2話 波乱万丈
夜の10時14分。
ある男が危機的状況に陥っている。
思考が停止。
そう、眠りにつくためにいつも通り部屋に入った。
部屋の中にはあの小野咲琴音がいた――――
一方、女の方は
「誰…?」
基本、他人には興味がないので同じクラスであるのにもかかわらず琴音は誰かわからなかった。
急に男がいつもあるはずの壁の向こうから現れ、戸惑いを隠せなかった。
「なんで小野咲琴音がここに?!」
創也は驚きと不思議さを爆発させながら言った。
「私もわからないわよ!というかあなた誰?なんで部屋が広くなってるの?」
琴音はどうして私の名前を知っているのだろうと思いつつ驚きと不思議さを感じながら言った。
「おれは同じクラスの創也!国水創也!って言ってもわからないか。ってそんな場合じゃなくて、なんか部屋が繋がってるみたいです……」
琴音は辺りを見渡して、うまい具合に壁がなくなりぴったり部屋がくっついているのを見た。本当に綺麗にぴったりくっついていた。
こんなうまい具合に部屋がぴったりくっつくことなんてあるの?というかありえなくない?でも実際そうなってるし……などと琴音は心の中で必死に出来事を整理しようとしていた。
「そうね、部屋が繋がったみたいね、でも夢かもしれないわ。それかこれは一時的な現象。時間が経てばなおるかもしれない」
冷静さを少しずつ取り戻していった。
「一回、部屋からお互い出てみよう!で、1分後にまた入ってみよう!」
創也は根拠もなく無理矢理な提案をし、琴音もそれにしぶしぶ賛同した。
「そうね」
「じゃあ、1分後に」
「ええ」
10時17分。
男は、願っていた。
戻ってませんように。戻ってませんように。戻ってませんように。戻ってませんように。戻ってませんように。戻ってませんように。戻ってませんように…………
女は、願っていた。
戻って。戻って。お願いだから戻って。男の人と一緒の部屋で過ごすのなんてごめんだわ。無理。ましてや初対面の人となんて無理。(初対面ではない)
――――――10時18分。
お互い体内時計で測っておりお互いの体内時計は狂っていなかった。ほぼ同時にドアを開けた。
「もう、なんでなのーーーーーーー!!!!!」
琴音は心の底から叫んだ。
そう、部屋の中は変わっていなかった。
無理矢理な作戦は失敗。
創也は戸惑っている様子を見せながら内心は少し喜んでいた。
「兄さーーん?なんか叫び声がしたけど大丈夫ー?」
下の階にいた千紗だ。
「大丈夫だ!!ほら、あれだ、イヤフォンなしで映画をな!見てたところだ!」
創也はこの状況を他者に見せるのはまずいと思い咄嗟に下にいる千紗に聞こえるような声量で言った。
「そっかー!」
「そうだー!」
創也は一旦、安堵した。
「妹さんがいるのね」
琴音も少し焦っていた様子だった。
「そうなんだ、可愛い妹だ」
琴音は部屋から出ようとしている。
「小野咲さんどこへ……?」
「リビングへ行くのよ。こんな部屋で寝れるわけないじゃない」
琴音は殺伐とした空気で言った。
「そう…だよな。おれも今日は別な部屋で寝ようかな」
創也は少しがっかりした様子で言った。
創也は二階にある千紗の隣の部屋の空き部屋で寝ることにした。布団を敷き、電気を消して、眠りにつく。
創也は思った、寝れるわけがないと。あんなことがあったにもかかわらず寝れるわけがない。
その頃、琴音はすやすやと眠りについていた。
小野咲さん、近くで見ると一段と可愛かったなあ。女子の寝巻きも初めて見た。エロかった。胸もマシュマロみたいで柔らかそうだったなあ。何よりものすごく良い匂いがした。今でも鼻に残っている。
今朝、広人の小野咲さんに向けるエッチな目を軽蔑してたけどそういうことか、などと思いつつ明日にでも謝っておくかと決めたのであった。
翌朝。
創也は千紗の呼ぶ声がしたので目を覚ました。
「兄さんご飯できてるよー」
「あーっ、今起きる……」
あのあと心地よく眠れたわけでもなく目の下に小さな隈ができた。
創也は昨日あった出来事を思い出し、全身に電気が走ったようにすぐに布団から出て部屋へ向かった。
ドアを開けた。
おれの部屋だった。
元通りになっていた。
創也は昨日あったことが嘘ではないのかと疑いついつも通りに朝ご飯を食べ、学校の支度をし、学校へ向かった。
「創也、寝不足か?今日はいつもより一段と眠そうだぞ?」
広人が創也の目の隈を見ていった。
「ああ、寝付けなくてな、今は眠たい、今すぐ寝たい」
「そんな夜遅くまで映画見てたの?」
千紗が尋ねた。
「そ、そうなんだよ。久々に怖すぎる映画見てな。さすがにびびった」
創也はそういえば昨日、千紗に小野咲さんの悲鳴を聞かれたことを思い出し咄嗟に話の辻褄を合わせた。
「怖がりだなー創也」
「広人さんほんとそうなんですよ。兄さん怖がりなのに怖い映画をよく見るんですよねー、いい加減やめたらいいのに」
創也はだいぶ怖がりだが怖い映画はなんというかいい感じのスリルが味わえて1ヶ月に2回くらいは見ていた。見たくなるのであった。変わっている。
「いいだろべつにー、あのスリルがたまらないんだよ、すごい怖いけど」
などと3人で映画の話をしているうちに千紗はいつもの場所で彩瀬ちゃんと合流し、おれと広人は2人で学校に向かった。
教室に着き、創也は辺りを見渡した。琴音を探していた。
まだきていないようだったので、創也は少しほっとした。どういう顔で合わせればいいかわからなかった。ましてやまだ昨日あった出来事は夢ではないかと疑っている。
そんなことを思っている矢先にあの小野咲琴音が現れた。またしても男どもは二度見、三度見。
琴音はわざわざ創也の席の前を通って自分の席に座った。創也の前を通りかかるとき少し睨みつけた様子で。目が赤く光っていた。
わかりました。はい。他言無用ですね。はい。誰にも言いません。と創也は琴音のサインに気づき、昨日の出来事は夢ではなかったと確信するのであった。
広人はそんな2人の出来事を知る由もなく創也に小声で言った。
「やっぱすっごい可愛いよな。いい匂いがしたなー。なんでこっちにきてから座ったんだろ」
「ただの気まぐれだろう。まあ、いい匂いがしたな」
創也が感慨深く言った。
そんな先程の2人の目配せを偶然にも廊下側の一番端の席で見ている女子がいた。
工藤 桜。
創也の唯一の女友達だ。
桜はあの2人何かあったのかな、などと思いつつ見ていた。
この部屋が繋がってしまった件が創也を取り巻く人間関係をこれから大きく変化していくことに今はまだ誰も知らない。




