最終章 帰路 ~だれかが風の中で~ ラスト
よう、茜!元気にやってるか?新しい仕事の調子はどうよ?
>>うん、ぼちぼち頑張ってるよ。野崎こそ相変わらず
パートのおばさん達の世話係やってるの?
ああ、まぁな・・・・・(汗)
もう毎日がサファリパークの気分よ
もういい加減マジでハラスメントで訴えてぇよ
>>ちょっとサファリパークってwwwwwww
>>それにしても月日が経つのは早いモンだよね。
>>私がバイク旅に出てからもう1年経っちゃうんだもん
へぇ、もうそんなに経つんだ。月日が経つのは早ぇよな。
俺なんて来月で30になっちまうし。もうオヤジだよ、俺
>>何もそこまで自虐的にならなくても
>>まぁ今度また暇があったらメールしてちょうだいな
>>そんじゃ~ね~♪
茜が愛車カワサキ250TRに跨って日本全国各地の放浪の旅をスタートした日から丁度丸1年経った2005年5月31日、茜は地元のオートバイショップに見事再就職し、趣味と実益を兼ねた仕事に就いていた。一方茜の学生時代の同級生であり、現在は同じライダー仲間の野崎昌男は相変わらずハローワークにて求職者のサポート兼、クセ強めの上司の下で臨時職員達のお世話係をする日々を送っていた。
その他にも見事定時制高校の受験に合格し、4月から一人暮らしを始めて昼間アルバイトをしながら学業との両立をスタートさせた古村靖に千葉県の看護師である中乃谷陽子も元婚約者であった阿部悟の殉職後、縁あって出会った営業マン山田礼二と結婚前提に本格的な交際をスタートさせる等、皆それぞれ忙しくも充実した日々を過ごしていた。
「ちょっと姉ちゃん!この前取り寄せ頼んだスパナ、もう届いてる~????」
「はーーーーーーい、今探してみるからちょっとそこの椅子に腰掛けて待ってて!!!!」
かつてのOL時代には全く考えられなかった粧っ気ゼロのスッピン顔に穴だらけのジーンズ、古着のTシャツに無造作に纏め上げたヘアスタイル、しかし茜は活き活きとした姿で顧客から取り寄せ依頼を受けたスパナが店内に届いているか探しに行った。
以前のOL時代の様に毎日単調な仕事をすれば良いというのとは訳が違い、休日も時間も不規則で、業務もオートバイをはじめ関連部品や工具の販売にその他諸々の作業、おまけに場合によってはバイクの修理まで行ってしまう事さえある(!)という、所謂何でも屋で、しかも個人店舗の数少ない従業員達で全てをこなさなくてはならないので、非常にハードな業務内容ではあったが、同時にとてもやり甲斐のある仕事でもあった。
そして茜はバイクショップ店員の仕事をしながらとある『夢』の実現に向けて取り組んでいる事があった。
「大橋ーーーー!!!!お疲れさん。もう時間だよ、気ぃつけて帰りな。」
「あっ、店長!お疲れさまです。そんじゃお先に失礼しまーす。」
1日の業務を終えた茜は帰り支度をしてタイムカードを押そうとした。
「大橋、ちょっと待って!これお前のか?レジの横に置きっぱなしだったんだけど・・・・」
店長の男性が茜に1冊のテキストらしき本を差し出した。
「やばっ!!!!そのテキスト!!!!!!!」
茜は慌ててそのテキストを店長から奪い取った。
「おいおい、何だよいきなり!びっくりするじゃねぇかよ。その本一体何なんだい?表紙に『ドミトリーゲストハウス経営者養成』うんたらかんたらって書いてあったけど・・・・・・・・」
「い、いいえっ!!!!!!何でもありませんっ!!何でもないんですってば、店長っ!!!!それじゃあお先に失礼しまーーーーーーーーーす!!!!!!!」
茜は慌ててその夢を実現させるべく『テキスト』を抱えながら店を後にした。果たしてその夢が実現するのにどの位の期間が要するのか、そして本当に実現が可能なのか?それは神のみぞ知る事であった。しかし今の茜にとってはそんな事どうでも良い事であった。
1年前に家族の大反対を押し切って長期間のバイク旅を成功させた時の様に、とにかくやれる所までとことんやってみよう!茜の心は希望に満ち溢れていたのだ。
<<<<<<完>>>>>
最後まで読んで下さり、本当にありがとうございました。