近所のコンビニを目指せ!
家紋武範様主催、知略企画参加作品です。
近隣に綺麗どころとして、名を轟かす兄弟がいた。背が高く鼻筋通った顔立ちの兄、切れ長の目がにこりと笑むと、恋に落ちる女子高生数しれず。ひとつ下の弟は、ガサツな手で触れれば壊れそうな、華奢で繊細。少女の様な面立ち。老若男女問わず虜にしてしまう、魔性の美貌の持ち主。
ジュワワ。豚バラの脂が食欲をそそる音と匂い、ほわわと湯気たつ野菜。佐藤家次男、高校一年生の祐希が、ホットプレートで夕食の焼そばを作りながら母親の再婚により、戸籍上、兄となった樹と会話。
「お兄ちゃん、何をそこで召喚するの?」
「ゆうくん、何がいいかな? ほんとに出てくると思う? 超常現象研究部として、盛り上がるのがいいなぁって、部長がさ聞いてきて。焼そばまだ?」
ジュワワ。ソースに醤油を混ぜ具材に回しかける祐希、兄弟が揃って在席している部の活動について話をしつつ、にわかオカルトマニアの樹が食卓に肘を付き出来上がりを待っている。
「そうだなぁ、もし出てきたら討伐しやすい『ゾンビ』でいいんじゃない?、渾身の力で、こめかみの辺りを硬いものでぶん殴れば済むし」
「へぇぇ。流石はゆうくん、詳しい。じゃぁ持ってくる物は金属バットにしとこう」
それにしよう。ほこほこと湯を立つ皿の上に、かつお節と青海苔を振りかけながら、その夜の会話は終わった。
そして翌日、都立高校超常現象研究部、部室にて郊外活動に出向く精鋭メンバー、部長、佐藤兄弟に続く2名が、厳選なるあみだクジにより選ばれた。マニアな部なのに美貌誉れ高い佐藤兄弟のおかげで現在、部員数、No.1である。
「選ばれし勇者は金属バットを用意をし、土曜日の夜、バッテングセンターに集合すること」
部長が重々しく話す。あわよくば兄弟のどちらかと、♡
的なラッキーハプニングを狙っている下心もりもりな部員達は、当確した者は男女問わず喜び、アイドルグループの推しメン団扇の様に飾り立てたバットを用意し、ハズレた者達は恋敵達に対し、念を込めた呪いのグッズを用意をした。
ネットの怪談話のひとつを実践すべく出向いた彼等。
『5丁目、挟まれた5階建ての廃ビルを見つけることが出来たら、あなたはそこに招待されている、4階、十字架クロスの形、窓のサッシがある部屋、そこで呼び出せる。魑魅魍魎……、勇気ある者、呼び出してみるがよい』
★
ネットに書かれていた通りに円陣をボロボロのタイル貼りの床にチョークで描き、全員でそれを輪になり囲み『ゾンビ』の召喚を、一心不乱に念じた結果。
「うわぁ! で!出たァァ!こ!これは!」
念が強かったのか、この場に禍あれと呪力の影響なのか、デロデロと姿を現したのは、ゾンビの中でも最強とされる上位種のゾンビ。
「今だ!バットで殴って消せ、完成体になると恐ろしいパワーを出すぞ!」
「イヤ〜! 樹様バットが穢れるぅぅぅ!」
「ダメダメ!祐希バットが汚れるのは嫌だ!」
フシャァァァァ!凄まじい陰気を放ち、円陣から出ようと、蠕き始めたスーパーゾンビ!ジリリと下がる部員達!
「か、噛まれたらどうなるの?」
リアルスーパーゾンビに震えながら、樹ネームを印したバットを握る、女子生徒Aが聞く。
「噛まれたらもちろんゾンビになって、朝が来たら冥界に行くんだよ」
バットよりリーチの長い、マイ鉄パイプを握る祐希が、うっとり見惚れる天使の微笑みを浮かべ教える。
「イヤァァァァ!」
甲高い悲鳴が重なり、スカートをひらめかし、あたふたと部屋から逃げ出す部員。
「血液感染するからな! 気をつけるんだ!」
部長の怒号が飛ぶ。
「血液感染って? な、何なんですか部長!」
「首チョンパした時、飛び散るでしょう、ゾンビ血液が。それを浴びたらゾンビになるんだよ」
祐希ネームを極太マジックで書いた男子生徒Bの問いかけに、名前の持ち主が優しい声で応える。
「嫌だぁぁぁぁ!」
野太い悲鳴が重なり、スラックスの裾を踏みつつ逃げ出す部員。
キシャァァァァァァ! スーパーゾンビが立ち上がり咆哮! そして手を前に差し出すと、指先から滴り落ちるエメラルドグリーンの粘液。ベタン、床に落ちたそれはみるみる内に盛り上がり、ウゴウゴと姿形を創り出す!
