休日が待ち遠しい
ジジジジジ、ジジジィィ
洗面所に無機質に響く髭剃りの音。
俺の会社の朝は早くて、5時半に起きては6時に出勤。朝起きてやることといえば、ジャムも塗らずに食パンを頬張って、髭を剃ることぐらいだ。コーヒーを飲む時間もない。
仕事場に着いたらきっちり8時間労働ーーーーの後に恒例の残業付き。仕事量があまりに多いため、普通に仕事しているだけでは終わらないのだ。
危ないグレー、ほとんどブラック寄りだが、仕事にはやりがいを感じている。
帰るのは0時過ぎ、冷めた飯を食べ、シャワーを浴び、寝るだけだ。
「ふー......」
ただまあ、やりがいがあるといっても疲れは溜まる。
最近では朝の髭剃りすら、億劫になってきた。
それでも過剰労働にたえ、朝の髭剃りを欠かさない理由があるとすればーーーー
「パパ?」
洗面所の扉を開ける小さな手。
まだ6歳。小さな子にはとても早い朝だろう。まだ開ききらない目をゴシゴシと擦るっている。
「......奈々美、おはよう」
「っ! パパぁ!」
その小さな生物は先ほどの眠気はどこへやら、物凄い勢いで俺の脚へしがみ付いてくる。
「パパぁ? 今日もおしごとガンバってくるの?」
「ああ、そうだよ」
俺は顔を拭き、奈々美をそっと抱き上げる。
「じゃあねっ、じゃあねっ、奈々美ね、今日こそはね、パパがただいまするまで起きててね、肩もみするの!」
きゃっきゃっ、と奈々美に満開の笑顔が咲く。
「ためだぞぉ、早く寝ない子はパパがお仕置きしちゃうからなぁ」
その小さな鼻を摘み、ぐりぐりすると奈々美は「きゃーっ」っと暴れだす。
ジャレついていると、もう1人が洗面所の扉をノックした。
「あなた、コーヒー。淹れといたから」
「っ! ......ありがとう、今飲むよ」
「うん......朝早くからお疲れ様。無理、しないでね」
「......分かってるさ」
俺が、朝早くても、どんなに疲れていても、髭剃りを欠かさない理由。
それは、もしかしたら愛する妻と娘が、その音で起きてくれるかもという些細な願いからだった。
これは、幸せを拗らせただけの、若いサラリーマンの朝の一幕である。
ここまでお読み下さり、ありがとうございます。