季々の記憶メモ〜フォーシーズンズ・ラブ 主要エピソード〜
閲覧いただき、ありがとうございます。
季々が転生したフォーシーズンズ・ラブ〜貴女は何色に染まる?〜の原作の主要エピソードの一部回想です。季々が記憶を取り戻して、すぐに書き留めたメモです。本編2〜3話あたりの時間軸です。
乙女ゲームなので、回想の視点はヒロインである愛視点です。
いつもより長めのお話となっています。
一部、残酷な表現が含まれています。ご注意ください。
私、位方季々は気合を入れて、本日購入した大学ノートを開いた。そう、転生者としての記憶を取り戻した今、私はゲームの世界について整理をする必要があったからだ。
「さて、愛ちゃんのために転生者としての知識をフル活用して、死亡フラグから守るぞ!その為には、文字起こしして、対策を練らなければ…」
【ゲーム期間】高校三年生の3月から大学一年生の3月までの1年間。
【共通ルート】
3月→プロローグ
4月→チュートリアル&キャラ選択
11月あたり→告白イベント
12月→ルート分岐
3月→エンディング
各章(各月)に自由行動があり、ヒロインのスキルを上げることが出来る。
〜桜太ルート:メインイベント〜
【条件:攻略対象を選択し、死亡ルートを回避して、春を迎えると自動的に発動】
今日は桜太の毎年恒例のお披露目会だ。
私はいつもよりおめかしして、桜太の家を訪ねる。
桜太の家は沢山の人々がいた。今日の桜太の生け花を見に、これだけ多くの人が訪れるなんて…普段軽口を言い合っている桜太が遠い存在のように感じた。
その想いは桜太のお披露目会が始まって、さらに膨らんだ。
琴の音と共に、桜太は慣れた手つきで花に魔法をかけるように、花を活けていく。
私を含めその場にいた全ての人が桜太の生け花に目を奪われていた。
お披露目会の後、私は中庭で出されたお茶を飲みながら、遠くで人と話している桜太を眺めていた。
「…っ」
ふいに桜太と目が合う。桜太は話していた人に一礼すると、こちらに向かってきた。
私は一瞬身構えてしまう。
「愛、来てくれてありがとうな。ごめん、一人にさせて」
「ううん、気にしないで…凄かったよ、桜太」
そう言うと、桜太は少し照れ臭そうにはにかんだ。
私はいつもの桜太に少し安堵した。
「どうした?そんな寂しそうな顔して」
桜太は私の心を見抜いたようにそんな質問をしてきた。
相変わらず、桜太は私の気持ちに鋭い。
敵わないな、と思いながら、私は本音を打ち明ける。
「桜太が普段はあんなにおちゃらけてるのに、今日は凄くカッコ良かったから、距離を感じちゃったの」
そう言うと、桜太は頬を少し赤らめて、はぁ?っと素っ頓狂な声をあげた。
「馬鹿、俺は俺だっつうの。ほら、これやるから機嫌直せよ」
すると、花の香りが鼻腔をくすぐり、頭に何かが載った感触がした。
これは、花かんむり?
