り払おうとした。すると
「本当にお願いだから聞いて!靖君、私も…、私も靖君と同じなの!だから…、だから放っておけないの!!!!」
茜は最後の説得に試みた。




