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十三話『見つけた!』

 目が覚めるとまたもや見慣れない天井が……うん、知らない天井だ。


 ゆっくりと身体を起こせば、どうやら黒皮張りの立派なソファーに寝かされていたらしく、触り心地が良い布が身体に掛けられている。


 回りを見渡せば保健室とも自室とも違う洗練された内装は豪華な調度品が品よく設置されている。


 どこよここ……


 成金趣味丸出しの実家とはまるで月とすっぽんだ。


 いや、この世界にすっぽんがいるかも分からないんだけどね。


 なにやらガヤガヤと部屋の外が騒がしいなぁと思っていたら、バンっ!と勢いよく扉が開かれてその勢いのまま部屋に入ってきた二人のうちのひとりに目を見開いた。


 短く整えられたり艷やかな赤い髪と瞳のアイスブルーの虹彩は冷たく、いや高温の炎のようで見るものを畏怖させるほどに眼光が鋭い。


 美形と言うよりは偉丈夫のほうが似合うだろう、初対面の男性から目が離せない。


「おっ、良かった。 目が覚めたようだな」


 声変わり前の記憶の中に残る声とは違う低い声も聞いたことがない。


 顔も、目の色も、髪の色や髪型も、低い声も、体つきも全てが違う。


 違う、違う、違う、でも目が離せない。


「おっ、おい!? もしかしてどこか痛むのか?」


『優里亜!? もしかしてどこか痛むのか?』


 問われた声に記憶の中の大好きな声が重なる。


 慌てたようにこちらへ伸ばされた大きな手は節々が太く、固くなった手のひらが私の頬を優しく撫でた。


 まるで壊れ物を扱うように優しく涙を拭う青年から目が離せない。


「セシル、まさか泣かせるような無体をご令嬢に働いたんじゃないだろうな」


「してませんよ、殿下は自分の顔を鏡で客観的に確認なさった方がよろしいですね、そんな凶悪そうな顔で見つめられたら大抵のご令嬢は恐怖で気を失ってしまいますよ」


 セシルと呼ばれた青年に視線を向ければ、壁に押し付けるように拘束してきた攻略対象者(仮)だと気が付いた。


「それに初対面の女性の顔に無遠慮に触るなど紳士としていかがなものでしょうね」


 二人の遠慮ないやりとりからこの二人には信頼関係が出来ているらしい。


 生前もそうだった、友人を大切にする姿は今も昔もかわらない。


「おっと、すまん」


 離れていく男性の手に無意識に追いすがりかけて、ビクッと身体が震えた。


「いえ、このような姿で失礼いたしました。 ゼイル・アゼリア子爵の次女ユリアーゼ・アゼリアと申します」


 なんとか立ち上がり名前を名乗る。


 攻略対象者(仮)はこの青年を殿下と呼んだ。


 殿下とお呼びする相手は限られているはずだ。


「レオナルド・グランデールだ、こっちの腹黒はセシル・マクレガー」


 グランデールを名乗れるのは直系の王族のみだ。


「腹黒とは失敬な、マクレガー公爵家の次男セシル・マクレガーです。 レオナルド殿下には馬車馬のようにこき使われております」


 現在の当主であるマクレガー公爵は、グランデール王家を支える宰相だ。


 初めて会ったときのように見事に猫を被っているらしくセシル様は柔和に微笑んで見せてくるが、本性を知ったせいか、余計に警戒心がわいてくる。


 そしてセシル様は(仮)ではなく正真正銘攻略対象者様だった。


「レオナルド殿下……」


 ぽそりと口から溢れた名前を噛み締める。


 そう、もう他の攻略対象者を探す必要はない。


 だってこの人だと、この人が前世で恋い焦がれた出雲勝也(いずもかつや)だとなぜか確信できた。


「※※※※※(勝っちゃん)」


 名前を呼びたくても、制約が邪魔をして口から名前が出ない。


 目の前で何やら言い争いを始めたレオナルド殿下とセシル様を呆然と眺める。


「と言うことなんだけど協力してくれないか?」


 良い笑顔で声を掛けてきたセシル様の言葉に思考の渦から引き戻された。


 やばい、聞いてなかった。


「えっ、はい。私ができることなら」


 反射的に了承の返事を返せばレオナルド殿下があちゃーと言うように額に手を当てて首を振った。


 えっと、あれ?


「それじゃユリアーゼ嬢、レオナルド殿下の学園内での侍女役よろしくね」


「………はい!?」


「セシル、俺は侍女など必要ない」


「何言ってるんですか、自意識過剰なご令嬢の代表みたいな女性は嫌だっておっしゃられたのは殿下ではないですか、前の侍女役が殿下に媚薬を盛ったんだから仕方がないではありませんか、風除けは必要でしょう」


「しかしな……」


 ちらりちらりとこちらをみては気の毒そうな顔をされる。


「ユリアーゼ・アゼリア、アゼリア子爵の庶子で成績は中の下、自宅では使用人に混じり小さい頃から侍女の仕事もしていた」


 その言葉にビクッと身体が反応した。


 どうしてそれを知ってるの!?


「どうして知ってるのかって? 申し訳ないが調べさせて貰った」

  

 自分の考えていた事を告げられて、驚いていると、レオナルド様がクスクスと笑っている。


 うん、笑っている顔も尊い、ありがとうございます。


「何を考えてたか全部顔に出てるぞ」


「えっ」


 言われた意味を飲み込んで顔が一気に熱くなる。


 うそ、そんなに感情駄々漏れ!? 


 信じたくなくてセシル様を見るもののしっかりと肯定するように頷かれた。


 恥ずかしい! 恥ずかしすぎる!


 いくらなんでも情緒不安定過ぎるでしょ、勝っちゃんと再会出来た事がとても嬉しかったのは認めるけどさ。


「うん、これだけ考えていることが駄々漏れなのに、王族の侍女は難しいだろ」


「やらせてください!」


 レオナルド様の言葉に被せるように勢いよく立ち上がる。


「身支度のお手伝いや掃除、洗濯、料理など、色々出来ます!」


 半ば食い気味にレオナルド様の手を握り詰め寄る。


「身体も丈夫ですし、なんならこの場で殿下に忠誠を誓わせていただきます! お側に置いてください!」


 必死に詰め寄り上目遣いを心がける、実際には鼻息荒く詰め寄っていたらしいけれど知るもんか。


「おっ、おう……」


 でもやっと出逢えた勝っちゃんことレオナルド様に興奮しすぎたとしても仕方がないよね。


「末永くよろしくお願いいたします!」


 元気よく淑女にあるまじき勢いで礼を告げる。


 こんなに早く勝っちゃんを見つけられるとは思わなかった。


 神様! ありがとう!

 




 

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