プロローグ
その奇妙なレストランは、県道沿いにあった。名前は「コインレストラン・佳味」。電光の看板が夜闇の中で光っていた。
このレストランは二十四時間経営だった。何しろ店員がいない。自動販売機でうどん、ハンバーガー、味噌汁などが売られている無人店舗。そのどれもがレトロな自動販売で昭和時代、主に一九七〇年代から活躍していたもので、五百円玉も使えない。その後はコンビニやファストフード店の台頭で廃れていたが、令和になった今はレトロな雰囲気で人気が復活しているという。外国人観光客にも人気らしい。
もっとも「コインレストラン・佳味」は田舎にあった。老人ばかりの田舎で、限界集落一歩手前。この場所もレトロというよりは、古めかしい雰囲気も漂い、背後にある雑木林とマッチしている所でもあった。近隣住民でもこの場所を知らない者も多いらしい。何しろ、コンビニやファストフードも便利だ。家で電子レンジを使って調理してもいい。
昭和の遺物のようなこの場所だが、夜中には灯りを放つ。その灯りは妙に優しげ。近くにあるコインランドリーやコンビニの灯りより、目に優しい雰囲気だ。
店主の男は、コインランドリーの経営もしていた。地主の息子でもあり、経済的余裕はあったので、このコインレストラン運営は趣味の延長線だったが、なかなか辞められない。客足も途絶えず、ファンも少なからずいた。夜中に一人で夜食を食べにくる客もいる。なぜか需要があるので、今後も経営を続けるつもりだ。店主も最近、手作り弁当を開発し、新しい自動販売機を置いたりしていた。
確かに大勢で食事をするのも楽しいだろう。そんな人間でも独りになりたい夜はある。そのお供に昭和レトロな自動販売機のうどんやハンバーガーはいかが?
二十四時間休まず運営中。男でも女でも、金持ちでも貧乏人でも、誰でもご自由にどうぞ。
今夜も昭和レトロな自動販売機は、客が来るのを待ち続けていた。