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昭和レトロ自販機来客簿 〜孤独なお客様の優しい夜食〜  作者: 地野千塩


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番外編短編・クリスマスのピザトーストサンド

 ついに帰ってきた。あのコインレストラン・佳味へ。


 風村アズは県道沿いの道を歩き、光に満ちたあの場所へ進む。もう夜中だ。あのレストランの光、暗闇の中に浮かぶ蝋燭の火みたい。そこだけがくっきり明るい。


 このレストランは奇妙だ。二十四時間営業で完全無人。食事は全て自販機で提供される。昭和レトロな自販機で。メニューはそば、うどん、トーストサンド、ハンバーガーなど。


 今から半世紀前、こういった自販機が流行っていたそうだ。コンビニや電子レンジや冷凍食品の普及とともに廃れた昭和の遺物。たしかに味は本格派ではないが今でも密かなマニアがいた。アズもその一人。元々フードライターをしながら全国を旅していたが、コインレストラン・佳味の食事、他では味わえない何かがある。


 店に入ると、ずらりと並んだ昭和レトロな自販機に圧倒される。デザインや色使いも、派手でエネルギッシュだ。令和の色とは何かが違う。


「あー、そういえば今日ってクリスマスだったじゃん!」


 店に入り、今更気づく。しかし本当に今更だ。これからチキンやケーキ、食べる手段もない。


 それに一人静かにこの店で過ごすのも悪くない。クリぼっち、上等だ。いい歳した女がクリスマス一人でいて何が悪い。


 気分はロックになりながら、自販機の前に立つ。


 ここ、暖房はない。寒い。だったら、うどんかそば、ラーメンか?


 しかし、もっと熱々のトーストサンドが一番だ。昭和レトロ風オレンジ色のトーストサンド自販機、今は一番惹かれる。


「味は何にしようかな? え、ピザ味あるのか」


 ピザ味だったら、クリスマスっぽいか?


 そんな考えも巡りつつ、チャリン、チャリンと百円玉を入れ、一分もたたないうちに完成した。


 全面をアルミホイルで覆われているトーストサンド。確かこれかなり熱い。素手で持つのは無理。自販機に備えつけられているトングを利用し、テーブルまで持っていく。


「あっつ!」


 少し冷ましたつもりだが、アルミホイルはまだ熱い。当然、中も熱々。


 トーストサンド、表面は焼きむらがあり、少し焦げている箇所もあるが、それもいい。だって匂いが最高だから。


 それにしても、こういう自販機で、外で食べるトーストサンド、なぜこんなに美味しいのだろう。家でトーストサンドメーカーで作ってもいいのに。実際、味自体は普通なのに、寒い場所で食べる熱々のトーストサンド、なぜかとっても美味しい。


 サクサクと夢中で食べ続け、あっという間に完食。


 たぶん、クリスマスの夜、こんなトーストサンドを楽しんでいるのは世界でただ一人。


 みんなケーキやチキンなどのご馳走を食べているんだろうが、自分だけ昭和レトロな自販機に囲まれてトーストサンドを食べている。その特別感、ちょっと嬉しい。


「ふふふ、それってなんか面白いじゃん?」


 気が抜け、思わず笑ってしまう。


「さあ、もう一個トーストサンド、食べちゃおうかな?」


 目の前にはくしゃくしゃに丸めたアルミホイル。すっかり冷めてしまったが、アズの食欲はまだまだ上限なし。再び、自動販売機の前へ向かう。チャリン、チャリンとコインの音が響いてた。

ご覧いただきありがとうございます。久しぶりに番外編短編です。実はお店の場所を変え、第二弾と第三弾の予定があります。よろしくお願いします。

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