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二十九話『癒やしの聖女降臨』アウレリオ視点


「アウレリオ、殿下とご令嬢は無事だとおもうか?」


 隣を馬で並走する同じ討伐組の生徒が声を掛けてくる。


「わからない、こんな異常事態に遭遇したことがないからな」


 飛び出した木の根や岩の段差など走りにくい場所ながら、馬たちは器用に回避しながら進んでいく。


 それでも木の根すら届かない深い地中をすごい速さで進むことが出来る土竜の進軍速度は恐ろしいものがある。

 

  レオナルド殿が、魔寄せの薬を被り単身で森へと姿をくらましたユリアーゼ様を追って行ったと聞いてゾッとした。


「俺たちが行ったところであの怪物を倒せるとおもうか?」


「……わからない、いやわかりたくない。 だが行かないわけにも行かないな」

 

 まるで示し合わせたように同じ方向へ走り続ける小型の魔物達はユリアーゼ様やレオナルド殿下へと続く道標のようだった。


 しばらくして突然魔物が目標を見失ったように散り散りに森へと消え始めた。 


 その突然目標を失ったように見えるその光景はもしかしたらレオナルド殿下やユリアーゼ様の身に何かあったのではないかと嫌な不安が募る。


 逸る気持ちを抑え込みながら、進路はそれまで魔物たちが進んでいた方角に固定したまま先を急ぐ。


 視界が開けた瞬間、俺は息を飲んだ。


 湖の畔に横たわる巨大な土竜の死骸の迫力に圧倒され、次に血だらけで倒れたレオナルド殿下の身体を慈しむように抱き寄せたユリアーゼ様が眩い緑色の光を纏っている。


 キラキラとした光は次第にレオナルド殿下へと移動して大小様々な傷口を塞いでいく。


 それだけではなく次第に光は大きくなり緑色が薄くなりあたり全体に広がると重く暗かった森の空気を押し流し始めたのだ。


 新鮮な空気が光を含み湖は浄化され、急いでかけてきた俺たちにも光が届く。


「おいっ、みろ! 傷が治っていく!?」


 一人が声を上げ始めると次々と騒がしくなった。


 それはそうだろう、俺ですら自分の身に起きた奇跡に呼吸を忘れるほどの衝撃を受けているのだから……


「女神が……いや伝説の聖女が現れたのだ!」


 そう、魔法が発達したこの国だが治癒や浄化などの力を扱えるものなど歴代でたった一人を除いていなかったのだから。


「聖女様!」


 興奮のあまり暴走仕掛けたこの状態は決して良いとは言えない。


「ここに居る者たちへ聖女に関する全てのことを口外法度とする! この件は国王陛下へ奏上するまで一切話してはならぬ! いいな!」


 そうもし聖女について漏れればユリアーゼ様は諸外国から狙われることになるだろう。


 それほどまでに大地が穢れ各地で魔物が溢れているのだから。


 土竜の死骸処理や付近を彷徨いている魔物狩り、本部への伝令など次々と指示を飛ばし、ユリアーゼ様と意識のないレオナルド殿下の元へと駆けつける。


 疲れはてた様子のユリアーゼ様に事情を説明し、本部から負傷者搬送用の担架が運ばれてくる。


 このまま担架を守りながら森抜けるのは危険だと判断されたようで、最短で森を抜けられる場所に馬車を用意することになった。


 気丈に振る舞っていたが担架に乗せられて搬送されていくレオナルド殿下の姿が視界から消えると、ユリアーゼ様はその場で意識を手放してしまった。


「ユリア!」


 グラシアの声がして振り返ればどうやら遅れていたグラシアが到着したらしく、婚約者(おれ)を素通りして一目散にユリアーゼ様の元へと走っていく。


「アウレリオ、ユリアが!ユリアが死んじゃった!?」


 意識を失ったユリアーゼ様を抱きしめながらこちらへ泣きながら助けを求める滅多に見られなくなったグラシアの泣き顔と混乱する姿に不謹慎ながらトキメキを覚えつつグラシアを抱きしめる。


「大丈夫だ、疲れて気を失っているだけだ」


「本当?」


「本当だ、小柄なユリアーゼ様なら非常用の組み立て式担架で大丈夫だろう。 グラシアはユリアーゼ様に付いていてくれ」


「わかった! 僕に任せて!」


 うむ、我が婚約者が一番可愛い……


 私達討伐組が本部に戻った頃、本部には既に魔物の暴走した経緯について事情を聞いたのだろうこの国の三つある騎士団のうち一つが集まっていた。


 主に王城やそこに住む王族、高位官僚を守ることが仕事で団員の大半が貴族籍の令息や令嬢で構成されている近衛騎士団。


 優れた魔力を有しており、魔法技術の開発や魔法が必要な場面に対応する魔法騎士団。 

 採集組は既にそれぞれ騎士団の護衛を受けて学園へと帰還している。


 そして俺の目の前にいるレオナルド殿下が騎士団長を務める実力者揃いの魔武騎士団。

 

「君達が土竜に遭遇した者達だな、あちらで話を聞きたい」


 そう言ってこちらへやってきた壮年の男性に視線を向ける。


 服で着痩せするのかスラリとした身体は戦いに必要ない余計な筋肉や脂肪をすべて削ぎ落としたと言わんばかりに鍛え上げられていることを、俺は学園の特別授業で嫌というほどに叩き込まれた。


 魔武騎士団の副団長でレオナルド殿下を育て上げた師匠でもある。


「ゲオルグ副団長、ご報告いたしたいことがあります」


 私から話を切り出すとゲオルグ副団長が力強く頷いた。


「こちらも、話を聞きたいと考えていたところだ」


「人払いをお願いしたいです」


 私の言葉にゲオルグ副団長が頷くと、それまでそばにいた側近たちが声が聞こえないくらいに離れていく。


「人払いをしなければならないほどとは一体何があった?」


「メティア侯爵令嬢が同じ採集組のアンジェリーナ・クロウ公爵令嬢とユリアーゼ・アゼリア子爵令嬢へ魔寄せの原液を一瓶掛けたようです」


「なんだと!?」


 副団長の反応は当たり前だろう、魔寄せの薬を扱う者にとって魔寄せの薬原液を一瓶まるまる使うなど正気の沙汰ではないのだ。


「ほぼ被ってしまったユリアーゼ様が機転を利かせ、少量掛かってしまったアンジェリーナ様へ持っていた魔除けの原液を振り掛け、地面にも原液を振り掛けて自らをおとりとしたようです。 その際に、メティア侯爵令嬢から魔寄せの入っていた瓶を奪って行ったおかげで本部に避難した大半の生徒が助かりました」


 この辺の事情は既に採集組にいた護衛役の生徒に聞き及んでいるのだろう。


「我々討伐組は例年通り、森の奥で希釈した魔寄せを用いて弱い魔物を狩っていたのですが、突然魔物が暴走を始め、地中から現れた土竜に生徒が一名捕食されました」


 それから俺達は魔物を追ったこと、メティア侯爵令嬢の死に様などを順を追って説明し、最後にこの目で見たユリアーゼ様の起こした奇跡について報告した。


「浄化に癒やしの力か……厄介だな」


 とりあえず報告しなければならない事案はすべて説明した。


「討伐組集合!」


 号令を掛けて近くにいる討伐組を集めると、副団長の前に整列する。 


「ここからは私が対応するので引き続き口外しないように、この非常事態によく耐えた! 貴公らが騎士として我が騎士団へ入団するときを楽しみにしている! 解散!」     


「はっ!」


 はぁ、疲れた……グラシアで癒やされたい。

     

    


 

      


 

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