「はあ? ぶ、分裂してるのか!ゆうくん、どうなの?」
樹が興味津々で目の先を見つめ問いかける。
「あー。多分、この部屋に満ちている、愛の営みに関する欲望の気を取り込んじゃったのかな……、子どもが産まれてます」
やだなぁ。またかと祐希は思う。
「すると何か? お前ら兄弟に対する部員達のピンクな妄想がゾンビに影響したのか?」
「そうですね。部長、そうだと思いますよ」
渡り船とばかりに即答をした祐希。
(お兄ちゃんに対するエロ妄想を、変な糧にしないで欲しいよ)
ボトン、ボトン……、ウゴウゴウジュウジュ、キシャァァァ、キシャァァァ!、次々産まれるゾンビベビー達!母であり父であるスーパーゾンビは愛しげに我が子を眺めている。
キシャ、キシャァァァ、キシャキシャ、チロチロと残った部員に視線を送り、何やら教える素振りのスーパーゾンビ親。
「て!撤退!」
その様子に身の危険を察知した部長の指示により、祐希と樹もゾンビ達を放置し廊下に出ると、そこにはそれでも推しの2人を放置して逃げれなかった、下心ありありの部員2名がたむろっていた。
「こ! このまま家に帰ったら!」
女子生徒Aが言う!
「家に来る……、よ? ここで倒さないと憑いてくるんだって」
そんなの大変だよねぇと、祐希が言葉につまりつつ答える。
「へぇぇ、ゆうくん、詳しいねぇ、お兄ちゃんびっくりだよ」
父親のゴルフクラブを手にした樹がその場を和ませる様な、のんびりとした声を出す。それに意味ありげに笑い、返事をすることは無い祐希。
(うん、前にやらかしちゃって。その時はぶん殴り方が少なかったんだ。家まで来ちゃった。渾身の力って、なかなか出せない。お兄ちゃんを守る為なら出来た)
だから大丈夫。フフンと祐希がほくそ笑えんだその時!
ガタン! ガガガ! バキッ!ガッシャーン! キシャァァァ!
「うあぁ! ふ!増えてる? に!逃げろぉぉぉ!」
ドアが破壊されスーパーゾンビ家族が、溢れる様に外に飛び出してきた!
『キシャキシャ!キシャー!』
親ゾンビの掛け声
『キシャキシャ、キシャー!』
子ゾンビの掛け声。
「何? えいえいおーって言ってるみたい」
ギロン、ゾンビ達の目がオレンジ色に光った!
駆け出す超常現象研究部の部員!
追いかけるスーパーゾンビ家族!
廃ビルの中を必死に逃げる面々!
廃ビルの中を猛烈に追うゾンビ!
「キャァァァ! カチカチ歯を鳴らして、追いかけてくるぅぅ!」
「噛まれたらゾンビなんだよな!唾液って体液だし、血液の親戚な気がする!」
「そうですよ、歯がムズムズするみたいですよ、子ゾンビ」
だから噛みたい欲求が強いんですよ。祐希が冷静にそう話すのだが、彼の言葉が耳に入っているのは兄、樹のみ。
「どれぐらいの力でぶん殴ったらいいの?」
兄の質問に応じた、祐希! 立ち止まりゾンビ家族に対面すると、一匹の子ゾンビに狙いを定め鉄パイプを上段に構えると、煤けたタイルを思いっきり蹴り飛び上がる!
脳内でただひとつの思考が立ち上がり、パワーを産み出す!
(お兄ちゃんに手出しは許さない!)