中庭にある池を覗くと、ピンクの花を基調とした花かんむりを載せた私がいた。
そして、隣で笑う桜太の姿があった。
「相変わらず器用だな、桜太。嬉しい、ありがとう」
私は胸に温かさを感じながら、微笑んだ。
〜桜太ルート:バッドエンド(一部)〜
【条件:12月までに攻略対象の好感度が50以下、1月冒頭にある『気になることがある』の選択肢を『彼のことだ』にすると自動的に発動】
とある喫茶店で、婦人達がヒソヒソとなにやら話していた。
「最近、桜太さんの生け花変わったことなくて?」
「ええ、迷いが生じているのかしら、纏まりがなくて、春森家らしくないわね」
婦人達の話の内容は「春森桜太の最近の生け花はらしくない」という話題で持ちきりだった。
春森家は、代々華道家として絶対的な地位を築いてきた。そんな春森家の後継である一人息子の桜太に期待している人々は少なくない。
そんな中、1人の婦人が声を低くして告げる。
「どうやら、桜太さんを誑かしている女がいるみたいなのよ…」
その一言で、婦人達の顔つきは一層険しいものとなった。
暫く、距離を置きたい。
突然、桜太からメッセージが来た。
それ以降、メッセージをしても、電話をしても、返事は来ず、一切の連絡が来なくなった。
不安になった私は桜太の家を訪ねることにした。
辿り着いた桜太の家は固く閉ざされていた。
どうやら、生憎の留守で誰もいないようだ。
諦めて踵を返そうとした時、女性の声が聞こえた。
「あら、貴女…もしかして、花宮愛さん?」
一人の和服を着た女性がにこやかな表情をして、こちらに挨拶をする。
私は慌てて会釈をする。桜太の知り合いだろうか。私が戸惑っていると女性は話を続ける。
「ごめんなさいね、急に驚かせてしまって…私、桜太さんの知り合いなの。桜太さんに伝言を頼まれて、少しお時間いただけないかしら?」
口下手な桜太のことだ。
もしかして、彼女に伝言を頼んだのかもしれない。それか、誘い文句が浮かばずに橋渡し役を頼まれたのかも。どのみち、断ったら、彼女が困ってしまうだろう。
私は頷いて、彼女についていくことにした。
辿り着いた先は、人気の少ない納屋のような場所。戸惑った私は彼女の方に振り向いた瞬間、彼女の険しい表情と共に、私は納屋の方に突き飛ばされた。そして、すぐに扉を閉められた。
私は足の痛みを感じ、ふらつきながら扉を叩く。
「何ですか!出してください!」
すると扉越しに冷たい声で言い放たれた。
「桜太さんを誑かした罰よ。身をわきまえなさい」
そして、彼女は足早に去っていった。
それから、毎日のように私の反応を楽しむように、代わる代わる女性が私に向けて罵倒を浴びせた。
日に日に悪化する足の痛みと増す空腹感。
「お、うた…」
無意識に枯れた声で私は桜太の名前を呼んだ。
数日後。
婦人達は納屋の扉を開ける。
「あら、死んじゃったわ。呆気なかったわね」
「でもこれで、桜太さんは華道に集中出来るわ」
婦人達は冷たくなった女の身体を見下しながら、嘲笑った。
1ヶ月後。
最近、愛が大学に来なくなった。
俺は最近、スランプで花がうまく生けることが出来なくなっていた。だから、愛と距離を置き、華道に集中しようと思ったのだが…
愛の友人が困惑したように俺に尋ねてきて、俺はようやく事に深刻さに気づいた。
どうやら、友人が連絡しても愛の応答がないらしい。
俺は1ヶ月ぶりに愛に連絡をするも、電話が繋がることはなかった。
心配になった俺は愛の住むマンションを訪ねた。しかし、何度インターホンを鳴らしても応答はなかった。
それから何日経っても、状況は変わらず、愛の行方は未だに分からない。
華道の稽古が終わり、今日も愛の行方を捜しに家を出ようとすると、見慣れた女性達が笑顔で俺を迎えた。
「桜太さん、どこに行かれるのですか?」
いつもと雰囲気の違う女性達に俺は戸惑いながら、人を探しに、と短く返答し、その場を離れようとした。
「花宮愛ならもういませんよ」
その言葉に俺は立ち止まった。
振り返ると、変わらず笑顔の女性達がそこにいた。
「邪魔者は居なくなりましたから、桜太さんは華道に専念してください」
