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裏話と番外編  作者: まるみ
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ウィリアム先生へ

その日は、アーテル国でも珍しく晴天が続いていた。

アーテル村に住むコアラの獣人男性の元に、とある不審な手紙が届いた。

差出人は彼の母国に住む人だろう、封筒には母国語が書かれている。

”なぜこれが?こんな遠い国に届くんだ?”

彼はそう思い頭を左側に傾けた。



『ウィリアム先生へ』

中身の手紙はそんな言葉から始まった。

彼をそう呼ぶのは、今ではとても珍しい事だった。

彼は今、先生とは呼ばれる職業には就いていないからである。

母国語は今でもしっかりと読み書きも喋る事も出来る。

忘れる事は無いが、今はほとんど使わない言葉である。

懐かしさはあれど、なんせ奇妙としか思えなかった。

そんな手紙の内容は随分幼さが残っていた。

小学生が書くような手紙の内容だが、文字の感じからいわゆる”国語が苦手”という印象が強い。

中身を読み進めると、どうやら彼の教え子のようだ。

遠い昔、忘れたい過去が蘇ってくる。

「なぜ今更…」

思わず独り言を呟やいてしまった。

読み進めると、差出人は教師として最後に受け持ったクラスの生徒らしい。

文章には『先生が教師を辞めてしまい、非常に残念だった』と書いてあった。

その次には『先生に教わる授業は結構楽しく、学校嫌いな私でもその瞬間は楽しかった』と書いてあった。

確かに彼女は、ある意味思い出深い生徒だった。

大人しく、周りに溶け込めないタイプの女の子だった。

発言もほとんどしないし、声は小さく、いつも自信なさげに喋る子だった。

あぁ、何か思いだして来たな…と彼は思った。

しかしもう何十年と経っている。

本当に今更…といった感じが拭い去れない。

しかし手紙の文字を見ていると、確かに本人だな、と思えた。

彼女の文字は、とてもじゃないが下手である。

当時から文字が上手く書けなかった。

頭が良くないのか勉強が苦手な子だった。

だからといってスポーツなら…といってもスポーツも成績は確実に下にいる。

とにかく成績は学年でも一番下の方にいる。

彼女が学校が嫌いな理由は沢山あったのだろう、そりゃ嫌いになってもおかしくない、と彼は当時そう思っていた。

”大人になったらどんな女性になるのだろう…今から心配だ”

そう、当時は思っていた。

そんな彼女からの手紙は、色々な人を介したらしい。

人と付き合うのがものすごく苦手な彼女からは想像つかない人脈を得て、現在彼の手にある。

しかし、手紙の中の彼女は昔のままの彼女ではないようだ。

読み続けて気付いた。

”大人になって多少、コミュニケーションを覚え、少し積極性になったのか、基本の部分は変わってないようだが、良い意味で変わったのか…”

彼女の手紙には、現在の職業と結婚して子供がいると書かれていた。

”そうか、元気に生きてるのか、大人の女性として、母として…”

あの時の心配は必要なかったらし。

今、彼女は笑顔一杯の生活をしているらしい。

最後に『先生のお陰で、私は今を生きています、後悔がずっと残ってた…でもやっと先生に伝える事が出来る、先生、私がいたクラスの担任の先生として、出会えて良かった。ありがとう!今、私は幸せだからあの時のように心配しないで!』と書いてある。

その文字を見た時、目に涙が浮かんでしまった。

何十人もいるクラスの、地味で目立たず、勉強もスポーツも苦手で成績はつねに下、そんな生徒から手紙が届いた。

現在の彼女が幸せである事がとても嬉しかった。

「少しの間でも、教師という職業について良かった、辛い事ばかりに目を向けてばかりいたが立ち直れて良かった」

独り言を呟くと、ピアノを弾きたくなった。

家の中にある白いグランドピアノ

手に触れると色んな思いが込み上げてきた。

ピアノを弾く準備をし、椅子に座った。

彼は母国でよく歌われる曲を弾き、気持ちよく歌い始めた。



終わり



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