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10 とあるメイドの前日譚2

「王女?」



 あまりに突飛な提案に、私は唖然とした。


 話の流れからてっきり魔法を勉強させられ、王のための兵士にでもさせられるのかと思った。




「どうして、ですか?」


「それがわからねぇんだ。だが、王直接の命令なんだ」


「過保護だから、私に守ってほしいとかですか」


「それもあり得ねぇ。王は姫殿下に基本無関心だからな」


「そう……なのですね」




 話が見えない。


 でも、兵隊として危険な魔物と戦わされるよりよっぽどマシなのか。


 姫の性格が終わっていたらメイドの方が地獄だろうけど。



「……宰相様は、私が帰りたいって言ったら聞き入れてくれますか」



 そう聞くと、今までいたって冷静だったシオンさんの顔がピクリと反応した。



 あぁ、望み薄なのか。


 働くのは別にいい。


 でも私には帰りたい場所がある。死ぬまでこんな場所に縛られるなんてまっぴらごめんなんだけど。


「つい先日、第二王子がとんでもなく強い魔法に覚醒し、それで王族派に力が付き過ぎた。俺らが黙って王の命令を聞いているのもそのためだ」


「つまりは、帰れないと」


「……あぁ。だがいつか、待っている家族のもとへ返すことを誓う」



 握りこぶしにギュッと力をこめ、シオンさんはそう言った。

 本当に、いい人なのかもしれない。


「……私の母も魔女でした。その頃は今よりもっと酷くて、母は戻ってきませんでした」


 でもそんな人に意地悪ばかり言ってしまう私は、本当に性格が悪いと思う。


「……」

「すみません。きっと宰相やあなたたちのおかげで、たくさんの人が救われたのだと思います」


 私が幼いころ、母は兵士に連れていかれた。


 その頃の私は幼過ぎて、もう顔も思い出せない。でも別れ際、泣きながら私を抱きしめてくれたことは今でも鮮明に覚えてる。




「けど、母を奪ったこの国も、貴族も嫌いなんです。その貴族の言うことは、信じられません。奴隷じゃなくても一生ここにいるのなら、一人で逃げ出すかもしれません」


「それだけは、やめておいたほうがいい。王城は監獄と呼ばれるほど、警備が厳重なんだ。それに逃げたら死罪……脅す形になるが、家族もだ」


「……分かりました」



 結局、私のわがままは彼に言わせたくない言葉を言わせてしまっただけなのかもしれない。

 そうなることは、容易に想像できるのに。



「……今後、王族派からの接触があると思う。定期的にお前の所へ様子を見に行くから、何かあったら言ってくれ」



 私のせいで、少し重苦しい空気になってしまった。

 不機嫌とまでは言わないけれど、シオンさんはバツが悪そうな顔をしていた。

 何か、話題を変えたほうがいいのかな。



「王女も、その王族派ということですか」

「……いや、中立――というより、そういう対象と見られていない」



 私が理解していなさそうな顔をしていたら、シオンさんは言葉を続けてくれた。

「姫殿下は王位継承権は今のところ一位だ。だが、成長して王位を継いでも傀儡だ。第二王子が勇者の魔法に目覚めた今となっては邪魔でしかないだろうな」


 王女の噂もよく聞く。


 甘やかされて育った、とてもわがままな人だと聞いたことがある。



「私、王女殺しの濡れ衣を着せられるのでしょうか」

「お前冷静だな。だがそれはねぇ。お前の魔法はかなり貴重だから、むしろ丁重に扱われると思うぞ」


「じゃあ、私以外の誰かが」



「――それ以上は、言わないほうがいい」



 シオンさんは、自らの口元に人差し指を立てそう遮った。視線を天窓に向けていた気がしたけど、監視されてたりとかもあるのかな。


 貴族だったら、普通にありえそう。



「じゃあ最後に、王女について教えてください」




 去年、街で流行った演劇に無能なお姫様という演目があった。



 わがままで自堕落なお姫様が女王となり、国民が苦しめられる。

 そんな中、立ち上がった勇者に女王が倒されるというお話だった。

 誰がモデルになっているかなんて、みんな口にしなかったけど分かっていた。



 それほどまでに王女の悪評は、街に広がっている。


 でも、もしかしたら。


「会ったことはない。……けど、王女は弟の許嫁なんだ」

「何か、聞いているのですか?」

「いや、俺の家は宰相派閥なんだが……弟は第二王子にほだされて、結構険悪なんだ。だが噂程度なら知ってるぞ、わがままなデブだってな」



 ……噂通りの人だった。



 そんな人のメイドだなんて気が重いな。正直憂鬱だ。



「けどな、噂でしかないんだ。……お前をここまで連れてきた貴族いただろ? どう思った」

「どうって。貴族らしい人だなって思いました」

「そうだろ? でも、あいつは態度とは違って、困った人を放っておけないヤツだ」



 え、あの人が。

 高圧的で、嫌な印象しか抱いていないけど。



「城下に病院や孤児院まで建ててよく様子を見に行ってる。お前に助けられた時もそんな時だってな。あいつ、めちゃくちゃ感謝してたぞ。命の恩人だって」



 それは、意外過ぎる。

 でも、あんな田舎の乗り合い馬車にいたことにも合点はいく。


 「あいつの名誉のために言っとくが、お前を国に突き出したのは馬車に乗り合わせた別の平民だ。……つまり、騙されるなってことだ。それに王女の噂は、どこか作為を感じる」



 確かに、その通りかも。


 シオンさんの言葉が本当なら、私は平民に売られたってことだ。

 そして、あれほど嫌っていた貴族に助けられた。



「俺も最後に。言えた立場じゃないが、何があっても守ると誓う。だが、何が正しくて何が偽りか、それはお前の心に従ってくれ。俺のことも、疑うくらいが丁度いい」




――去り際、シオンさんに何度も言われた「自分の目で人を判断すること」。その言葉を胸に、さっき初めて王女と出会った。




汗をダラダラと流しながら、不思議なポーズのまま動かない王女。

飲み物を勢いよく吐き出す王女。

腹の虫の凄味が半端ではない王女。

 


これは、どう判断すればいいんだろう。

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