5話 デートとは決して呼べないデート②
「お姉ちゃんほんっとに可愛いねー、モデルさん?芸能人?」
とマッシュのイケメン細マッチョ。
「…………うるさいわね……」
女が小さい声で呟く。
「こんな可愛い子普通の高校にいたらやばいっしょ」
と強面の金髪男。
「それなです先輩」
と背が低いわりに筋肉量が異常のスキンヘッド男。
そんな3人組に女の子1人がナンパを食らっている。
そんな光景を茫然と見ている男子高校生、国水創也。
1人の女の子は、小野咲琴音だった。
「やばくないか?あれ」
と創也は呟いた。
創也と琴音はカーテンを買いに行く約束をし、街で集合をする予定だった。
創也が街に着くと、この光景に巡り合った。
3人の男にナンパされてるとこなんて初めて見たな。小野咲のことだから大丈夫だろう。あまり関わりたくない、ああいう人たちとは。
なんてことを思っていると強面の金髪男が琴音に肩を組み始めた。
琴音は顔一つ変えなかったが、後ろに組んでいた手は震えていた。
創也はそれを見ると咄嗟に走った。なんでこんな面倒なことに顔を突っ込もうとしてるのか自分でもわからなかった。
「小野咲ー!待たせたな!」
創也が強面の金髪男の腕を振り払った。
「誰だぁ?てめえ」
男はよりいっそう怖い形相を浮かべた。
……この場を乗り切るには……。どうすればいいんだ……。
創也は女のナンパを助けるという柄にもないことを生まれて初めてしたので逃げるということしか思いつかなかった。でもこいつらは絶対追いかけてくる。そう思った。
「はぁ」
と一旦ため息をつき何かを決心した。
「こいつはおれのの彼女だ!手出すんじゃねえ!」
創也はこの言葉を発しながら少し羞恥した。しかしそんなことを気にしている場合ではない。
のってきてくれ小野咲。お前がおれの彼女の演技をすればさすがにこいつらも諦めるだろう。
「なによ……」
琴音は呟く。
「誰があんたの彼女よっーー!!こっちこないでっ」
琴音は顔を赤くし、手を握りしめ、叫んだ。
「ふへ?」
創也は万策尽きた。この状況でもプライドを通すのか?
「おいおい、兄ちゃん、女の子が困ってるぜ?」
立場が逆転した。
「いや、違くて、おれはこいつの彼女っていうのはそのアメリカンジョークで、友達!そう友達!嫌がってる女の子をナンパするのは、だめですよ?」
創也は混乱し、恐怖に駆られ、小野咲何やってんだということが頭によぎる。
そして目の前に拳が現れた。
創也は初めて顔面を殴られた。
「きゃぁ!国水くん……?」
琴音の顔色が変わる。
「おい、さすがに殴りかかるのはやばいって」
「わ、わりい、ついカッとなって」
周りに人混みができ始めた。
「逃げるぞ!」
とマッシュ細マッチョ。
3人組は琴音をナンパし、助けに来た創也を殴り、その場を後にした。
みっともねぇ……。
創也は顔を腕で隠し、殴られたところが熱くなっていくのを感じる。
「なんかその、ごめんなさい」
琴音は申し訳なさそうにいった。
「許さない!」
創也は言い切る。
「なんであそこで彼女の演技をしなかったんだよ!わかれよ!おかけで殴られる羽目になったし、凄い痛い」
「べ、別に助けてなんて言ってないし?あと彼女の演技なんてすぐにやれって言われても無理よ。もっと別な方法があったでしょう!」
「あーわかったよ。彼女の演技なんて無理だよな、無理だと思ってた。でもこういう時は彼女の演技をするもんなんだ!あーもうこの話はやめようさっさと買いに行くぞ」
創也は吹っ切れたように言った。そして小野咲がまたナンパされていたら次は絶対に助けないということを心に決めた。
小野咲がこだわっていたカーテンの柄は1時間近くにわたってようやく決まった。水玉模様の可愛らしいカーテンだった。
創也が不良に殴られるという事件もあったので買い物中はあれ以上の気まずい空気にはならなかった。
創也の顔はまだ赤く少し腫れていた。
琴音がトイレに行くというので創也は空を見上げながらいろいろ思うところもあり店の前で淡々と待っていた。
「創也くん……?」
聞いたことある声だなと思い、振り向くと桜がいた。
「桜?!」
桜は創也の顔をみて少し不安そうに名前を呼んだ。
「その顔どうしたの?大丈夫?あとすごい荷物」
「ちょっと色々あってな、この荷物は部屋のカーテンを変えようと思ってな!桜はこんなとこで何してたんだ?」
「ふーん、カーテンなんだそれ。夏服がぜんぜんなくてちょっと久しぶりにお買い物しようかなーって思ってさー」