こめかみに振り下ろした鉄パイプは、ボガコンと奇妙な音立て見事に命中!
キシャァァァ! 子ゾンビ倒れる!わらわらと倒れた子ゾンビに不安げに群がるゾンビ家族!
「今のうちに! 確かそこの部屋鍵がかかると思う!」
ハイトーンボイスの祐希の声が皆に響く!言われるがままに、示された部屋になだれ込む部員!
「ええ! 今の間に階段で降りたら!」
兄が外に出ようと提案を出す。
「この人数だと、全員逃げ切るのは無理だ!」
部長が判断をし、決定を下した。
★
ハァハァ、ハァハァ。今何時?それぞれがポケットから携帯を取り出し、開いた為に薄ら青くポツポツ照らされる室内。
「助かったの? 祐希君、凄い!」
へたり込む女子生徒A。
「ゾンビって朝日に弱かったっけ?」
へたり込む男子生徒B。
「うん。朝までここに籠城して、弱ったところをやっつけるのもあり。それで。皆トイレ大丈夫?、このビルで使用可能はもちろん無いし。廊下に出たらゾンビがいるよ? 近いのは近所のコンビニだけど」
闇の中から祐希の声。大丈夫、大丈夫と思うとポツリポツリと声が上がった。
時はコチコチと進み行く。
ガリガリ!
ヒッと息を呑む。
カリカリ、キシャァァァ!
うぐっと口に手を当て息を殺す。
金属バットを握りしめる部員達、緊張が部屋を支配している。
――、やだ。トイレ行きたくなってきた。私、昔っから緊張すると、トイレに行きたくなるのよね。ううん! 大丈夫、大丈夫、大丈夫。行きたくない、行きたくない、廊下にゾンビ、ゾンビ、気のせい気のせい……。
女子生徒Aがむず痒く感じ始めた下半身に、叱咤激励をかける。
――、やべ! しょんべんしたくなってきた! あー。気のせい気のせい、気のせい、気のせい……。こう。バットを上手く位置に配して……、と。あとは気合いで……。
男子生徒Bがパンパンに膨れ上がる感覚に陥ってきた、下腹部の存在を打ち消そうと努力を始める。
(フフン、頑張ってる)
その様子を気配で察した祐希。
(誰かがトイレに行ったらなぁ。計画が動くのに)
「あ、ちょっとトイレに行ってくる。今、この前にいない気がする」
ドアに耳をつけ外を伺っていた、樹がゴルフクラブを握りしめると、鍵を開けスッと部屋を出ていった。息を呑む面々、お兄ちゃん、何やってるのと鉄パイプを握りしめ、後を追うか迷う祐希。
……、……、キシャァァァ!!、うぉらぁぁぁぁ! トイレの花子さんの次はお前かぁぁ! ボカコン!
ドアの外で戦闘音がしたあと、スッキリとした表情の樹が無事に戻ってきた。
「はあ。スッキリした。いやぁ参ったよ、そこにトイレがあってさ、勿論、流せないけど……、なんと、個室を開けたら花子さんがいたんだ。で一匹いたから……、ん?みんなどうしたの?」
女生徒A並びに男子生徒Bから、切ない視線が向けられている樹、それぞれに携帯を開いているため、緊張状態の顔が浮かび上がっている。
――、だ、大丈夫。大丈夫。うぐ、それにお二人の前でトイレに行きたいなんて、絶対言えない!我慢よ!我慢、我慢、我……。
――、男だし、樹みたいに一か八かで廊下に出てトイレ、トイレって何処!花子さんって、何! その辺で、マーキングいや!だめだ。そんな道徳的にいけない事は、祐希にダメな奴だと思われたら、我慢。我慢、我……。
「どうしたんだ? みんな、顔色が……」
「私! 行くわ! 近所のコンビニ!」
樹の問いかけに、女子生徒Aがフルフルしながら立ち上がる!
このままでは人生においてやってはいけない展開を迎えそうになっている事を、彼女の膀胱がピンピンに知らせている。
「お! 俺も行く!」
彼もまた、これまで生きてきて最大の危機に接している。早くしなくては破裂決壊、洪水の恐れありと知らせる脳内から司令が飛ばされている。
「部長! ゾンビの一匹や二匹!、樹や祐希だって倒したんですから!」
俺はコンビニに行きます! 男子生徒Bが金属バットを握りしめ、部長の返事を聞かずドアを出て飛び出して行った!