俺は迷っていた。
一人の男として、好きな女性を優先すべきか、華道家として、生け花に専念すべきか。
迷った結果、俺は好きな女性も生け花の楽しさも両方失ってしまった。
とある喫茶店。
また、婦人達はヒソヒソと話し込んでいた。
「最近また桜太さんの生け花変わったことない?」
「ええ、花の無機質さが目立つ暗い活け方をするようになったわよね」
「もう春森家も駄目ね」
昼下がり、女性達はいつもの喫茶店で花のように笑うのだった。
〜桜太ルート:ノーマルエンド〜
【条件:12月までに攻略対象の好感度を50以上90未満だと3月に自動的に発動】
「はぁ、やっと着いた!」
森の中、辿り着いたのは昔、桜太と二人で作った秘密基地だ。洞穴には、昔敷いたレジャーシートが残っており、奥に入ると、一度土を掘り返した跡がある場所を見つけた。
この跡は、私達がタイムカプセルを埋めた場所だ。小学校の卒業式の時に埋めてから7年。大学生になった私達は掘り起こすことに決めたのだ。
何年振りにシャベルで土を掘り返す。
なんだか、子供の頃に戻ったみたいで笑みが溢れる。ふと、桜太の方を見ると、桜太も活き活きとした顔つきで、地面を掘っている。
暫くすると、缶で出来たお菓子の箱が出てきた。
箱を開けるとそこにはかつて好きだったおもちゃと互いに宛てた手紙が入っていた。
もう7年も経っている。
桜太のことを想いながら書いたはずの手紙の内容は、もう覚えていない。
…変なこと、書いてないといいな。
そんなことを考えながら、私は桜太が書いた私宛の手紙を読んだ。
数年後の愛へ。
元気にしてるか?これを読んでる時、お前は数年後も俺と一緒にいるのかな。
お前の鈍臭さは相変わらずか?もしそうなら、俺はまだ手を焼いているのかな。
相変わらずの憎まれ口の叩きように、私の頬は緩む。手紙はまだ続いているようで、私は再び読み進める。
俺の天邪鬼なところもまだ健在か?そうだったら、いつもごめんな。そして、こんな俺と仲良くしてくれてありがとう。いつもお前のこと貶してるけど、本当に嫌いなわけではないから。
少しずつ直していけるように努力する。もし、今の俺がお前を傷つけているのなら、この手紙を見せてやってくれ。
どうか、お前との縁が今でも続いてますように。これからもよろしくな。
桜太より
桜太らしい手紙を読み終え、ふと桜太の方を見ると僅かに頬を赤くし、微笑む桜太がいた。
「何笑ってるんだよ」
「そっちこそ」
相変わらずの軽口に私達は笑い合う。
「ねえ、桜太。これからもよろしくね?」
私がそう告げると、桜太はもちろん、と言って私の頭を撫でる。
7年経っても変わらない関係。
どうかこの心地よい関係がいつまでも続きますように。
私はそう願いながら、桜太との時間を楽しむのだった。
〜桜太ルート:ハッピーエンド〜
【条件:12月までに攻略対象の好感度を90以上にすると3月に自動的に発動】
私は本屋にあった雑誌に目が留まる。
「期待の華道家、春森桜太の実態」
最近、桜太は華道家としても才能を存分に発揮し、ついにメディアにも露出するほど、有名になった。
私は桜太の活躍を嬉しく思う。
だって、桜太はずっと華道家として、頑張ってきていたから。
雑誌を手にとってパラパラと読む。
桜太のグラビアも載せられており、普段とは違い、格好つけてる桜太に思わず笑ってしまう。
「おーい、なに、彼氏との待ち合わせを放置して、雑誌に釘付けになってるんですかー?」
雑誌に夢中になっていると、後ろから声が聞こえ、抱き締められる。
振り向かなくても分かる、桜太だ。
「桜太が格好つけて、らしくないポーズで写ってるから面白くて」
そう言うと桜太は不貞腐れるように文句を言う。
「そこはお世辞でもカッコいいとか言ってくれよ…」
いじけた桜太を抱きしめ返し、ごめんと笑いながら謝る。
すると、桜太は私の耳を軽く噛んだ。
一気に耳に熱が集まるのを感じる。
「彼氏に冷たくしたおしおきな」
耳元で囁かれて、私は思わず桜太から離れようとしたが、桜太は相変わらず私の腰を掴み離さない。
「桜太!」
