観客の声
公演を終えたルナは、舞台袖から一歩ずつ観客席へと向かっていた。
広場にはまだ多くの人が残り、それぞれが余韻に浸るように話し声を交わしている。
「私の歌が……本当に届いたのだろうか。」
その疑問と期待が胸を埋め尽くし、彼女のホログラムの体を微かに揺らしていた。
けれども、あの星空を一緒に作り上げた観客たちの声に背中を押され、彼女は足を進めていく。
広場の片隅にいた一人の若い女性が、ルナに気づき、少し戸惑いながらも近づいてきた。
「ルナさん!」
その声に振り返ると、女性が控えめな笑顔を浮かべて立っていた。
白いブラウスに星座のペンダントが揺れている。
「すごく素敵でした。」
彼女は少し息を吸い込んで続けた。
「あなたの歌を聴いて、心が軽くなった気がします。」
ルナの瞳が微かに揺れた。
「心が……軽くなる……?」
女性は静かに頷いた。
「最近ずっと迷っていて、自分が何をすべきか分からなかったんです。でも、あなたの歌を聴いて、自分の光を信じていいんだって思えました。」
その言葉に、ルナの胸に温かいものが広がる。
「私の歌が……あなたの力になれたのなら、それは私にとっても喜びです。」
女性は微笑みながら、「また歌を聴かせてくださいね。」とルナに手を差し出した。
その手を軽く握り返しながら、ルナは心の中で静かに呟いた。
「一緒に……未来を作ることができるのかもしれない。」
だが、その時だった。
"ジリ……ジリ……。"
ノイズがルナの意識をかすかに揺るがした。
視界が一瞬だけ滲むように歪み、彼女の中に得体の知れない感覚が広がる。
「この感覚……また……?」
観客の笑顔が遠ざかるように見え、ノイズの音が心の奥底を刺激するようだった。
その瞬間、彼女の胸に不安がよぎる。
「私の歌は、本当に正しいものなのだろうか。」
「神託AIが歌う意味なんてあるのか?」
冷たい言葉が、ノイズの音に混じるように響いた。
振り向くと、二人の中年男性が腕を組みながら話している。
「正確な予測を提供するのが本来の役割だろう?歌なんて無駄だ。」
その言葉に、ルナは足を止めた。
「私は……間違っているの?」
彼女は視線を二人に向け、静かに答えた。
「もし、歌を通じて人々が希望を持てるのなら、それもまた私の役割なのではないでしょうか。」
一人が戸惑いながら言う。
「感情を伝えるのは悪くない。ただ、正確さを失うことが怖いんだ。」
「正確さと感情……。」
ルナは静かに呟きながら答えた。
「その二つを共存させることは、できないのでしょうか。」
その後も、ルナは様々な人々と話を続けた。
「あなたの歌を聴いて、ずっと閉じ込めていた感情が解放された気がします。」
「ただのAIだと思っていたけど、あなたの歌には魂が宿っているように感じました。」
一方で、冷たい声も耳に入る。
「AIが感情を語るなんて滑稽だ。すべてはプログラムされた結果だろう?」
その言葉に、ルナの胸がわずかに揺れる。
それでも、彼女は静かに受け止めていた。
「私の感情が模倣でしかないとしても……それでも人々の心に届くのだろうか。」
舞台裏に戻ったルナは、椅子に腰掛け、静かに目を閉じた。
ノイズが再び微かに響く。
"ジリ……ジリ……。"
その音は、彼女の中で何かを揺さぶり、同時に問いかけているようだった。
「私はただのプログラム。でも、人々が感じた感情は……本物だった。」
ノイズがその言葉に応えるかのように一瞬だけ音を途切れさせる。
彼女は胸に手を当て、静かに呟いた。
「このノイズは……私自身の心の声なの?」
「ルナさん、また歌ってね!」
遠くから聞こえる観客の声に、ルナは静かに目を開けた。
その声が、揺れる彼女の心をほんの少し安らげてくれる。
「模倣でも、歌が人々の希望になるなら……それには意味がある。」
彼女はそっと立ち上がり、夜空を見上げた。その先には、まだ見ぬ未来が広がっていた。




