日常は終わりがない。
アーテル国では毎度お馴染み、どんより雲である。
皆々、空を見上げればため息をつく人がほとんどである。
それでも朝はきて、一日が始まってゆく…。
カレンダーの日付を確認し、今日が何月何日であるのか、その者は確認した。
確認した所で大した変化はないのだが、また今日も新たな一日が始まったのかと、その者は思った。
「はぁ?おとーとおかーのなれそめ?」
ココアウサギの獣人の女の子、赤城 史織は友人を眼だけを動かし見つめた。
視界にはふわふわで長い白い毛の友人の顔が映る。
「なにそのしつもん、いみわからん」
友人の顔から眼を動かし今度は前を見つめて、史織は改めて考えた。
あまり気が進まないが、最近では友人の事が気になり、学校へ一緒に行くようになった。
質問を投げかけた友人は、黙って歩いている。
「あら、しおりちゃんとみゆきちゃん、おはよう」
声の主はオカマのような喋り方で有名なコアラの獣人男性だった。
二人は足を止め、その男性の方を見た。
黄色い女性用エプロンをかけ、背中にはおんぶ紐を使って赤ちゃんを背負っている。
「おはようございます、コアラさん」
二人の声はズレたが、同じ言葉を口にした。
「今から学校に行くのね、気を付けていってらっしゃい!」
「はい、いってきます」
やはり声がズレる。
しかし、そんな事は誰も気にしない。
双子ではないのだ、声がズレるくらいじゃ誰も気にしないのは当たり前である。
二人は再び歩き始めた。
「で、なれそめは?」
ペルシャネコの獣人の女の子、深雪が並んで歩く友人に聞いた。
「しらねー、そんな事、きょーみないし、あーでも今日やたらとおとーとおかーがカレンダー気にしてたな」
「まさか、けっこんきねんびとかだったりしてね」
「ちがうな」
「なんで?」
「けっこんきねんんびは私のたんじょうびだから」
「えっそうなの?」
「うん」
「知らなかった」
「おかーとおとーの事なんて、どうでも良いからおしえてない」
「じゃあ、帰ったらウチのお母さんにでも聞いてみようかな?」
「あー、おばさんなら知ってるかも」
「じゃあ、そうしよう」
「でも、なんでそんな事知りたいの?」
「とくにいみはない」
「変なの」
深雪はそのまま、しばらく何も喋らなかった。
その者は普段から、ほとんど屋敷の中で過ごし、暗い部屋の中で生きている。
過去を思い出し、後悔やら恨みやらといった暗い感情を常に頭の中で巡らせている。
自身が暗い影のような者になれたら…とずっと思っている。
日常はいつまでたっても終わらなかった。
時間が進むだけ進んで、年を取り体は少しづつ老体へと向かっているようだ。
年齢はもう、いくつになったのだろう…。
思い出せる事は無さそうだ。
自分が結婚した時を、その者は思い出していた。
祝福され、華やかな世界の主人公であった。
しかし、結婚生活は上手く行かなかった…。
ココアウサギの獣人男性は、酒に溺れつつ、自分が結婚した時を思い出していた。
この生活はそこから始まった。
「翔、子供が出来た、ヤバイ…おかーとおとーに怒られる」
「なんだそれ、オレもじゃん」
幼馴染という訳ではないが、狭い村で育った翔平と晶子は、昔からの知り合いであり仲間だった。
なんだか適当に付き合い始め、カップルとして過ごしてきた。
その矢先、晶子は妊娠した。
「オレら、結婚とかしねーといけねーのかな?」
「えー!あたい、翔とは結婚したくない」
「な、おまえ」
「うそ!相手が翔なら良いよ、毎日一緒にいてたのしーし、赤ちゃん育てたい」
「パパーとか呼ばれちゃうのかなー、やべー!オレ、お父さんとか良い親父になれっかな?」
「翔なら、大丈夫だよ、あたいが選んだ人だもん!」
その後、二人の間に子供が生まれたが、籍はまだ入れず、同棲カップルとして子供を育てていた。
何年かして、子供の誕生日に籍を入れる事にした。
二人は夫婦になって、今の家に住み始めた。
あれから幾年も経ち、今がある。
夫婦愛はいつの間にか冷め切り、お互いがお互い、不倫状態である。
それでも家族として生活しているのは、特に意味はない。
ただ、それが居心地の良い生活であるから、止められないだけである。
終わり