9
閲覧いただき、ありがとうございます。
その後間も無く、3人での女子会が開催され、彼女と魔姫は無事親睦を深めた。
彼女の魅力を分かった人が増えて私も嬉しい。
今日もバイトの日だ。雨のせいか、いつもより客入りが少ない。
「そういえば、この前、魔姫とご飯行ったんだね。魔姫が嬉しそうに話してたよ」
氷補充をしていると、不意に雪之助がそんなことを言ってきた。
「魔姫が弟以外の話をするのは珍しいからね。余程嬉しかったんじゃないかな」
そう言ってもらえると私も嬉しい。そんな様子を見て雪之助は悪戯めいた顔をする。
「妬けちゃうなぁ。ね、今度僕ともご飯に行こうよ。季々ちゃんが好きそうなレストラン知ってるよ」
「雪之助さんのファンが怖いので遠慮しときます」
雪之助のファンは熱狂的で規模も大きい。
彼女が雪之助ルートに入ると、まずファンクラブに殺される。恐ろしい。
私はきっと異性としては見られていないだろうが、極力関わり合いたくない。
間髪入れずに断ってしまった。しかし、雪之助は全く残念そうな顔をしていない。
「そっか、残念。世界各国の変わった料理が味わえるレストランなんだけど」
「行きます」
思わず言ってしまった。
雪之助の策略にまんまとはまってしまったことに気づいた時には後の祭り。
「女の子にこんなところ誘うのはどうかと思ったけど、君好きそうだよね。この前、常連さんが話してた海外の変わり種料理の話、興味津々に聞いてたし」
そんなところで私の好みが暴かれていたとは。
背に腹はかえられぬ。雪之助が言うレストランはゲテモノ好きにはたまらなさそうである。
ちなみに私は35歳でこの世を去った。死因は海外でゲテモノ料理ばかり食べていたら当たりどころが悪かったらしく、死んでしまった。
無念。しかし、現世でも私のゲテモノ好きは変わらなかった。
雪之助は軽くウィンクをして、決まりだね、と言った。
「後で連絡するよ。季々ちゃんとのデート、楽しみにしてるね」
デートだなんて、これだから色男は困る。
次の日、履修していた授業が休講になり、桜太と空きコマ時間を過ごすことになった。
彼女は海斗と一緒に図書館で過ごすらしい。悔しい。
「お前、愛のことが好きなんだとずっと思ってた」
彼女は最近、桜太にも恋愛相談をしたらしい。深刻そうにその事を言ってきた。
勿論、知っていた私はあっけらかんと返事をして、桜太を驚かせてしまった。
しかし、桜太の発言は聞き捨てならない。
「何言ってるの?愛ちゃんと私はマブなダチよ。やましい気持ちは一切ないわ」
「マブなダチっていつの時代だよ。それにやましい気持ちがないって嘘だろ」
そんなわけない。彼女への気持ちは純粋な愛だ。友情という名に収まらない想いである。
決して恋愛などという邪な気持ちではない。
「そういえばさ、この大学で噂のイケメン先輩、冬木先輩だっけ?どういう関係なんだよ」
悪戯めいた表情をして桜太が尋ねる。
私は言葉に詰まった。
どういう関係も何も、ただのバイト先の先輩後輩なんだが。大学は一緒でも学部も学年も違うから全然会わないし。
しかし、桜太は明らかに私の恋話に期待している。
「残念だけれど、私に浮いた話は一切ないよ」
そう言うと桜太はつまらなさそうにする。
「この前、サークルの先輩がお前は冬木先輩のお気に入りだって言ってたからさ」
なんだそれは、ファンクラブが怖いので、そんなデマを簡単に流さないでほしい。
「そんなことないよ。その先輩にも否定しておいて」
流石は芸能人レベルの美形だ。
こんなモブが少し会話をしただけで、スキャンダルのようにでっち上げる。
とても恐ろしい。
桜太は小さく、鈍感と呟いた。
私はそれに気づかず、ファンクラブの脅威に慄いていた。
雪之助ルートのバッドエンドで最も多いのはファンクラブからの制裁だ。彼女に被害の矛先がいかないのは嬉しいが、出来れば私も死亡フラグを回避したい。
ああ、神様。どうか女神な彼女と一緒にヒロインの守護者であるモブキャラもお護りください。
そんな心の願いは果たして届くのか。
私が願いをかけている時、桜太は終始冷めた目でこちらを見ているのだった。
良ければ、評価、コメント、ブックマーク宜しくお願いします。