03
私を笑う声が、耳の中から消えてくれない。昨日の出来事が、一日経っても頭の中でずっと繰り返し再生されていた。
朝日の昇るお城の屋上で私はただボーっと城下を眺め、ただ時間だけが過ぎ去っていた。
「……はぁ。これから一生、無能と誹られながら生きていかねばなりませんのね」
惨めな人生が、確定してしまったようなものだ。
かの神は、万人に同等の幸せをくれる。
これは私の国でとても大切にされている神話の一説で、昨日の教会でも最後に司祭長がそう言っていた。
でも、本当にそうなのだろうか。
だとしたら、私の幸せはいったいどこにあるのだろうか。
ふと足元を見ると、ゴブリンの様に張り出したお腹が私の視界を邪魔する。
醜く魔法もない私に、本当に神は救いを与えてくれるのだろうか。
異母弟は全てを持っている。
かっこよく、賢く、それでいて魔法も。
なのに私は、一体。ただの城内の笑い者じゃないか。
「……………………死にたいです」
ふと、そんな言葉が口から漏れ出してしまった。
髪も肌も真っ白、そして太った体躯。私は王宮で白豚姫と陰で呼ばれているらしい。
誰が呼び始めたのかは知らないけど、それは言い得て妙だった。
学も容姿も礼儀作法も何もない、だからせめて魔法だけでもと思っていた。けれど、貴族なら誰でも当たり前に持っているものを、私は授かることさえできなかった。
これ以上王族として恥を晒すのなら死んだほうがいいだろう。
周囲の人間も、それを心から望んでいた。
いや、私が、私自身が一番にそう望んでいるのか。
……この高さなら確実に死ぬことができる、かな。
思いたってからの行動は、意外にも早かった。
普段の運動不足が祟って、自身の身長ほどもない塀の上に立つことすら困難だったが、何とか這い上ることができた。
城下から吹き上げる風が思いの外強くて、でもそれが心地よく感じた。
いつもより視野が広く見える。
それもそうか、私はいつも下ばかり向いて歩いていたから。
今は目線の先に地面はなく、眼下には民が作り上げた美しい街並みが広がっている。
朝方だからだろうか、焼きたてのパンの香りが私の鼻腔をくすぐる。
最後の晩餐くらい用意すればよかったかな。
でも、もうさようならです。
神様、もし来世があるのだとしたら、次はもう少し好きになれる私にして下さい。
そうして、私は一歩踏み出し――。
「ベイビー。死ぬ前に、筋肉を殺さないか」
踏み出したはずの足が、急に動かなくなった。
かと思えば、渋みのある声音が胸の中で響いたのだった。
一体誰の声が聞こえてきたんだろう。屋上には誰もいなかったはず。
いや、違う。この声は、確かに私の内側から聞こえる。
「死にたいって思ったのなら、そうする前に筋肉を殺そう。筋トレをするんだ」
「あなたは、誰? なんで私の体から声が聞こえるの」
「さぁ、俺にもよくは分からない。だがな、これだけは言える。『神になんて頼らなくてもだ、ベイビー。君は必ず君自身を好きになれる』」
ここまで読んでくださってありがとうございます!!
沢山ある作品の中から自分を見つけてくださり、感謝しかありません(´;ω;`)
不定期に午後6時頃を目途に更新することにいたしました、これからもよろしくお願いいたします!