ハロウィンの日に、こんなことが起こるといいな
今日はすっかり日本に定着したハロウィンの日。
だからテレビでニュースを見ると、様々な仮装をした人達が、お祭り騒ぎしている様子が映し出される。
でもそんなイベントに縁の無い僕は、毎年一人でその光景を見ているだけだったけど、今年は少し……じゃないね、今年は去年までとはかなり様子が違っている。
「ねえ、ポテチ食べちゃった。トリックオアトリート」
ハロウィンのカボチャ帽子をかぶり、空のポテチの袋を振るギャルが、何度目かのお菓子の催促をしてくる。
そう、一人暮らしのアパートの僕の部屋に、今年は女子がいるんだ。
でも女子と二人っきりといっても、彼女なんて存在じゃなくて……。
『ねえ。それってテレビでCMしてるヤツだよね。私もそのゲーム始めてみようと思ってるんだけど、ちょっと教えてくんない?』
……と、約半年前に話し掛けられたのがキッカケで、ゲーム友達になったクラスメイトで、それまでは全く接点がなかったけど、今では放課後だけじゃなく、こうして休みの日にも、僕のアパートで一緒にゲームをする仲となっている。
それにしても小瀬川さん、今日はよく食べるな。
備蓄のお菓子が、もう無くなったよ。
「小瀬川さん、このポッキーでお菓子は最後だからね。買い置きが無くなっちゃったよ」
「はいはい、分かったよ~」
台所から秘蔵のイチゴ味ポッキーを取ってきて渡すと、直ぐに箱と袋を開けて、ポリポリポリと小瀬川さんは食べ始めた。
★
「ねえ、ポッキー終わっちゃったよ」
ポッキーを渡してから間も無く、スマホでゲームをしていると、予想外なことにお菓子の催促が。
「さっきそれで最後って言ったと思うけど」
「そうだっけ? トリックオアトリート」
「だから無いですよ」
「え~、トリックオアトリート」
「だからもう無いんですって」
───チュッ───
ハロウィンにちなんでお菓子を要求しているんだろうけど、無いものは無いからそう伝えると、突然右の頬に柔らかい感触が……。
「お菓子をくれないから、悪戯しちゃったぞ」
「え? え⁉」
まさか今……?
何をされたか想像すると、イチゴの甘い香りがしてくる右の頬だけじゃなく、左の頬も真っ赤になっていくのが自分でも分かる。
「あの……どうしてこんな事?」
「え~? 頑張ったのに分かんないの?」
僕と同じように真っ赤になっている小瀬川さんは、少しご立腹な様子だけど、ぼくには彼女の言ってる意味も、怒っている理由も分からない。
「頑張った?」
「そうだよ。私、頑張ったんだよ。半年前に声を掛けたり、興味のなかったゲームの事を勉強したり、毎日家に遊びに来たり」
「え?」
「今日も頑張って、お菓子が無くなるまで必死に食べ続けたし……」
「それって、どういう事?」
「もう鈍いなあ~」
★
顔が真っ赤のままの小瀬川さんが、それから話してくれたのは、僕の事が気になり始めたキッカケや僕の良い所で、それを聞いているうちに体中がなんかムズムズしてきた。
だって女子に好意を向けられた事なんて、今まで全くないから。
「それで返事は? トリック? それともトリート?」
熱弁が終わった小瀬川さんは、しばらくの間沈黙して俯いていたけど、僕の顔を見つめると意を決したように口を開いた。
最初はそのギャルな見た目に萎縮することもあったけど、話しているうちにそんなこともなくなった。
そして正直に言えば、今は凄く可愛いと思っていて、彼女が遊びに来てくれるのが、とても嬉しくて楽しかった。
だから、ここまで真っ直ぐに気持ちを伝えられたら……。
「ハッピーハロウィン」
───チュッ───
自分の正直な気持ちと、さっきの悪戯へのお返しを、俺も頑張って彼女に渡した。