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24企画参加作品

夕食の最適解

作者: 御田文人

春の推理2024 参加作品。

コージーミステリーのつもりで書きました。

 取引先での商談が予定より早く終わった。

 時間を見ると17:00を少し過ぎた所。定時の18:00にはまだあるが、直帰してしまおう。金曜の夜だし、これぐらい許容範囲だ。


 そうすると少し時間に余裕が出来るので、いくつか買い出しをすることにした。記憶を頼りに品物を物色しつつ、漏れがないように妻に確認メッセージを送る。

「仕事が早く終わったから買い出し中。コウタの服と、靴と、自由帳と、色ペンは買った。あと何かいる?」

 ものの1,2分で返信が来た。

「助かる!後は・・・夕ご飯お願い」

 すかさず『了解』と返し、ここから戦いが始まった。


 頼まれたからには、満足させるものを用意しなくてはいけない。

 妻と子供が満足する夕食を。

 『何がいい?』と聞き返すのは野暮というもの。妻のメッセージの『・・・』がそれを表している。

 彼女は敢えて希望を言っていない。これは『お手並み拝見』ということだろう。その挑戦、受けようじゃないか。

 

 私は様々な条件を考えながら、今いるショッピングセンターの地下食料品売り場に向かった。

 

 一言『満足』と言っても要因は色々ある。

 まずは『味』だ。これは旨いに越したことはない。しかし、旨ければいいというものではない。

 様々な要因がこの『味』だけに拘ることを許さない。


 その最たる要因が『値段』だ。お金を掛ければいいというものではない。今日は何の特別もない日常の平日だから。

 高いお金をポケットマネーで出して、豪華な品を揃えるのは、金銭感覚としてNG。そもそも、高級品で子供の満足を得るのは卑怯だ。

 普段、妻が平日の夕食にかけてる金額程度に抑えるのが、フェアというものだろう。

 従って、全て出来合いを買って済ませるという案は、ここで選択肢から外れる。


 次に『時間』だ。夕食の19:00に間に合わなければいけない。なので、あまり調理時間をかけることはできない。だから『肉だけ買って残り物の野菜でカレーにする』という手がここで消える。

 いや、おそらく妻が先に帰るだろうから、野菜だけ先に下処理をしてもらえばギリギリ可能だろうか?

 しかし、頼まれた立場で、頼み返すのは妻の満足度が下がる。一旦、この案は保留だ。


 忘れてはいけないのは『子供の栄養バランス』だ。親だけなら1食ぐらい適当でも良い。しかし、まだ小学1年生の息子には、十分な量のタンパク質を摂らせたい。そして野菜は数種類食べさせたい。それでいて子供が好んで食べるものというと、どうしても限られてくる。


 等々、様々な要因があるのだが、悩んでいる時間もない。帰宅時間、調理時間を逆算すると、食料品売り場を何周もする余裕は無いのだ。1周で決めなくてはいけない。


(やっぱり、少し良い肉だけ買って、家にある人参、キャベツ、タマネギでスタミナ焼きか・・・)

 と、結局無難な解に落ち着こうとした頃、ある疑問が沸き上がった。


(ごはん、あったっけ?)

 我が家はご飯はある程度まとめて炊いて冷凍でストックしている。しかし、その残量は十分にあっただろうか?

 帰ってから炊く時間は無い。良い肉でスタミナ焼きをして、ご飯が無いなんて最悪だ。。。


 確認するか?いや、聞いてどうする?聞いたところで、ごはんが無かったら炊く時間が無いことには変わらないのだ。自炊をすると決めた日に、出来合いの白ごはんやオニギリを買って帰るのはプライドが許さない。


 とすると、根本から考え直す必要がある。

 今の時間はお互い電話に出られないことが多く、メッセージでのやり取りになる。確認時間がもったいない。ご飯は無いものとして考えよう。

 

(麺にするか)

 苦肉の策だが、この発想からめまぐるしくアイデアが連鎖した。


(ラーメンにしよう!)

 ラーメンなら、麺茹でと平行して野菜炒めを作れば調理時間は10分程度で済む。

 そして、そこで一つ工夫も出来る。

 我が家では、袋入り生ラーメンの液体スープは全部使わない。子供の好みに合わせてラードはいつも控えめにしている。

 この余ったラードで野菜を炒めると、町中華のような風味がついて旨いんだ。

 チャーシュー、煮卵は総菜コーナーで買ってしまおう。これでタンパク質の補給、手間の削減、豪華さの演出になる。


 我ながら完璧なプランに満足しつつレジに向かうと、イベント商品として有名店のプリンが売っているのが目に入った。


(プリンは食費ではない。私のポケットマネーで買ってもルール内。ただの家族サービス。合法だ)

 迷わず3個カゴに入れた。


 そして帰路に着く。

(どうだ!妻よ。完璧な解答だろ!)

 自信満々に玄関の戸を開けると、駆け寄ってきた息子が開口一番に、とんでもないことを口走った。


「パパ!明日のお昼、パパとラーメン屋さん行きたい!」

 なんでも友達がラーメン屋に行き、初めてカウンターで食べたことを自慢してきたらしい。それが羨ましいんだと。。。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんだか主人公が巡らす思考に共感してしまいました(*^^*) そして熟考の末にかぶる……あるある(^.^; [気になる点] 私なら3人ぶん450円以内で満足させてみせます(๑•̀ㅂ•́)…
[良い点] 最後のオチが主人公からするとガッカリでありつつ、のほほんと微笑ましいのがとても良いなと思いました。
[良い点] なんかほっこりしました。「・・・」がメッセージだという視点も新しいですね。私ならたぶん手作りという発想にすら至らないので「どういう惣菜の組み合わせにするか」になってしまいます。 [一言] …
2024/03/23 16:44 退会済み
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