砂時計は透明なまま
初めての短編小説です......!
好評だったらシリーズ化します!
(挿絵ありです)
砂時計。それは、昔からある時計で、ろうとが二つくっついたかのような形状をしており、その下の方に砂が入っている。
地球には重力がある。したがって砂を上から落とせば下へ落ちていく。その原理を利用し、時計にしたものが砂時計だ。
ひっくり返すと、下にあった砂が上に来る。しかし上にとどまれるのは一瞬だけで、その後は重力に寄って落ちてゆく。
落ちていく速度で時間を測るのだ。
いままで沢山の人が、砂時計を使った。
そしてこれからも、砂時計は時間を測る。
これは、砂時計を使った人の、ほんの一部の物語。
「おじいちゃん、これ何?」
一人の無邪気な少女が聞いた。少女は夏休みに祖父母の家にやってきたのだ。都会育ちの彼女にとって、毎年訪れるこの自然たっぷりの祖父母の家に来れることが何よりも嬉しいことだった。
そんな祖父母の家に、前はなかった物があった。好奇心旺盛な少女は、大好きな祖父に聞く。
「ああ、それは砂時計といってね、時間を測ることができるのさ。それは3分たったら教えてくれるんだ」
少女はとても驚いた。
「ええ!?これ時計なの!?」
「時計と言っても何分くらいしか測れないよ。今は砂が下の方に溜まっているだろ?」
少女はうなずく。
「コレをひっくり返すと.....」
祖父がひっくり返す。砂が上に行き、その砂がまた下へゆっくりと落ちていく。砂はとても白く、落ちていくさまはまるで星のようだと少女は思った。
「きれい.....」
「この砂が全て落ちきったら3分経ったということなのさ」
「そうなんだ。すごい......」
祖父が行ってしまっても、少女は全て砂が落ちきるまで眺めた。
全て落ちきってしまうと、少女は不機嫌になる。
「ああ、もう3分経っちゃったの?」
ずっと落ちていくさまを見ていたい少女は、残念でならなかった。
「そうだ!もう一回ひっくり返せばいいんだ!」
少女は砂時計を手に取る。砂が入っている筒は硝子で出来ており、触れるとひんやりとして冷たかった。少女は初めて砂時計をひっくり返した。
砂がまた落ちていく。また星のような粒がさらさらと落ちていく。
少女は3分経ってはひっくり返し、また3分経ってはひっくり返すを繰り返した。
少女がそうやってずっと砂時計の前にいると、祖父が帰ってきた。
「おや、そんなに気に入ったかい」
「うん!すごく綺麗!」
「そうかい。よかったらあげようか?」
「え!いいの?」
「もちろんさ。家に持って帰ってもいいよ」
少女はとても喜んだ。
「ありがとうおじいちゃん!」
少女は満面の笑みを見せて笑う。祖父もそんな孫が好きだった。祖父も笑う。
やがて少女は夏休みが終わり、家に帰ることになった。
夏休みの間、少女は砂時計をお守りのように大事にしていた。
家に帰って数週間経っても、少女は自分の部屋で砂時計をひっくり返して眺めていた。
5回目にひっくり返した頃だろうか。
さっきまで見えていた風景がなくなっていた。少女は紫色の空に、星が沢山ある場所にいることに気づいた。
「え?ここどこ?」
少女はさっきまで自分の部屋で椅子に座って砂時計をひっくり返していた。しかし今は満点の星空の中に体がうかんでいる。砂時計も浮かんで漂っている。
少女は知らない空間にいて、不安があったけれど、優しく包んでくれるような紫色の世界に、不思議と恐怖はなかった。
少女は砂時計を手に取る。そして、砂時計の中に砂が入っていない事に気づいた。
(砂がどこかで落ちちゃったのかな?いや、違う)
少女は周りを見渡す。星が沢山輝いている。そして、その星はどれも砂時計の砂と同じ、白色だ。
砂が、たくさんの星になったのだ。
空になった砂時計を抱きしめて、不思議な空間の中をさまよう。
ふわふわと飛んでいるような感覚だ。なぜだろう、怖くない。
少女は砂時計を見る。砂はもう入っていない。空っぽだ。
もうひっくり返しても時間は測れない。しかし、少女は砂時計をひっくり返した。
その時、輝いている星たちが砂時計に近づいた。少しづつ小さくなって、砂時計の硝子を通り抜け、砂時計の下に溜まってゆく。
ただ白いだけだった砂が、光を宿した砂となって集まってゆく。
少女はその様子を眺めた。
全て星が小さな砂に戻って時計の中に入り終わったその時、少女は元の部屋に戻っていた。
どうやら眠ってしまったようだ。
「夢?......あ、砂時計!」
砂時計の中の砂が輝いていたら、夢じゃなかったということになる。急いで砂時計を見る。
砂時計の中には、全く変わらない白い砂が入っていた。
「やっぱり夢か......」
安心したような、残念なような気持ちになった。
もう夜も遅い。少女は眠ることにした。
ベッドに潜り込み、目を閉じる。
少女が寝息をたてて、眠りも深くなった時。
砂時計は光りだす。
ずっと砂時計は探していたのだ。
純粋で、無邪気な者を。
『星』を、見せても問題ないか。
砂時計の中にある砂は、星の魔法がかかっている。
......なんて、誰も信じてくれはしない。
たった一人、無邪気な少年だけを除いて。
砂時計は昔に、今の少女のような少年に出会ったことがある。
砂時計は好きだった。彼のことが。
しかし、彼は事故で亡くなってしまう。
それ以来、砂時計は様々な人のもとを転々とした。
砂時計は、どんな人に出会い、どんな事を経験したのか。
......それは、誰も知らない。