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昼休み。
彼女から初出勤、海斗とシフトが被れ、色々教えてもらえたと嬉しそうに報告された。
私はまだシフト被れていないのに…くっ。
そして、どうやら海斗がアルバイトを始めた当初に使っていたメモを彼女に貸す為、ここで待ち合わせをしているそうだ。
彼女は落ち着かない様子で、頻繁に鏡で自分の身だしなみを確認している。
そんなことをしなくても、彼女はいつだって可愛いのに。この可愛さに気づけない人間は世界を探してもいないだろう。
時々、変じゃないかな?と尋ねてくる彼女に全然、と答えた。
しばらくすると、一人の男性がこちらに向かってきた。
きっと、裏設定を知らなければ、私もこの男を爽やかな好青年だと思っただろう。彼の実態はヤンデレ気味の腹黒男だ。一番読めない男。故に、死亡フラグも回避しづらい。
全く、恋愛のスパイスに死亡フラグを入れないでほしい。可愛い彼女が危険な目に遭うと思うと生きた心地がしない。
しばし、談笑する彼女を眺める。
時々、頬を染める少女のような健気な彼女を可愛いと思う反面、それを独占する海斗に歯ぎしりをしたくなる想いをしていた。
そんなジレンマを抱えていると、ふと海斗がこちらを見た。
「急にお邪魔してすみません。俺、こいつの高校時代の先輩で夏川海斗って言います。いつもこいつがお世話になってます」
まるで、彼女の兄のように紹介をする海斗。
馴れ馴れしさが鼻についたが、彼女の想い人だ。好感を持つよう努力せねば。
「初めまして、位方季々です。愛ちゃんからよく話は伺ってます」
そう言うと、彼女は恥ずかしそうにきーちゃん、と制した。
恥ずかしがる彼女も本当に可愛らしい。
「へぇ…」
海斗は彼女から話を伺うと言う点は気にしておらず、私を不思議なものでも見るかのように観察した。
桜太の時もそうだったが、彼女の周りの人間は私を邪な物のように見る。そんなに私はいやらしい目つきで彼女を見ているのだろうか?
もしそうであれば、改善しなければ。
鈍感な彼女でもいつかこの感情に気づき、嫌われてしまうかもしれない。末永く彼女とはお付き合いしていきたい。
一言二言会話を交わし、海斗と別れた。
名残惜しそうに海斗の背中を見守る彼女の健気さにキュンとするものの、その相手が相変わらず海斗だと思うと寂しい気持ちになった。
海斗の姿が見えなくなると、こちらに向き直り、彼女は照れ臭そうに言った。
「今の人が私の好きな人…」
彼女の初々しい反応に抱きしめたい衝動に駆られる。ここは、精一杯彼女を応援しなければ。
「やっぱりお似合いだよ。愛ちゃんに似合う素敵な人だね」
無難な回答をすると、彼女は少し不安そうな顔をする。
「海斗先輩、かっこよくて人当たりも良いからライバルが多くて…好きになってもらえるかな」
「愛ちゃんなら大丈夫だよ。絶対に」
思わず、絶対に、のところを強く言ってしまったが、元気付けてくれていると思ったのか笑顔でありがとう、と言ってくれた。
少しの出来事でも御礼を忘れない。慈悲深い彼女を好きにならない人なんていないだろう。うん、本心だ。
彼女を悲しませる人は許せない。
例えそれが彼女の想い人でも。
騒めく気持ちを抑えて、穏やかな昼下がりを過ごした。
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