後を追う女子生徒A!
「追うぞ」
部長が即決を下した。
★★★
AとB、二人の脳内は共に同一思考に侵されている。一刻も早くトイレに行きたい! 漏れそう!、その事だけがクローズアップ!
キシャァァァ! ゾンビ家族が彼らを見つけ歯を剥き襲いかかる!
「うらうぁぁ! どけえぇぇ! 漏らしたらどうしてくれるんだぁぁ! コンビニぃぃ」
Bが階段に向かいながら、金属バット構え狙いを定める!
(ヤベェェェ!、漏れそう……)
トイレトイレトイレトイレ、ハヤクハヤク!
「イヤァァァァ! 来ないでぇぇ!」
AがBに従い走りながら向かって来る、子ゾンビにバットをブンブン振り回した! ボカコン!
(当たった!! ひー! それよりトイレ! 出そうぅぅ)
トイレトイレトイレトイレ、ハヤクハヤク!
二人の思考能力は極限まで狭まっている!パニック寸前に陥ってきたAとB!
ゾンビを倒してトイレに向かう、気を抜くとお洩らしの大ピンチ!
鼻筋通ったイケメン樹の前で恥ずかしい展開に!
天使の様な可愛らしい祐希の前でお洩らし!
それぞれの脳は最悪な未来の展開が支配している。
「へぇ、ふたりともやるねぇ」
部長が加勢に加わりつつ、感嘆の声を上げる。
「ありりゃ。僕が殴っても復活しちゃう」
「もっと思いっきり行ったらヤレますよ」
樹がゴルフクラブを握りしめ、スーパーゾンビ親に狙いを定めながらアドバイスをする。その間AとBが白目を真っ赤に充血させながら、着々と子ゾンビ達を片していく。
「コンビニぃぃ!」
「漏れるぅぅぅ!」
走って走って! 振り上げ狙いを定め、襲ってくる噛みたい盛りの子ゾンビ達を、ボカコンボカコン頭部を音立て殴る火事場のクソ力が、いかんなく発揮されている。
(ここまで二人がやるとは思わなかったけど、お洩らしの危機って大変だな)
祐希が鬼気迫る二人の様子を見ながら、リーチの長い金属パイプを握りしめた。廊下はスーパーゾンビ家族の陰気が燐光を発し、奇妙に薄らと明るい。異空間に飛ばされたかの様。
「ゆうくん! 親の方、二人で力を合わせよう!」
その様子に気がついた兄からの清々しい声が、祐希に届く!
(お兄ちゃんとゾンビを倒す為に力を合わせる、それもいいけどね!)
頭の中に浮かぶ不埒な妄想を兄に悟られぬ様、ふいっと打ち消すと、わかったと返事。
「僕は動き出しそうなのを、もう一度叩いとく!」
部長ができる事を考え行動をする。
キシャァァァ! 残り少ないゾンビ家族が、超常現象研究部、部員達に最後の悪足掻きを仕掛けてくる!
「どっけぇぇぇ! コンビニに行かせろおぉぉ」
男子生徒Bが、本能のままに吠える!
「コンビニぃぃ! イヤァァァァ!」
女子生徒Aが既に思考をそれに乗っ取られ、恥も外聞もなく叫ぶ!
トイレトイレトイレトイレぇぇぇ!
モレルモレルモレル漏れそぉぉぉ!
「近所のコンビニぃぃ!」
渾身の力を振り絞り、ゾンビ家族を撲殺していくAとB。
その様子を天使の様な微笑みで見守りつつ、愛しの兄と共にゾンビ親との対決を始める祐希。
「渾身の力って、何かを守る時に最大限発揮されるんだよね」
フフフンとこみ上げる笑いを押し殺し、祐希は倒れ伏すゾンビ達の身体からユラリと放たれる、エメラルドグリーンの燐光の中、鉄パイプを握りしめ上段に構えた。
終わり
仕事帰り道、トイレに行きたくなってねぇ。
ふと浮かんだネタでした
お読み頂きありがとうございました。





