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静寂の破壊者

作者: 九JACK
掲載日:2023/09/12

 これを書く前に、これを読む方へ──。

 これは名もない世界の名もない地で起きたことである。

 名もない者たちの物語である。


「きらめきたいよ沈む太陽居もしない神様に祈った……」

 少女が一人、そこにいた。何もない黒い闇の中で透明な声で歌っている。

「朝眠って夜起きて光を知らないままわたしは……」

 静寂という名の虚空に響く少女の声。

「矛盾の中で苛立ちながら抗うこともできずにいたの……」

 少女の声には感情がない。

「混沌の向こうへ」

 少女は行けるのだろうか、この暗闇の先へ──。


 少年は日が昇るのを見つめていた。

 闇が徐々に払われていく。それを見つめるのが彼は好きだった。

 グレイの瞳が太陽の光を反射して銀色に輝く。ほんの刹那のことだが。

 彼の眼下には静かな街がある。その街の静寂が彼を包む。

 日が昇りきる。しばらく彼はそこで動かずに留まっていた。静寂。

「グレイーーーーーーーーーーー!!」

 その声が静寂を破った。

「あーーーーっ! またそんなとこに登ってぇ!」

 少年は叫ぶ少女を見下ろす。──彼はガス灯の上に立っていたのだ。

「なんでそんな高いところに立てるのよぉ……あたしムリ」

「そう? それほどでもない気がするけど」

 そう呟くと、少年は飛び降りた。

「きゃあっ」

 普通なら自殺行為。だが彼はあっさりと着地した。

「し、心臓に悪いよ……」

 少女が震えながら言う。

「おはよう、ティア」

 少年は何事もなかったかのように少女に言った。

「おはよう、ティア、じゃないでしょーーーーーーっ!! なんであんなとこから飛び降りんの!? 死ぬよ!?」

「怪我ならしてないから大丈夫」

「そういう意味じゃない!! 怖いとか思わないわけ?」

「うん。でもティアは怖いんだっけ?」

「当然よ。あんなところに登るなんて、正気じゃないわ」

「そっか、ティアは高所恐怖症なんだったっけ。でもぼくは怖くないから大丈夫」

「見てるこっちが怖いのよっ!」

 冬でもないのにティアという少女はガタガタ震えている。

「寒いの? ならちゃんとコート羽織ってきた方がいいよ」

「あんた、バカ?」

 ティアは呆れ顔。

「怖くなったら寒気がするの。ただ寒いんじゃないの! そんなことも分かんないの?」

「へー、そうなんだ」

 少年の声には感情というものが欠けていた。

「…………あんた、人間?」

 ティアの問いに少しかげったグレイの瞳を向けて答える。

「たぶんね」


 悲しい寂しい静かな世界。

 暗くて何も見えない道なき迷路(みち)。

 たった一人でずっとここにいる。

 感情(おもい)のはけ口などない。

 だから捨てたつもりだった。

 だけど少しだけ残ってしまった。

 この現実(こころ)を誰か壊して。

 そしたら、苦しまずに済むはずだから。


 独りぼっちの静寂を壊して──

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