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バイク乗り2004 ~ある女性の全国放浪記~  作者: r_SS
第八章 健輔じいさん ~出発の歌~
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第八章 健輔じいさん ~出発の歌~ 16

 翌朝、茜は荷作りをしていた。すぐにでもチェックアウトをする為であった。

 本当ならもっと長期滞在するはずだったのだが、昨日の堅太郎との一件を考えると何となく居づらくなってしまったのだ。

 「さて、これで全部終わった。忘れ物は大丈夫ね・・・・。」

 荷作りが終わると茜は早速チェックアウト手続きを済ませようと受付へと向かったが、途中で堅太郎と鉢合わせをしてしまった。

 (うわっ!!!!!今一番会いたくない人物に会ってしまった!)

 茜はバツの悪そうな顔をしつつも、そのまま無視して堅太郎と目を合わせないよううつむき加減で通り過ぎようとした。

 「おい、ちょっと待てよ。話がある。」

 堅太郎が茜に声を掛けた。

 「は、話っ?!私に?」

 もう金輪際堅太郎とは関わりを持ちたくなかった茜であったが、

 「そんなに時間取らせないからちょっと来てくれ。」

 と言われ、しぶしぶ堅太郎と共に誰もいない談話室へと入った。


 「あの・・・・・話って一体何でしょうか?私も急いでいるんで手短にお願いしたいんですけど・・・・」

 茜は堅太郎から又何か嫌味を言われるんじゃないかと内心ヒヤヒヤしていた。

 「俺達も今日ここを出て行くんだけど、ふーん、あんたもチェックアウトするんだ。まぁそんな事はどうでもいい。ところであんた、大橋茜って言ったな。」

 「は、はい。そうですけど・・・・・・」

 今まで一度も自分の事を本名で呼んでくれなかった堅太郎から初めて名前で呼ばれたので、茜は驚いた。

 「昨日は俺もちょっと言い方がきつかったと反省している。」

 堅太郎の態度は昨晩とは全く別人の様に冷静であった。

 「ただな、俺が言った内容についてはマジで考えた方があんた自身の為だと思うぜ。」

 堅太郎は一体何が言いたいんだろうと茜は思った。

 「考えた方が私の為って?」

 「ああ世の中にはな、自分が思っている以上に複雑な事情を背負っている奴が大半なんだよ。だから全てが全て自分と全く同じ様に考えていると思っている事自体が大間違いだって事。自分が本当に軽い気持ちで取った態度が他人にとって大きくマイナスに受け止めてしまう事だって多々あるって事くらい、あんただってもうガキじゃないんだからその位の分別はつくんじゃないか?」

 堅太郎は茜の行き過ぎた行為が例え良かれと思ってやった事であっても、それが逆効果を生み出すリスクを指摘したのだ。


 「それとな、健輔じいさんの事なんだけど・・・・・・・」

 「健輔じいさんがどうしたの?」

 堅太郎は深刻そうな顔をして言った。

 「実はあの人、末期の胃ガンでもう医者からも見放されている位なんだ。恐らく持ってあと半年の命だって医者が・・・・・」

 「えっ!健輔じいさんがガンだなんて・・・・・うそ・・・・・うそでしょ!あと半年しか生きられないなんて!!!!!!!だって昨日倒れた時だってすぐに回復して、今までだってあんなに元気にしていたのに・・・・・」

 健輔を襲う病魔について堅太郎から突然突きつけられた茜は、心底驚きを隠せなかった。

 「そんな事嘘つく様な話じゃないだろうよ。俺だって健輔じいさん本人の口から聞かされた時は正直驚いたけど、あの通り健輔じいさんは本当に周りに気配りをする人だし、今回の件だって本当の事を言ってしまうと皆が心配するからって固く口止めされていたんだ。今回の旅だって恐らくじいさんにとって生涯最後の旅になるのに、当の本人と来たら全くそんなそぶりも見せないでどうしてあんなに元気そうにできるんだよ・・・・・・」


 堅太郎は病魔に冒されながらも周囲に気遣っていつもと変わらぬ態度で過ごしていた健輔に対し、何も手助けできないでいる自分を悔やんでいた。今回の旅も長年健輔と親交があった堅太郎が最後の思い出に、と無理矢理高山方面へ撮影の仕事を入れて付き添っていたのである。


 「それじゃあ私、健輔じいさんが病気だって事も知らないで平気でお酒飲ませようとしたり倒れるまであちこち連れ回したりしていたのね。どうしよう・・・・そんな・・・・・!!!!!」

 いくら事情を知らなかったとは言え、茜は今まで健輔にして来た事がどれだけ体に負担をかけて寿命を縮める行為だったのか、今更ながら恐ろしくなった。そして堅太郎の言葉の意味がようやく理解したのだ。

 「とりあえず俺が言いたいのはそれだけだ。後は自分で考えな。」

 堅太郎はそう言うと談話室から出て行った。

 「ちょっと待って!!!!!!!」

 「何だよ?」

 「前から気になっていたんだけど、森沢さんと健輔じいさんって一体どういう間柄なの?」

 茜は堅太郎と健輔が親しくなったきっかけを知りたがっていたが、

 「そんな事あんたに関係ないだろ。」

 と冷たくあしらい、その場を後にした。


 「おや、お嬢さんおはよう。」

 背後から健輔に声を掛けられた。

 「お、おはようございます。」

 「おや、何だか冴えない顔しているね。昨日の事まだ気にしているのかい?」

 「い、いえ別に・・・・・・・・」

 茜は相変わらず元気そうにしている健輔の姿とつい先程堅太郎から聞かされた真実が混ざってしてしまい、最早どう反応すれば良いのか、分からなかったのだ。


 「おーーーーい、健輔じいさん何やってんだよ。早く車に乗って!!!!!!」

 外から堅太郎の声がした。

 「おお堅太郎君悪い悪い、今行くよーーーーーー。それじゃあお嬢さん、短い間だったけど君みたいに明るくて楽しい人と一緒に過ごせて本当に楽しかったよ。僕は今日でここを出るけど、又どこかで会ったら是非宜しく頼むよ。それじゃあね。」

 健輔は笑顔でそう言うと、堅太郎の車に乗って飛騨DGHを後にした。

 「健輔じいさん!!!!!!!!!」

 茜は慌てて健輔を追いかけたが間に合わず、玄関前で手を振りながら見送った。

 「健輔じいさーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!!!又どこかで絶対に会おうねーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」

 茜は去り行く健輔に向かって大きく手を振りながら、エールを送ったのだ。

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