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今日は念願の彼女と同じシフトが被る日。
そして、唯一まだ会っていない攻略対象ともシフトが被っている。
彼のルートはヤンデレ化ルートは少ないものの、不審死やストーカーに殺されるルートが多かったはずだ。
出来れば彼女にはこのルートに行って欲しかった。不審死はともかく、ストーカーから守る自信は大いにある。
それに、この男が攻略対象の中で一番まともだと私は思う。海斗の場合、二人っきりになったら何をするか分からない。軟禁なんてざらにありそうだ。
彼女と一緒にバックルームに入ると、ちょうど彼がキッチンに向かうところだった。
「む、君達は最近入った子達か」
彼は基本表情をあまり変えない。ゲームだと背景のエフェクトで分かったが、現実になるとこうも分かりにくいのか。
彼女はすぐに可愛らしい笑顔を向けて挨拶をする。
そんなに誰彼構わず笑顔を振りまいていると、悪い虫がつきそうでハラハラしてしまう。彼女の博愛主義も良いところなのだが。
「はい、ホール担当の花宮愛です。よろしくお願いします」
「同じくホール担当の位方季々です。よろしくお願いします」
私も無難に挨拶を済ます。
すると、彼は一つ頷き、挨拶をした。
「花宮君に位方君か。私は秋坂紅葉だ。キッチンを担当している。呼び方は好きに呼んで構わない。よろしく頼む」
少し古風な言い回しをし、彼は一足先にキッチンに向かった。
さらっとした彼の言動に好印象を持った。
他の攻略対象は濃いキャラクターで落ち着かない。ある意味、前世にもいそうな平凡さが私に安心感をもたらした。
彼女の働く姿は懸命で応援したくなるほど健気だった。彼女の麗しさを表現できるボキャブラリーがない自分が情けなかった。
オーダーテイクを取り、キッチンに向かう彼女にすれ違いざまにボソッと女の先輩が鋭い眼差しで何かを呟いたことに気がついた。
彼女はその言葉を聞くと、少し悲しそうになり、小さく申し訳なさそうに頭を下げた。
私の怒りゲージは一気に跳ね上がった。
キッチンに入るとすぐに私は彼女に話しかける。
「愛ちゃん、大丈夫?何か言われてなかった?」
今すぐ、女の先輩をぶっ飛ばし、彼女を抱き締めたい気持ちをぐっと抑え、そう尋ねると彼女は首を振り、気にしないで、と言った。
「私が上手く立ち回れてなくて、魔姫先輩がフィードバックしてくれたの」
フィードバック。それにしても言い方があるのではないか。私がでも、と言いかけると彼女は制した。
「きーちゃん、心配しないで。魔姫先輩は良い人だよ」
そう言うが、私は魔姫への不信感が拭えなかった。
何故なら、暗田魔姫はこのゲームのライバルキャラでヒロインを殺す可能性のある、謂わば容疑者的存在なのだから。
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