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3話 可愛怖い


 放課後、創也は疲れ果てていた。


 先日の夜、小野咲琴音と部屋が繋がるという思いもよらぬ出来事、学校での小野咲からの目線がいやでも目に入り5、6回は睨まれた。だいぶ怖い。自分にはなんの罪もないのに。などと思いつつ過ごしていたからだ。


 創也にとってこの日は高校生活始まって以来、1番長く感じた日だった。


 帰りの会が終わり、創也は人と話す労力も残っておらず1人で素早く帰った。


 そんな創也を、桜はいつもと変わらない表情で見つめていた。


 

 「ただいまー」


 「おかえりー兄さん」


 「千紗、おまえのベット借りていいか?寝かしてくれ」


 千紗が怪訝し目を広げた。


 「なんで千紗のベット?!自分のベットは?!」


 「そのーなんていうかトラウマっていうか、うまく寝付けそうにないっていうか、細かい事は話せないんだが。一生のお願いだ!今度どっか連れてってやる!」


 「一生のお願いって言われても。すっごい恥ずかしいんだからね!エッチな事考えてないっていうのはわかったけど……。トラウマってなに?」


 千紗はやはり自分のベットで寝れない理由が気になった。


 「すまん。説明できない」


 創也はいつになく真剣な表情だった。


 「もーしょうがないなー今日だけだからね」


 千紗は自分の履いていたスカートをぎゅっと握りしめて少し顔を赤くしながら言った。


 「ありがとう。千紗」


 「でも兄さん今から寝るつもり?夜ご飯は?」


 「夜ご飯はラップに包んでおいてくれ。たぶん夜中に起きて食べる」


 創也はとにかく眠いので今はとにかく寝たかった。


 「わかったー」


 千紗の部屋は創也の部屋の隣だった。


 創也は階段を上がり自分の部屋の前を通ったとき、少し開けてみようという気になったが、昨日の『小野咲さん可愛い』という感情より『小野咲さん怖い』という感情がまさった。


 昨日は夜に部屋が繋がったが夜にしか繋がらないという保証もなく。(夜にしか繋がらない)創也はわからなかった。


 千紗の部屋に入り脱力感とともにベットに横たわる。


 2分足らずで創也は熟睡した。


 その頃料理を作っていた千紗は、まだ顔が少し赤くなっていた。


 

 0時20分、創也は目を覚ました。


 リビングに行くとソファで千紗が窮屈そうに寝ておりほんとに悪いことしたなとつくづく思った。空き部屋で最初は寝ようとしていたがあそこは本当に眠れない。背中が痛い。我がままですみません。と思いつつ、今度千紗の行きたいところへどこにでも連れてってやろう。と改めて決めた。


 千紗が作るご飯は最高においしい。昼は食欲がなくあまり食べないで夜もなにも食べていなかったのでいつになく美味しかった。


 食べ終わったあとしぶしぶ自分の部屋へ行き何も考えないようにして勢いでドアを開けた。


 

 いつもの部屋だった。


 創也は安堵の息を吐いた。


 実際、昨日の夜は可愛い小野咲さんの寝巻き姿を見れてラッキー程度に思っていたが、あの学校での睨みようときたら、もう懲り懲りだった。


 「よかった」


 創也は思わず声を漏らした。


 部屋に入り、自分のベットで再び眠りについた。



 翌朝、いつも通りの千紗の声とともに目を覚ました。


 「昨日は眠れた?結局自分の部屋にいたけど大丈夫だったの?」


 朝、千紗は創也の部屋が気になって覗いていた。


 「ああ、大丈夫、昨日はありがとうな」


 「兄さんが困ったときは助けてあげるからね!」


 「ありがとう千紗ーー」


 『今日の1位は乙女座のあなた!』


 朝の占いのテレビが流れていた。


 千紗はつい先日見た舞い上がった様子で


 「やった!兄さん!また1位ー!なんか千紗最近ずっと1位だーえへへー」


 創也は悪い予感しかしなかった。


 あの事件が起きた日、たしかおれは最下位だった。まあさすがに?千紗が1位でおれが最下位なんて事はないだろう。つい2日前だ。全く同じだったらこれを占っている占い師はどうかしてる。などと思いつつ前のめりで見る。


 「兄さんなんかすごい真剣だね。占い信じてるじゃん」


 「ああ、おれの人生がかかっている」


 「人生?!」


 千紗が前とは打って変わって占いに真剣な創也をみて驚き、笑っていた。


 『最下位は……天秤座のあなた!」


 「あうちっ…!!」


 創也はひざまづいた。


 「兄さん大丈夫?!」


 「千紗、親によろしく伝えといてくれ。あとお前が作った飯は最高に美味しかった。あれをもう食べられないと思うと……うっっ……ひっく…」


 創也はオーバーリアクションで気を紛らわそうとしたがわりとガチだった。


 「最下位だったくらいで落ち込んじゃだめだって!高校2年生でしょ?小学生までだよ!そういうの!」


 千紗のど正論に胸を打たれ、それが功を奏してか創也は切り替えることができた。


 そう、まだ決まったわけでもない。でも悪い予感しかしない。


 創也はそんなことをずっと考えている内に1日の学校生活が過ぎた。


 一方、今日の琴音はいつもと変わらない様子で創也に一回も睨みつけることはなかった。


 

