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閲覧いただき、ありがとうございます。

別の日、私は魔姫と退勤時間が被り、バックルームに2人きりのシチュエーションになった。


「お疲れ様です、魔姫先輩」


「…お疲れ様」


素っ気ない返事がきた。

でも返事をするだけでもマシだ。

前世の小学校時代のクラスメイトからの総シカトに比べれば屁でもない。


今日は神様が魔姫と腹を割って話すチャンスをくれたんだ。これはモノにしなければ。


「魔姫先輩、この近くに凄く美味しい焼き鳥屋があるんですけど、行きませんか?」


「随分渋い趣味ね…悪いけど、家で弟が待ってるから遠慮しておくわ」


流石にチョイスが渋すぎたか。美味しいんだけどな、あのモツ煮。


少し残念そうにしていたのか、魔姫が居心地悪そうに言う。


「来週の水曜日なら弟が部活の遠征でいないから、付き合えるわよ」


私は慌てて予定を確認する。空いてる、ナイス私の手帳。


「では、水曜日行きましょう!」


変な子ね、と魔姫が呟く。

悪役でも美人だ。愛しの彼女には敵わないが、綺麗な女性は大好きだ。

お近づきになって、何としてでも彼女のフラグを折らねば。


そして決戦の日の水曜日。


「さぁ、行きましょう!」


「何でそんなに気合を入れているのかしら?焼き鳥屋に行くだけでしょう?」


私の気迫に圧倒され、若干引き気味の魔姫を連れて、近くの焼き鳥屋に辿り着く。


「魔姫先輩何頼みます?」


「そうね、この焼き鳥Aセットにしようかしら。飲み物はお冷でいいわ」


私も同じものとモツ煮を追加して頼んだ。

魔姫はどこか居心地の悪そうにしている。


「どうしました?もしかして、こういう騒がしいところ好きじゃありませんでした?」


美味い飯があれば、どんな人間とも分かり合えるというのは前世のバックパッカー旅で学んだことだったが、流石にチョイスが可憐な女子大生には合わなかったのだろうか。


不安そうに尋ねると、魔姫は否定した。


「いえ、その、普段外食をしないものだから。それに年の近い女性とご飯を食べるのが久しぶりで」


確かにゲームでも攻略対象と半ば強引にデートをしに行く描写はあったものの、取り巻きや友達がいる描写は一切なかったな。


つまり、魔姫は一匹狼なのか。


あまり馴れ合いを好まなさそうな魔姫にしっくりくるフレーズだった。


しかし、普段オシャレに着飾っている魔姫と焼き鳥屋って似合わないな。


「普段は家で弟さんとご飯を食べているんですか?」


ゲーム内では魔姫の背景描写は一切なく、前知識を持ってしても、魔姫のことは殆ど知らなかった。


「ええ、弟は中学二年生で、母は数年前に事故で他界して、父は単身赴任で私が家事をしているから、なるべく家を空けたくないの」


「そうだったんですか…大変ですね」


そう言うと魔姫は明るく振る舞う。


「弟、私と違って素直で純粋でついつい可愛がってしまうのよ」


だから何も心配ないわ、と魔姫は言う。

自分が素直で純粋じゃない自覚があるんですね、とは口が裂けても言えない。


「そういえば、どうして私をご飯に誘ったの?自分から言うのも何だけど、私結構周りから距離置かれているのよ?」


確かに周りの人から一目置かれているのは分かる。しかし、これは彼女の為でもある。私はやると決めたらとことんやり抜く人間だ。


「魔姫先輩と仲良くなりたいなって思って」


これは本音だ。純粋な興味もある。

ゲームですら語られなかった魔姫について知りたかった。


そういうと魔姫は少し照れるようにそっぽを向く。


「やっぱり変だわ、貴女」


流石に今のセリフは軟派だったか、と思ったがどうやら悪くなかったらしい。


料理が来た頃、不意に魔姫が話を切り出す。


「そういえば、貴女。花宮さんと仲が良かったわよね」


きた。いつ切り出そうかと考えていたが、まさか向こうから持ちかけるとは。


「ええ」


彼女は私の天使です。とは流石に言えず、短く返す。


すると魔姫は目を細めて、尋ねる。


「あの子、どういう子なの?」


「優しくて、真面目で、健気で、女目線から見ても可愛らしい子ですよ」


どんな子と言われて端的に話すのに苦労した。正直、彼女についてなら数時間は語れる自信がある。


魔姫はそう、と短く呟く。


「魔姫先輩は愛ちゃんが嫌い、ですか?」


そう尋ねると彼女は気まずそうにする。


「嫌いではないわ。苦手なのよ。ああいうふわふわして男を侍らすあざとい女」


どうやら、魔姫は彼女を私とは全く違うベクトルで見ているらしい。


でも小悪魔な彼女も素敵だ。


私は小悪魔な彼女を妄想しそうになるのを止めて、魔姫に説明する。


「彼女はそんな子じゃないですよ。何事にも一生懸命で、恋愛に関してもきっと一途です」


きっと、と言ったのは追及されない為だ。

本人のいない所で、彼女の心の内を明かすのは気が引けた。そんなことをして、彼女に嫌われたくない。


魔姫はふうん、と言って追従するのをやめた。


「一度、私と愛ちゃんと魔姫先輩でご飯に行きませんか?きっと彼女の人となりが分かりますよ」


ゲーム内でも魔姫と彼女の接触はあまりなかったはずだ。それはきっと思い込みが肥大して、嫌悪から憎悪に変わったのだろう。


それなら早いうちから親睦を深めておけば、大丈夫なはずだ。少なくとも彼女は人に好き嫌いするようなタイプじゃない。


それに時々出てくる弟と彼女の人となりはどこか似ている気がする。魔姫もきっと彼女に好感を抱くだろう。


「そうね、それもいいかもね」


魔姫は小さく笑んだ。

これは、死亡フラグ回避できるかもしれない。

嬉しくなった私は上機嫌でモツ煮をよそう。


「はい、魔姫先輩。このモツ煮絶品なんで食べてみてください」


「え?でもこれは貴女のでしょう?」


「美味しいものは友達にもシェアしたくなるものです!」


そういうと魔姫は頬を赤らめて、おずおずとモツ煮を口にした。


「美味しい…ありがとう」


恥ずかしそうに礼を言う魔姫に不覚にも初めて彼女以外にときめいてしまった。

これは浮気になってしまうのだろうか。

いや、本命は彼女だ。揺るがない。


その後、魔姫とは色んな話をした。


どうやら、魔姫が攻略対象にアプローチしているのは玉の輿を狙っているようだ。


そして、弟に少しでも安定した生活を送ってもらいたいそうだ。なんて弟思いのお姉さんなんだろうか。


確かに攻略対象は裕福な家が多い。


実際は魔姫に好きな人はいないようだ。


私はそれを聞いて、嫉妬からの殺害ルートは回避できそうだと安心したのだった。


魔姫のバッドエンドは嫉妬から殺害することが多かったからだいぶ死亡フラグを回避できるだろう。


うん、とりあえずライバルキャラ絡みの死亡フラグは折れたかな。


彼女を1人にしないように徹底的に彼女の側から離れないようにしているし、事故死の死亡フラグも今のところ立っていない。


私は順調な滑り出しに満足し、モツ煮に舌鼓を打ったのだった。

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