桜はすごく服のセンスがある。めちゃくちゃ可愛い。創也は中学の頃からたまに遊んでいてそのたまに見る私服が今でも頭に残っていた。
「おまえの私服可愛いよなー」
創也は心の声を漏らす。
「ちょっ、創也くん、そういうことは軽く言ったらだめだよー」
桜は創也の顔を見ないで俯きながら言った。
そんな日常会話を何気なくしていると創也は自分の状況が最悪なことに気づいた。
桜に小野咲と2人でいつところを見られたらまずい。大変まずい。
そんなことを思っていた矢先――――
「国水くん、まだいたの、帰っててよかったのに」
創也の名前を呼ぶ琴音を、桜は今まで見たことない少し険悪な表情をして見ていた。
創也はそんな桜の顔を見ている暇もなく。この明らかに2人で出かけていた状況を桜にどう話すか考えていた。
「創也くん、なんで、小野咲さんと一緒にいるの……?」
「いや……その、それはだな……」
創也は言葉が見つからない。
「あら、国水くんとお知り合いかしら」
「おまえの同じクラスの工藤桜だよ!いい加減クラスの顔と名前くらい覚えろっ!」
琴音は戸惑った。
「えっとー、そのー、創也くんと小野咲さんは付き合ってるの?」
桜がダイナマイトな質問をする。
「んなわけないだろっ!おれらはただの友達だ!ちょっとした用事があって2人で買い物に来てただけだ!もう帰るところだった。だよな?小野咲?」
創也は小野咲にのってきてくれるよう促した。
しかし、琴音の頭の中は急にクラスメイトが現れたこと、先程の国水くん殴られた事件があり頭が混乱していた。琴音はあんなことを言っていたが内心だいぶ気にしていた。人が殴られたのを見たのは初めてで刺激が強かった。
『こういうときは彼女の演技をするもんなんだ!』
創也がいっていた言葉がうまい具合で切り取られ脳裏に浮かぶ。
状況は先程とは全く違うが混乱具合でいったら琴音の頭の中は今の方が混乱していた。
「国水くんは、私の……」
「そう友達なんだよなっ!」
「彼女です」
「ぶはっ、うん?」
創也が変な顔になる。
「あーやっぱりそうだよねー、最近創也くん変だと思ったらそういうことだったんだねー、恥ずかしがらないで言ってくれればよかったのに」
桜がこの状況を理解していつもの変わらない表情で言った。
「違うんだ!桜!小野咲も訂正しろ!」
小野咲は頭がパンクしており誰の言葉も聞き取れる状況ではなかった。
「もういいよー、創也くん。隠してるんだったら私誰にも言わないよー、じゃあまたねー」
桜はその場を後にした。
「おい小野咲どうするだよこれ!おまえおれと付き合ってるったら思われていいのかよ!聞いてるか?」
「ごめんなさい、今日はもう帰るわ、疲れた」
創也はなんて自分勝手なのだろうと思った。あんなダイナマイト発言をしておいて。
創也は家に帰り、壁をつけ、千紗と久しぶりに一緒にご飯を食べた。
「兄さんとご飯食べるの久しぶりだよね」
千紗がぼそっと言った。
「あーそうだな、ごめんな最近ご飯とか作れてなくて」
「その顔どうしたの?ちょっと腫れてるよ?」
「あーこれな、ちょっと人に殴られた」
「え?何があったの!大丈夫?」
千紗が怪訝した。
「ちょっといろいろあってな、大丈夫だ!」
「怖いよー人に殴られるなんて。危ないことはしちゃだめだよ。詳しくは聞かないけど……。こんな事のあとに悪いんだけどさ、兄さん明日ひま? 前に千紗のベッド貸したよね。そのときどこでも連れてってくれるって言ったよね。あと一つお願い聞いてほしいの」
「あー、いいぞ、あした土曜だしな!どこでも連れてってやる!」
創也は今日あったことは一旦忘れて月曜からまた桜の誤解を解こう。あと小野咲にも訂正しとけっていわないとな。部屋が繋がったら言うか。そう決心した。
「それでお願いってなんだ?」
「えっと……。その、ね、千紗の……」
千紗は体中が火照っていた。顔も赤くなっている。
「千紗の……彼氏になってほしいの!1日限定で!」
「彼氏?!なんで?!」
創也は目を丸くした。
「…………千紗、彼氏いたことないからどんなかなって思ってさ。気になっちゃって。あーもうーだからとにかく明日は兄さんは千紗の彼氏なの!」
「明日だけだぞ?」
創也はしぶしぶ了解した。
「うん!」
千紗は満面の笑みで返事をした。
元気がない創也を元気付けるために千紗はこのデートを持ちかけたのだがこの理由は3割程度だった。別に彼氏の役をしなくともデートは可能なのだ。
残りの7割はまた別のお話。