 家に帰るとすぐ創也は自分の部屋へ向かった。


 創也は1つの作戦を思いついていた。


 それは部屋が繋がる前に自分は部屋にいればいい、そうすればおれが小野咲の部屋に入った、みたいな状況は避けられる。しかも小野咲がおれの部屋に入ったみたいな状況を作り出せるかもしれない…。というものだった。


 部屋が繋がってしまうのだからそんなのは関係ないことに気づかず創也は思考能力が低下していた。


 「千紗ー今日食欲ないからラップしといてくれー、夜食べる」


 「兄さんまた?しょーがないなー」


 千紗は唇を少し尖らせていた。


 創也は部屋で勉強を始めた。


 

 8時52分。創也が勉強を始めてから2時間くらいがたった。


 何事もなければいいのだが。と創也が思ったその時。


 ――――――――――――。


 甘い匂いが微かにした。明らかに自分の部屋の匂いではない。


 創也は冷や汗をかいた。


 恐る恐る、ゆっくりと、首を傾け、壁を見た。


 壁は無い。


 「……」


 また繋がってしまった……。心臓に悪いぞこれ。と思いつつ再び首を傾け小野咲がいないか探した。


 

 ―――――――――――――――いた。


 前とは違う寝巻きを着ていてセットアップでよく見る可愛いやつだ。髪もお団子にしてあった。オフモードだ。こちらに気付いていない様子で勉強をしていた。時間が経てば絶対気づくと思いしばらく待ってみた。


 だが小野咲は平然と勉強をしている。


 創也はこの変な空気に耐えきれず、


 「あの……小野咲さん…?」


 「……」


 「聞こえてるよね、小野咲さん……」


 「うるさいな」


 琴音は小声で呟いた。


 「えっなんて?」


 「うるさいって言ってるのよーー!!!!!!」


 琴音は叫んだ。


 創也は千紗に聞こえたのでは無いかと心配したが千紗はイヤフォンで音楽を聴いていたので大丈夫だった。


 「ちょっ、大きな声出さないでくれ。妹に聞かれる」


 「国水くん?だったしら。なんであなたまたここにいるのよ変態さんなの?」


 「違う!!勝手にまた部屋が繋がったんだよ。一旦落ち着いて話そう。たぶんこれからもまたこういうのがある、と、思う……」


 創也は真剣な表情で言った。


 「そうね、埒があかないわ。で、どうするっていうのよ」


 何も考えておらず創也は困惑した。


 「いちいちお互いびっくりしてても意味ないよなあ」


 「私は至って普通だったわよ!」


 「じゃああんな叫び声上げないでくれ!」


 「あれはセーフよ!」


 創也はなにがセーフだ、アウトだよと突っ込もうとしたがさらに小野咲を怒らせると面倒なことになりそうだったのでやめた。


 創也はふと思いついた。


 「そうだよ、壁がなくなるんだから壁を作ればいいんだ」


 「どういうこと?」


 琴音は怪訝した。


 「カーテン!」


 「あ、あぁ、意味あるかしら?それ」


 カーテンが壁代わりになるかはわからないがないよりはましかと琴音は少し思った。


 「ある!と思う。おれがあした買いに行くよ」


 「いやよ、あなた変な柄選んできそうだわ。私もついて行くわ。いや、私1人で行くわ」


 変なところにこだわる琴音。


 「いやさすがに小野咲さん1人で買いに行かせるのは変っていうかバツが悪いっていうか。俺もついていくよ」


 「そう、じゃあついてきてもらおうかしら。カーテン重そうだし。あとその小野咲さんっていうのやめてくれる?さん付けで呼ばれるの嫌いなのよ」


 「じゃあ、なんて呼べば、琴音さん?」


 「名前はやめて!小野咲でいいわ」


 「わかった、小野咲」


 「ええ」


 創也は名前で呼ぶことに拒絶されたのは少しがっかりしたがあの小野咲琴音と名前を呼び合う仲になったのを少し嬉しく感じるとともに、これから一体どうなっていくのだろうと不安の感情も抱いていた。


 「じゃあおやすみなさい」


 琴音が殺伐とした空気で言い放ち部屋を出ていくのかと思いきや自分の部屋にあるベットで寝た。


 「ふへっ?」


 創也は単純にびっくりした。


 「あの…小野咲さ…小野咲。そこで、寝るのか?」


 「ええ、悪いかしら。そんなことを気にしてたらきりが無いわこの状況」


 「たしかにそう、だな、じゃあ、おやすみ」


 創也は歯を磨くために1度部屋を出た。


 10分後、再び部屋に戻り静かにドアを開けた。琴音はもう寝ている様子だったので自分だけがこんなに緊張してるのもなんかな。そう切り替えて眠りにつくのであった。


 琴音の耳が少し赤くなっていたのを創也は知らない。

 


 

 




 




 


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