「真っ赤になってやんの、相変わらず可愛いな、愛は」
珍しく可愛いと言われ、耳だけではなく、顔全体が熱くなるのを感じた。
ずっと幼なじみとして過ごしてきたのだ、こういう恋人らしいことには未だ慣れない自分がいる。
そんな私の想いを知ってか知らずか、付き合い始めてからの桜太のスキンシップは異常に増えた。
…まあ、恥ずかしい反面嬉しいと思っている自分がいるのだが。
「最近、俺の生け花が色っぽいとか鮮やかになったとか評価が上がっているんだよ」
私の肩越しに桜太は自分のグラビアを見る。
確かに、ここにも桜太が活けた花が載っているが、前のお披露目会の時に見たものより格段に綺麗だ。素人目でも、腕が上がっていることを感じる。
「お前のおかげだよ、ありがとうな」
「え?私がなんで…っ!」
素人の私がしてあげれることなんて、何もない。私が理由を尋ねようと思い、振り返ると頬にキスをされた。
そして、無邪気な笑顔で桜太は言う。
「それは愛自身が分かるまで宿題な」
私は不満の声を漏らしながら、本屋から離れる桜太を慌てて追いかける。
不意に風に吹かれ、桜太の髪の隙間から赤くなった耳が見え、私は思わず口元を緩ませてしまった。
…桜太も恥ずかしいのか。
幼なじみ歴の方が長い私達。
これから、ゆっくり私達のペースで恋人としての関係が続いていくのだろう。
不器用な彼氏とのスローライフはここから始まるのだー。
〜海斗ルート:メインイベント〜
【条件:攻略対象を選択し、死亡ルートを回避して、夏を迎えると自動的に発動】
今日は海斗先輩とプールに遊びに来ている。
高校時代から憧れていた海斗先輩と夏休みを過ごせるなんて夢みたい。
思わず、新しく水着を新調しちゃった。
海斗先輩、気に入ってくれるかな?
そう思いながら、私は更衣室を抜けて、海斗先輩のところへ向かう。
私に気がついた海斗先輩は目を丸くする。
何だろう、もしかしてタグ付けっぱなしだったかな?
私は咄嗟に水着を確認したが、どうやらタグはちゃんと切ってあったようだ。
私が海斗先輩の反応に戸惑っていると、海斗先輩は我に返ったようで、早足で私のところに来た。
そして、すぐにパーカーを着せられてしまった。私は不安になり、思わず海斗先輩に尋ねた。
「似合ってないかな、この水着」
「似合ってるよ。でも、こういうところはナンパ目的で来る人も多いから、プール入らない時はこれ着てなさい」
まるで、父親のようだ。
私は娘か妹か何かなのだろうか?
思わず落ち込んでしまった私に海斗先輩は手を差し出した。その表情は少し困ったようなものだった。
「お前が可愛いから心配なの。だから、ほら行くぞ。今日は楽しむんだろう?」
これは手を繋いでいいと言うことなのだろうか?私はおずおずと差し出された手を取る。
すると、海斗先輩は私の手を強く握ってくれた。
可愛いと言われてしまった。
私は嬉しくなって、頬を緩ませた。
海斗先輩の逞しい背中を見ながら、心の中で思わず問いかけてしまう。
海斗先輩、期待してもいいですか?
先程の海斗先輩の行動が、独占欲の表れのように感じたのは私の気のせいだろうか。
気のせいじゃないといいな、と私は胸の高鳴りを感じながら、そう願った。
〜海斗ルート:バッドエンド(一部)〜
【条件:12月までに攻略対象の好感度が50以下、1月冒頭にある『気になることがある』の選択肢を『彼のことだ』にすると自動的に発動】
ある日、私は急に海斗先輩に呼び出された。
呼び出された先は海斗先輩の自宅。
好きな人の家に遊びに行くのは誰だって緊張するものだ。ドキドキしながら、インターホンを鳴らすと、すぐに海斗先輩は開けてくれた。
…あれ。
気のせいだろうか、一瞬いつもと雰囲気が違ったように感じた。
「ごめんな、呼び出しちゃって。さ、どうぞ」
お邪魔します、と言って、私は海斗先輩の部屋に入る。
私は座布団の上に座り、海斗先輩が飲み物を準備してくれている間、キョロキョロと部屋を見回した。
そして、ふとクローゼットの隙間から配線が伸び、近くのコンセントに繋がれていることに気がついた。
何故、クローゼットからそんなものが?
