第三章 サイクル野郎 ~青年は荒野をめざす~ 1
2004年6月4日、茜は仙台で出会った『憧れの君』こと入江勝の後を追って岩手県遠野市へ向かうべく愛車カワサキ250TRに乗って東北自動車道を北上した。この日も快晴で走るには快適日和であったが、確実に入梅の時が近づいていた。宮城県から岩手県花巻市に差し掛かり、花巻インターから釜石自動車道に入った所でに突如雨が降り出した。
(しまった~、雨だ。仕方がないからとりあえず雨宿りできそうな所まで走って休憩しよう)
釜石自動車道から国道283号線へ移動し、休憩場所を探しながらバイクを走らせた。しばらくすると屋根のあるバス停留所が目に入ったのでとりあえずそこで雨宿りをする事にした。しかし雨は止むどころかますます激しく降り出した。
(どうしよう・・・全然止まないじゃん。それにしても遠野まであと少しだっていうのにどうしてこんなに雨が降るのよ~。おまけに何だかジメジメ蒸し蒸ししてて気持ち悪いっ。もうっ!本当に早く止んでよ~、早く遠野に着いて入江さんに会いたいんだから!!!!)
茜は薄暗く、どんよりした雨雲を見上げながらひたすら雨が止むのを待っていた。と、その時遠方より土砂降りの中1台の自転車がやって来た。
(ひゃ~、こんな雨の中で自転車で走るだなんて世の中物好きな人がいるもんね。しかもあの自転車、後ろに大きい荷物積んでいるし。今にも倒れそうだよ~。)
茜は雨の中をひたすら走る自転車を見送りながらそう思っていた。それから数分して雨も上がり、すぐさま遠野へ向かった。
遠野へ到着した時は既に午後7時近くになっていた。
早速『遠野ふるさとDGH』でチェックインを済ませ、荷物の整理も落ち着いた所で茜は『憧れの君』がいるかどうか室内中を探し回ったがどこにもいないので受付に訪ねてみた。
「あのー、すみませんが今日の宿泊者ってこれで全員でしょうか?」
「ああ、もう1名男性の方が見えますよ。」
「本当ですか!?あっ、あの失礼ですがその方のお名前って”入江勝”さんですよね?」
「申し訳ございませんがお客様の情報をむやみに教える訳には行かないので・・・・」
「そこを何とかお願いします!本当に今回だけですから!!!!」
どうしても受付の口を開かせる為に茜は必死でお願いをした。
「そんな~!!!困りますよ~・・・・・」
受付側はオロオロしていたが、茜のあまりの熱心さに結局根負けをしてしまった。
「全く本当に今回だけですからね、”入江勝”さんですよね・・・っとっとっと。ありゃりゃ、この人キャンセルしてますね。」
「はぁ?キャンセル?????!!!!」
受付の口から出て来た言葉はあまりにも無残なものであった。
「そんな~!!!一体何の為にわざわざ雨の中ここまで走ってきたのよぉぉぉぉ!!!」
「あ・・・あの~、他のお客様のご迷惑になりますからもう少し小声で・・・・」
せっかく仙台から遠野まで走って来たのに全て水の泡となってしまい、ひたすら失望をするばかりであった。とその時、背後からバタン!と物凄い音でドアを開いた。
あまりにも凄い音だったので茜は思わず後ろを振り向くと雨で全身ずぶ濡れ状態の1人の少年がボーッと突っ立っていた。
「ぎゃあああああ!座敷わらし?!」
あまりの異様なその姿を見て茜は思わず悲鳴を挙げた。
「あれ、本日最後のお客様だ。」
と受付が言ったのと同時にその少年はいきなり玄関前で倒れ込み、
「腹減った・・・・・・・・」
と言ってそのまま気を失ってしまった。
(あれっ?この子さっき雨宿りしていた時に見かけた自転車の人だ!)
茜の目の前で気を失ったその少年は途中雨宿りをしていた際に雨の中を素通りして行った自転車の主であった。




