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六話『女子寮のクイーン』

 入学式は翌日と言うことだったので、私は女子寮の管理をされているフリーダ女史から今日から三年間過ごすことになる女子寮の案内をしていただいている。


「女子寮は現在五十八名のご令嬢が生活されておられます、管理の都合上王族、公爵家のご令嬢は個室、それ以下のご令嬢は家柄の釣り合いを見ながら二人部屋で過ごされております」


 長い廊下を美しい所作で足音すら最小限に進んでいくフリーダ女史の後についていく。


「荷物を持ったままでは動きにくいので先にユリアーゼ嬢のお部屋に参りますね」


 そう言って案内されたのは階段を三階分上がった四階の角部屋だった。


 ありがたいことにトイレは各階の中央階段の脇に共同の物があり個室に浴室とトイレがある二階の個室以外はみなそこを使用する決まりになっているらしい。


 一階には食堂や共同浴場、余暇室などの共用スペースがあり、二階に王族公爵家の個室、階が上がる事に爵位もさがるらしい。


 エレベーターなんてないこの世界において上るのが大変な最上階は使用人達が使用する。


 そしてフリーダ女史、フリーダ侯爵家の先代侯爵夫人で家督を娘夫婦に譲ったあと、夫婦でそれぞれの寮の管理者の仕事をしているらしい。


 あらかた案内を終えて一階へと戻ってくると廊下の奥からドレスを纏った女子生徒が五名こちらへ向かって進んできた。


 なかでも一際目を引くのは先頭を歩く美少女だ。


 まるで大粒のエメラルドのような澄んだ瞳は彼女の意志の強さを反映したように引き締まり、美しいプラチナブロンドの長い髪は緩やかなカーブを描き、長い前髪は右から左へと編み込まれている。


 カチューシャをするように編み込まれた髪がまるでティアラのようだ。


 長髪は隙なく整えられており、両耳の脇の複雑な髪型は正面から見ると蝶の羽根か大きなリボンをしているようにも見える。


 一級品たとわかる深紅のドレスを纏った姿はそのおそろしく整った顔もあいまって人形のようだ。


 進路を譲るように脇によけたフリーダ女史の真似をして急いでその隣へよけてフリーダ女史にならって頭を下げる。


 表向きラフィール学園は貴族の家柄による格差を排し権威を振りかざす行為は認められていない。


 学園内部では平等に教育を受けられ、生徒同士が切磋琢磨し、身分を問わず友人関係を築けるようにしましょうなんて歌っているもののはっきり言って詭弁にすぎない。


 社交界の前哨戦、小さな社交界、ラフィール学園はそう呼ばれている。


 侯爵家の前侯爵夫人が頭をたれる人物、それはさらに高位のご令嬢しかいない。


「フリーダ様、そちらのかたは新入生かしら?」


「はい、アゼリア子爵家のご令嬢でユリアーゼ嬢です。 ユリアーゼ嬢、こちらは二学年のアンジェリーナ・クロウ様、クロウ公爵家のご令嬢です」


「おっ、お初にお目にかかります、アゼリア子爵家の次女、ゆっ、ユリアーゼ・アゼリアと申しましゅ」


 かっ、噛んだ。 思いっきり自己紹介で噛んでしまった、恥ずかしすぎて顔が熱い。


 アンジェリーナ様の後ろから付いてきていた四名がそんな私をみてクスクスと笑っている。


「あなたたち、控えなさい。 今日から貴女はラフィール学園の一員、私の後輩になるのです誇りをもって勉学に励みましょうね」


 そう言って微笑むその神々しいまでの美しさに惚ける。


「がっ、頑張ります!」


「それでは失礼しますフリーダ様」


 優雅に去っていくアンジェリーナ様の後ろ姿を見送った。


「今のが現在のこの女子寮で最高位貴族のアンジェリーナ公爵令嬢です、そして今年御入学されるレオンハルト・グランデール王子の婚約者でもあります。 学年も違いますからラフィール学園でご一緒する機会はあまりないと思いますが、頭に入れておきなさい」


「はい、ご指導ありがとうございます」


「それでは案内を続けますよ、一階は……」


 フリーダ女史の後ろに続きながらアンジェリーナ公爵令嬢の事を思い出す。


 そしてその婚約者の名前、アンジェリーナ……レオンハルト……なんだっけ? 


 あれでもないこれでもないと悩み続け、全く案内が頭に入ってこない、記憶の片隅に引っ掛かる違和感を抱えながら私は入学式の朝を迎えたのだった。

  



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