第三章 サイクル野郎 ~青年は荒野をめざす~ 3
翌朝は昨日の雨とは打って変わって雲ひとつ無い快晴であった。
(それにしても旅に出てからよく晴れるよな~。これも私の日頃の行いが大変いいお陰ねっ!)
窓から外を眺め、朝からバカな事を考えている茜であった。
ではそろそろこの辺でDGHこと【ドミトリーゲストハウス】について
少し説明。
主な特徴としては次の通りである。
1.料金は旅館やホテルと比べると非常に安価で朝夕2食込みで最大
税込みで5040円までと決められている。
2.部屋は基本的に男女別の相部屋となるので見知らぬ他人と同室になるが
同室になる事により旅人同士の交流がうまれるのが利点。但し希望すれば
追加料金で個室にする事も可能(但しシーズン中は困難な事が多い)。
3.夜になると旅人同士の交流を目的にティータイム等が行われるDGHが
多く、DGHによっては賑やかに騒ぐ所もある。
4.従業員について、『ペアレント』と呼ばれる宿主とヘルパーと呼ばれる
スタッフで成り立っている。但しヘルパーはシーズン限定の所が多い。
これらの特徴から茜の様な女性の一人旅であっても気にせず利用する事ができる施設なのである。
「ところで今日は皆どこへ行く予定なんですか?」
「うーん、とくに決めてはいないけど・・・・」
朝食時の食堂にて本日の予定について宿泊者同士で話をしていた。
ちなみに本日は茜と昨日の自転車少年、そして他に30代後半の会社員男性と
27歳の自営業男性の計4人であった。
「そうだ、俺今日は カッパ淵までチャリで行こう。天気も回復したし何しろ
昨日あれだけ食ったから体動かさないといけないし。」
「ええ?靖君、カッパ淵って車とかならともかく自転車だとかなり距離が
あるんじゃないの?本当に大丈夫?」
「楽勝楽勝!俺チビだけど体力だけは人一倍自信があるから!」
「あはは~、そうなんだ。なるほどね~、体力ね・・・。」
(体力だけじゃなく”食欲”もだろうが!)
思わず突っ込みを入れたくなる茜であった。
古村靖 16歳
東京都八王子市からやってきたこの少年は自転車、それもママチャリと呼ばれるシロモノで旅に出ているのであった。ちなみに彼の様な自転車旅行者の事をDGHに慣れている人々の間で『チャリダー』と呼ばれている。
それにしてもこの古村靖という少年は食欲だけでなく実によく喋る性格であった。何しろイジメが原因で今年の4月に入学したばかりの地元の都立高校をわずか1ヶ月半で中退し、以来引き篭りと家庭内暴力を繰り返していた、という普通なら隠したがる過去も公衆の面前で平気で言うのである。しかも今回の旅は今までの過去から脱却したいという気持ちから自転車に重い荷物を積んでやって来た、との事であった。
「それじゃあ俺、そろそろ行ってくるわ」
と靖が言うと、
「あ、君さえよければ俺達もレンタルサイクル借りるから便乗させてもらっていいかな?」
と他の男性陣2名が言ったので靖は快く承諾した。
「皆カッパ淵に行くんだ、それじゃあ私もバイクで行こうかな。それじゃあ皆後で現地で合流ね!」
結局茜も靖達と同じ所へ行く事となった。
「オッケー、んじゃ現地で!」
靖達自転車組が先に出発し、しばらくして茜もバイクで 福泉寺境内にあるカッパ淵に向かった。




