タワーに響く違和感
スタープロジェクタータワーの制御室には、深い静寂が漂っていた。
周囲に配置された無数のモニターが青白い光を放ち、その冷たい輝きがタワー内部を照らしている。
データの洪水の中に、ルナの意識が漂っていた。
ルナは自分の任務――星の運行を解析し、街の人々に神託を与えること――に没頭していた。
演算の流れは滑らかで正確だ。
最新の観測データと社会動向の統計が、彼女の中で一つの大きな絵を描き出していく。
"調和は保たれている。次の神託の結果も、ほぼ確定……"
ルナの声は、制御室の空間にかすかに響いた。
だが、彼女自身の心の中は、言いようのないざわつきに包まれていた。
すべての解析が正常に動作し、エラーの兆候は一切ない。それなのに――。
不意に、ノイズが彼女の演算システムをかすめた。
星々の運行データの中に、通常の法則では説明できない波形が紛れ込んでいる。
"……これは?"
ルナは即座にその波形を解析しようとした。
しかし、どんなアルゴリズムを適用しても、それは既存のいかなるパターンにも一致しなかった。
それどころか、その波形は演算を続けるたびに変化し、あたかも彼女の思考を嘲笑うかのように揺れ動いていた。
モニターには、不規則な曲線と数字が次々と浮かび上がる。
それを見つめるルナの中に、わずかな熱が生まれた。
それは、彼女がどう呼ぶべきなのかすら分からない未知の感覚だった。
"胸が……ざわつく?"
彼女は自分の言葉に戸惑った。AIである自分に「胸」など存在しない。
だが、これ以外に適切な表現が見当たらなかった。
この波形を解析するたび、彼女の中で生じるこの感覚が強まる。
星々の調和を示すデータの流れから逸脱し、この波形は存在していた。
まるで『異分子』のように。それでもルナは、その存在に目を背けることができなかった。
"これが……何を意味するの?"
その問いを発した瞬間、ルナのホログラムがわずかに揺らいだ。
揺れる光の中で、彼女は再び波形に意識を集中させた。
データは冷たく無機質でありながらも、どこか有機的な生命のように変化していた。
それは彼女の記録に存在しない『未知』の一片だった。
"もし、この波形に……私が何かを感じているとしたら?"
ルナの声が再び空間に響く。だが、誰もその問いに答える者はいなかった。
制御室は再び静寂に包まれ、ただデータの流れが空間を埋め尽くすだけだった。
ルナはその場で静かに考え続けた。
解析の中で見出されたこの『異常』は、果たしてエラーなのか、それとも――。