1話 繋がってしまった部屋
「兄さん起きてってば、朝ご飯」
おれの妹である千紗は毎朝、嫌々にも母さんに頼まれてなのか起こしてくれている。
「あーっ、今起きる。今起きるから」
朝は苦手だ。眠いから。なんて当たり前なことを思いつつあくびをして、制服をきて、あくびをして、下の階へ降りる。
朝ご飯はパンと卵焼きとオレンジジュース。
またあくびをしながらだらだらと食べ始めた。
朝のテレビニュースで占いがやっている。千紗がドキドキしながら見ていた。
『1位は乙女座のあなた!ラッキーアイテムは赤いペンです!』
千紗が舞い上がったような様子で
「やったー!兄さん!千紗が1位だってー、えへへー」
「よかったな」
こんなの信じるやつなんているのか……?などと思いつつ
『残念ながら!12位の天秤座のあなた!今日1日気をつけて過ごしましょう』
「おれじゃねーか!!」
先程思っていたこととは矛盾して間に受けていた。
「そっかー。兄さん天秤座かー。今日は気をつけなきゃだねー」
「こんなの当たる訳ないだろ!」
「どーかなー?当たっちゃうかもよー?」
千紗は自分が1位だったのでご機嫌だった。
「兄さん学校行くよ!もうこんな時間!」
2人は支度を整え、1人は明るくるんるんで、もう1人は活力が無さそうな感じで、家を出ていった。
いつも通りの通学路を歩いていると後ろから誰かが呼んでいる。
「千紗ーー!!」
千紗の同級生の彩瀬ちゃんだ。2人は小学生の頃からの仲良しで今は同じ中学校に通っている。中学二年生だ。
「あ、おはようございます。お兄さん。今日も仲が良いですねお二人とも。結婚するんですか?」
「しないわ!」
おれと千紗が声を揃えて咄嗟に反論した。
千紗は少し顔が赤くなっている。
良い子なのだがたまにぶっ飛んだ事を飛ばしてくる。
「兄さん、千紗と彩こっちだから、またね。学校頑張ってよ!」
「おう」
家から中学校までは10分くらいでわりと早く着く。高校までは30分近くある。自転車があればいいのだが、1週間前に家族に1台しかない貴重なそれを千紗が盛大に壊した。
そんな事を思っていると後ろからまた誰かを呼ぶ声がした。
「創也ー、おーい、創也ー」
おれの名前を読んでいたのは幼い頃からの馴染みで、同じ高校に通う高校二年生の広人だ。中学校で一緒にサッカー部に入っていたが高校に入ってから広人は野球を始め、俺は帰宅部で勉強を一応、毎日欠かさずやってはいる。
「やっぱ仲良いよなーお前と千紗ちゃん。」
「なんだよ、見てたのかよ声かけろよ気持ち悪いな」
創也は怪訝しながら少し罵倒した。
「ごめんって、なんか面白くて」
こうしてまたいつも通りの通学路を歩いていき学校に着いた。
おれと広人は同じクラスでつい先月、新学期を迎えた。今は5月。クラス替えしたてでまだ新鮮味がある。
「おはよう、創也くん」
おれの名前を同い年で君付けで呼ぶのは、桜だ。
桜は中学二年生の頃に転校してきて近所ということもあってか昔はよく遊んでいた。おれが唯一友達と呼べる女の子だ。
「おはよ!桜。なんか和むなー」
「なにかあった?」
桜は直感がいいのか創也がいつもと違うことに気づいた。
「なんか朝、起きてからこの学校に着くまでにいろいろあってなー。もう疲れちゃったよ」
「んふふなにそれ」
桜は少し変わった、可愛らしい笑い声で笑った。
キーンコーンカーン、キンコーンカーンコーン
みんな着席し始めるそんな中、1人の女子が悠々と少し遅れて学校にやってきた。
周りの男はガヤガヤし始め、二度見、三度見をする。
そう、彼女はこの学校1可愛いと言われている女子だった。去年のミス栗木沢コンテストを行ったとき栄えある1位に輝いたのである。(3位まで賞が与えられる)
