最終章 帰路 ~だれかが風の中で~ 3
「えぇっと・・・・これは携帯電話の請求書だからこっちでしょ・・・・・・・それからこれはタダのダイレクトメールだから処分して・・・・・あ、あれっ!!!!!この手紙靖君からだ!!!!!!」
長期間溜め込んだ茜宛の郵便物を整理している途中、岩手県遠野市にある『遠野ふるさとDGH』で出会ってからメール交換を続けていた16歳の少年、古村靖から手紙が届いていた。
「あの子から手書きで便りが届くだなんて、一体どんな事が書いてあるんだろう?」
茜は靖からの手紙の封筒を開けた。
茜おねえちゃんへ
もうそろそろ旅から戻ってくる頃かなって事で
敢えて手紙送りました。
夏に富良野でバッタリ会った時に話したと思うんだけど、
俺やっぱりもう1回高校目指す事にしたよ。
そんでもってもうすぐ受験だから目下勉強中なんだけど、
とりあえず合格したら又連絡するよ!
「靖君やっぱりもう1回高校受験するんだ。まぁ彼のガッツある性分なら必ず合格するでしょ」
茜は乱筆で書かれた靖の手紙を読んだ。他にも北海道知床にある”歌声喫茶”こと『知床旅人庵DGH』で同室だった”元”リストカット癖を持った看護師中乃谷陽子と、同じく北海道道北で旅を共にした自称”永遠のライダー”こと、和製キャプテンアメリカ山口和義からも手紙が来ていた。
茜さんお久しぶり!この手紙を読む頃はもう旅を
終えている頃なんでしょうね。
今回の茜さんの長旅、いかがでしたでしょうか?
旅人庵にいた時は私も悟さんの事で色々あって
貴方にとんでもない醜態を晒してしまい、
当時の事を思い出すと本当に恥ずかしいです。
ところで茜さんが丁度四国にいた頃、
偶然にも私の今の交際相手が職場の社員旅行で
貴方と同時期に四国入りしていました。
しかも驚く事に、彼ね、茜さんと遭遇していたんです。
確か当時室戸岬に向かって台風が直撃したでしょ?
その時貴方は避難先のドライブインで
無理矢理外へ出て行こうとしなかった?
その時必死で止めたのが彼なのよ。
本当に世間って狭いです…。
「四国で台風って確かあの80年代命のオバハンと一緒だった時だよね。思い出した!外にあるバイクが気がかりで外へ出ようとした時にやめろって止めようとした男の人!!!!!!!!あの人陽子さんの今カレだったんだ・!!!!!!!」
四国の高知県にある『土佐DGH』滞在中に、”バブルおばさん”こと林家緑と共に暴風雨の被害に遭い、避難している時に外に放置した愛車カワサキ250TRが気がかりで一旦外に出ようとした時に、危ないから外に出ない方が良いと食い止めた男性こそが、中乃谷陽子の交際相手である山田礼二だと知った茜は、世間の狭さに改めて恐ろしいと実感したのである。
よう!カワサキ250TRの彼女、元気にやってるかい?
祐ちゃんの所で別れた後本当にあの旅人庵に行ったのかい?
ま、君の性格ならあそこのテンションの
高さにはマッチするだろうけど、
正直俺は勘弁してほしいところだよ…わはは
そうそう、ところで入江君の手がかりは掴めたのかい?
あと別れ際で渡した工具セットは役に立ったかい?
最もこの手紙を目にする頃は君も既に立派な
一人前のライダーになっていると思うけどな。
もしバイクの事で何か分からない事があれば
いつでも俺に聞いてくれよ!!!
「ちょっと”カワサキ250TRの彼女”って…wwwww旅人庵の事も色々言っているみたいだけどさ、和義さんのテンションの高さも相当負けてないよ。でも、まぁ工具セットは本当に役に立ったからいいか♪」
よく言えば面倒見が良い、悪く言えば人との距離感がなさ過ぎ、とにかく熱く、特にオートバイに関しては暑苦しい程に熱く、でも何故か憎めないキャラの持ち主、山口和義のこれ又熱い手紙を読んだ茜は苦笑いをした。和義の亡くなった親友の連れである富沢祐子が女手一人で切り盛りをするライダーハウス『富沢ハウス』にて共に一晩過ごし、別れ際に受け取った工具セットによって、後に茜を陥れようとした永井純平の魔の手から逃れられた件については、和義の事を本当に心から命の恩人だと感謝した。
「この荷物何だろう?吉田さんの所からだ。」
短大時代の同級生、野崎昌男と偶然再会した群馬県にある『グリーンケイブルズDGH』のペアレント夫人、吉田麗子から1件の荷物が届いていた。
「どれどれ、とりあえず開けてみますか・・・・ななな、何じゃこれ!!!!!!!」
その荷物とは、以前『グリーンケイブルズDGH』で共に過ごす”羽目”となった少女小説家志望のゴスロリ女子大生、『フローレンスカヲル』こと橘馨が執筆した最新作であった。しかもその最新作というのは、自身の作品のイメージ構想の為に無理矢理茜と昌男をモデルにさせられた挙句、名所『聖パウロカトリック教会』にて強制的にキスシーンを迫られた、という ”いわく付き”のモノであった。
「うへ~、とりあえずコレはスルーしようっと。」
茜はせっかく送られてきた”名作”を全く目を通さず、そのまま適当な場所へ置いてしまった。
「さてと、この手紙が最後か・・・・・・」
茜はその手紙の差出人をチェックするべく、封筒を裏返しにした。その手紙は何と、旅の最終到達地である沖縄県波照間島から届いたものであった。そして差出人名の所に『入江勝』という名前が書かれていた。