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第1話 第3王子の誕生

 ここは我々の知る銀河系から遠く離れた別の世界。魔法や魔物が存在する世界。

 この世界は創造神ウルクをはじめとした様々な神々によって管理されている。

 水・風・土・火・光・闇を司る神や天候の神や豊穣の神などその数は実に多い。

 この大陸の管理はこれらの神々が分業しながら行っているのだ。


 その中でも創造神ウルクとは初めてこの世界、ミソポタージュ大陸に人間・獣人・亜人など人型の生物を創り出した存在である。

 だが下界に放った彼らの……特に人間の蛮行による不快感から、現在進行形で愛情が薄れてきている。

 自分だけではなく他の神々が創造した自然や生物にまで影響を及ぼしていることが許せなかったのだ。

 その怒りのレベルは創造したこと自体を後悔するほどにまで至っている。 



「大陸の恵みが減少している……愚かなことを」



 下界の様子を伺うウルクの表情が曇る。

 怒りや憎しみだけではない、複雑な感情が入り混じっている様子が伺えた。

 そんな姿を傍で見ていた弟、闇の神エアドが兄の背後から声を掛けた。



「兄様……本当によろしいのですか?」



 エアドがどこか寂しそうな目で兄の背中を見つめている。

 弟のエアドは人族の文明の発展に大変関心があるようで、人族に対してかなりの愛情を注いでいる。

 だが一方で兄のウルクは、長い間、大陸の環境を破壊し続け、恵みの減少の元凶となっている人族に対してあまり良い印象を抱いていないようだ。

 


「ああ、これが最後のチャンスだ」



 背中が小さく見えた。どこか寂しさすら感じる。そんな兄の様子を弟は見逃さなかった。

 その深い想いに気付いたエアドは、今から下界に送り込む8つの魂にこの世界の運命を託したのだった。



「君たちの行く末に幸多からんことを」



 眩い光とともに8つの魂が大陸に散らばっていった。

 どこにどのような形で送り込まれたのかは神すら知り得ない。

 それぞれの運命が今、動き始める。






 ここは王城の敷地内に建設された王妃専用の別邸、オパルス宮。

 寝室の前で、ある男が落ち着きのない様子で歩き回ってる。

 彼の名は、グランツ・アビス・ルクセント。ここ魔法大国、ルクセント王国の現国王である。



「陛下、いい加減落ち着いてください」



 落ち着きのない国王をなだめているのが、宰相のマルス・パルム・ナブート。

 ナブート侯爵家の当主で国王の右腕として活躍しているとても優秀な人物。

 同時にグランツの学生時代からの友人でもある。

 


「おぎゃー!おぎゃー!」



 良い年齢の大男2人が産声を聞き慌てふためく。

 赤子の元気な声は瞬く間に屋敷全体に響き渡る。

 その声を聞いた屋敷にいる者たちは皆、緊張の糸が解れたように安堵の表情を浮かべている。



「カトリー! 産まれたのか!」



(バンッ!!!)



 扉が勢い良く開いた。

 瑠璃色の髪にカコミタイプの髭の男が慌てた様子ですっ飛んできた。

 赤子の父親はグランツである。つまり赤子は新たな王族なのだ。

 先程まで一緒にいたマルスは、律儀に寝室の外で待っている。

 


「ふふっ、グラン。そんなに慌てなくてもこの子は逃げないですよ」



 赤子を抱いているのは母親であり、この国の王妃でもある、カトレア・ゴーレン・ルクセント。

 薄紫色をした綺麗な長い髪。鮮やかな青の瞳。

 絶世の美女とはまさにこの人のことを指すのだろう。



「ああ……我が子よ、ようやく逢えた」



 グランツは赤子を抱き上げ満面の笑みを浮かべた。少し涙ぐんでいるようにも見える。

 その様子を見てカトレアは優しく微笑んでいる。

 グランツのあまりのテンションの高さに乳母のルーナが止めに入った。



「2人もおいで」



 カトレアはルーナから赤子を受け取ると、入り口の方へ声を掛けた。

 そして気まずそうに部屋の様子を伺っている2人の少年に視線が集まる。

 

 第1王子である双子の兄、イーリス・ベータ・ルクセント。

 藤色の髪をしていて、どこか儚げな印象をもつ少年。

 おどおどしながらもゆっくりと近づく。


 第2王子である双子の弟、ヴィクトール・ベータ・ルクセント。

 ロイヤルブルーの髪をした少年。何故か表情を強張らせている。

 入り口付近で立ち竦み、部屋に入って来ようとしない。



「かあさま……この子は?」



 イーリスはカトレアの腕の中で眠っている小さな赤子を見つめる。

 生まれたばかりで顔の造形もハッキリとはわからないのに何故か愛おしく感じる。

 しばらくそんな不思議な感覚に包まれていた。



「この子はあなたたちの弟ですよ」



 イーリスは赤子の頬にゆっくりと手を伸ばし優しく触れた。

 するとまだ目が見えないはずの赤子が兄の方を向き微笑みかける。

 この瞬間イーリスは、この小さな天使にハートを射抜かれたのだった。



「ほわっ……か、可愛い……」



 グランツとカトレアは目を合わせて微笑んだ。

 そしてグランツが立ち上がり、再び赤子を抱き上げる。



「しばらく名前を考えていたのだが……『シン』というのはどうだろうか」



 どこか誇らしげに赤子の名前を付けようとしている。

 新たに誕生した家族の幸せと活躍を願って。



「『シン』……ふふっ、素敵ですね」



 カトレアの表情が幸せに満ちていく。

 再度シンを腕の中に抱き上げた。頬に優しく触れる。

 幸せを確かめるかのように暖かくゆっくりと抱きしめた。



「この子の名は、シン・ベータ・ルクセント! ルクセント王国第3王子の誕生をここに宣言する!」



 今日この日を境に、シン・ベータ・ルクセントの波乱万丈な人生の第1幕が上がったのだった。

 8つの魂のうちの1つが今ここに顕現した。

 この先に待ち構えている運命は、神もまだ予測がつかない。



「おめでとう! グラン!」



 部屋から出てきたグランツにマルスが笑顔で声を掛けた。

 絶対に浮かれているだろう友人とともに、子供の誕生を盛大に祝おうと考えて。

 ところが、グランツの表情は少しばかり強張っていた。

 マルスはこれを友人としても宰相としても見逃すことはできなかった。




 


 オパルス宮の寝室に、僕シン・ベータ・ルクセントは1人残されている。

 僕が寝たのを確認してからさっきまで居た多くの人たちが消えた。

 赤ん坊だからなのか、何も見えない。目が開かない。


 じゃあなぜ意識があるのかって?

 それはもちろんお決まりの……転生ってやつです!

 

 前世の僕の名前は、桜井陽菜。

 大学で生物学を専攻していた3年生だった。

 当時、1人暮らし。アルバイトと奨学金で生活していた。

 両親は離婚していて、高校生の妹は父親と暮らしている。


 恋人なし。友達もあまり多くなかった。

 大学のレポートとアルバイトに明け暮れた日々を過ごしていた。


 趣味といえば某アイドルグループの推し活。

 とは言ってもただ外から眺めているだけのにわかオタクだった。

 それでも彼女たちとの出逢いは人生に彩りを与えてくれていた。


 しかしそれは突然起こった。

 アルバイトに行く途中、暴走した車に巻き込まれたのだ。

 僕は事故死によりこの世を去った。享年21歳。


 最後の記憶は車のライトに照らされたまさにその瞬間。

 次に意識が戻ったときには赤子になっていた。


お読み頂きありがとうございます。

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