店主ヒロの嘆き-思いつきで悪役令嬢はじめました-
ここは某所にある商店街の小さな中華料理店。
店名は【中華ヒロ】
昼時だというのに、今日も今日とて開店休業中である。
「暇だな……」
店主のヒロが呟くと、唯一のアルバイト店員のタツミがスマホを見ながら「そうですね」と答える。
「……タツミ、いったい何をしているのかね?」
「【小説家になろう】に連載中の『ヒロシとタクミ 小指ミルクの秘密』を読んでいるんです。続きが気になって気になって」
タツミはスマホの画面から目を離さずに答える。
「仕事中に、なにスマホを弄ってるんだ。仕事しろ仕事を」
「そんなこと言ったって、だーれもいないじゃないですか」
タツミの言うとおり、カウンターに置いてあるラジカセから、ヒロが吹きこんだオリジナルソングが流れている以外、お客の声が全くしていない。
「駅前にイケメン店員がいるラーメン屋が開店したみたいですし、なにか目新しいことをやらないと、お客さんは来ないと思いますよ」
「ということで、これを始めます」
翌日、ヒロは100円ショップで購入した筆ペンで書いた【悪役令嬢 始めました】をタツミに見せる。壁にもすでに【悪役令嬢 はじめました】という紙が貼ってある。
「衣装もこの通り」
そう言いながら紙袋からドレスを取り出すと、テーブルの上に置いた。
「ええっ!?悪役令嬢!?まさかコスプレするんですか!?」
タツミが嫌そうに言うと、ヒロが言った。
「タツミ、何を言う・早見優。俺がするんだよ」
「……えっ?」
駅前で悪役令嬢のコスプレをしたヒロが高笑いしながら店のチラシを配っていたが、相変わらず店内は閑古鳥が鳴いている。
「なぜだ……なぜお客が来ない……」と椅子に座りながら頭を抱えるヒロを見てタツミがぼそりと呟いた。
「だめだこりゃ」
完
※どこかで聞いたことがある様な名前の登場人物ですが、多分、それは気のせいです。