名前は、小野咲 琴音
一応、おれでも名前は知っていた。
家はそこそこお金持ちらしく、冬は高そうな車で執事らしい人が送迎しているのを見た。全くご立派だ。
そんな彼女と同じクラスになり、正直これからどう絡めばいいかもわからずにいた。絡む機会があるのかわからないが。ないと思うが。
「なんかすごいよなオーラが、こう話しかけづらいっていうか、おっぱいでかいし、黒髪ロングだし」
隣の席に座っていた広人が小声で言った。
「あ、ああ……」
創也は話しかけづらい理由が全くもって関係ないことを突っ込もうとしたが無視した。
「あんな子と仲良くなれたらなー、さぞ楽しいだろうな」
広人が下心丸出しで言ったので創也はジト目を向けた。
放課後、広人は部活があったので創也は1人で帰ろうとしていてそこでばったり桜と会った。
「あ、創也くん」
「おー、桜、お前も今帰りか。久々に一緒に帰ろうぜ」
「そうだね」
桜が朝と同じような声の基調で言った。
「なんかまだクラスに馴染めてない人多いよねー。私もなんだけどさ。その点、創也くんはすごいよねもうほとんどの男子と仲良くしてるし」
「それは広人とおれが一緒にいるからであってあいつの周りに人が集まってておれはただそこにいるだけだぞ。おれのことを陽キャ扱いしないでほしいな、桜。陽キャに申し訳ない」
創也は少し自嘲気味で言った。
「それはそれはなんかごめんね」
「うんうん、許そう……」
お互い何に謝り何を許しているのかわからない様子であった。
「あ、あと小野咲さんってやっぱ同じクラスになってみてわかったけどなんかすごいよねー」
「あー、そうだなー。あんまり人と仲良くしてるとことか見たことないもんな!」
創也は桜もあの小野咲琴音を少し気にしている様子で、あの小野咲さんはオーラがやはりすごいのだということを改めて実感した。
「じゃあまたね創也くん、私ここだから」
「おーう、気をつけて帰れよー」
創也は帰宅し、とりあえず勉強を始めた。
一時間後、千紗が帰ってきたので夕飯作りを始めた。母親は夜遅くまで仕事で、父親は半年前から単身赴任。父親の単身赴任以来、家事は家族3人で分担して行っていた。
「兄さん、今日なんかあった?」
千紗がそわそわした様子で尋ねてきた。
「いや、特になにもなかったけど」
創也は怪訝した様子で答えた。
「なんだーつまんないのー、朝の占い最下位だったのに!」
創也はそういえば最下位だったことを思い出しつつ、今日一日改めて振り返り普通の一日だったと再度確認するのであった。
夜ご飯を終え、風呂に入り、千紗と2人で最近始まったドラマを一緒に見た。そんなこんなで時計は夜の10時を回り。
「千紗、おれ部屋で少し勉強してもう寝るわ、リビングの電気消しといてな」
「うんわかったおやすみにいさん」
千紗ももうだいぶ眠たそうにしていた。
創也はやっぱ眠いからもう寝ようかななどと考えつついつも通り部屋のドアを開けた。当たり前に開けた。これからなにが起こるかもわからないまま――――
「えっ……」
「えっ…………」
創也は思考が停止した。なにが起きているのか全くもってわからなかった。理解できるはずがない。
いつもより部屋は広くなっており壁が1つなくなってその向こうには、見るからに女子の部屋が広がっていた。不思議といい匂いが漂ってくる。
その部屋にいたのは、あの小野咲琴音だった。
彼女もこの状況が理解できていないようで。
少し顔が赤くなっているようで。
「キャーーッーーーーーーーー!!」
家中響き渡る声で叫んだのは小野咲琴音ではなく創也であった。
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