今日は疑問ばかりが浮かぶ。
頭の中に解決されていない疑問を浮かべながら、私は海斗先輩が持ってきてくれたコーヒーを飲む。
そういえば、海斗先輩がコーヒーを淹れるの珍しいな。海斗先輩、高校の時から、いつも私には紅茶をくれたのに。
コーヒーを飲んで、暫くすると抗えないほどの睡魔に襲われた。
おかしいな、昨日はちゃんと寝たのに…
新たな疑問を考える暇もなく、私は深い眠りについた。
眠る瞬間、私は海斗先輩が笑っていたように見えた。
「おはよう」
次に目が覚めたのは、海斗先輩のベッドの上。ゆっくり目を開けると、海斗先輩が笑顔でこちらを見ていた。
どれくらい眠っていたのだろうか、そして海斗先輩はいつから私の寝顔を見ていたのだろうか。
私は慌てて上体を起こそうとした…が、それは出来なかった。
手足を手錠で繋がれ、ベッドに固定され、動けなくなっていたからだ。
「か、いと、先輩…?」
手錠の感触が冷たい氷のように感じた。
海斗先輩はこんな異様な状況なのに笑顔のままだ。
異様な状況を作ったのは海斗先輩だから…?
「愛はいつも俺を慕ってくれたよね。俺もそんな可愛らしい愛が大好きだよ…だから、何処かに行ってしまうのが怖いんだ」
分かってくれるよな、と言った海斗先輩の瞳は暗い闇に覆われている気がした。
怯えた私は思わず情けない声を上げてしまった。
「はは、どうしてそんなに怖がっているんだい?大丈夫、すぐに慣れるよ…」
そこから、私と海斗先輩の同居生活が始まった。
同居生活といっても、甘酸っぱいものではない。トイレもお風呂も行かせてもらえない、オムツ替えも身体を拭くのも全部海斗先輩がしている。身体的なダメージよりも精神的な負担が大きかった。
そんなある日、私は海斗先輩の機嫌を損ねてしまった。
この生活が辛くて思わず泣き言を零してしまったのだ。
すると、海斗先輩の目つきが変わった。
「愛になら理解してもらえると思ったんだけどな…」
残念そうに呟いた海斗先輩はキッチンから包丁を持ってきた。
「海斗先輩、何するんですか?」
そう尋ねると、海斗先輩は笑顔になる。
高校時代からあんなに大好きだった海斗先輩の笑顔は今では恐怖の対象でしかなかった。
「大丈夫、すぐに楽になるよ」
次の瞬間、私の思考は弾け飛んだ。
最後に見たのは、血に染まる私の胸。
何でこうなってしまったんだろう。
私はただ、海斗先輩が好きなだけだったのに…
ついに、俺は愛を殺めてしまった。
人を殺した俺は興奮しているのか、悲しんでいるのか、震えが止まらなかった。
頬に伝う冷たい感触で、俺は自分が悲しんでいることに気がついた。
「これで愛はどこにも行かないよな。永遠に俺のところにいてくれるよな」
俺はクローゼットを開ける。
そこには、服を掛けるパイプや服の代わりに大型の冷蔵庫が入っていた。
「出来ればこれは使いたくなかったんだけどな…念のため、愛には新しい部屋を用意したんだよ」
俺はお姫様抱っこをして、愛を冷蔵庫の中に入れる。体育座りした愛は狭そうだったが、ギリギリ入ってくれた。
「これで、いつも一緒だよな?愛…」
寂しげに呟かれたその問いかけに答える声はなかった。
〜海斗ルート:ノーマルエンド〜
【条件:12月までに攻略対象の好感度を50以上90未満だと3月に自動的に発動】
今日は海斗先輩に講義のノートを貸してもらう為、食堂で待ち合わせをしていた。
そして、そのお礼に私はパウンドケーキを焼いてきた。高校時代はよく、海斗先輩にケーキを食べてもらったものだ。
私は昔を思い出し、ノスタルジーに浸ってしまう。
「なに、黄昏ちゃってんの?」
頭にぽん、とノートを置かれ、振り向くとそこには海斗先輩がいた。
私がノートを受け取ると、海斗先輩は隣の席に腰かけた。
「その授業、暗記すればA判定貰えるから」
「ありがとうございます…あの、これ良かったらお礼に」
私はさりげなく手作りのパウンドケーキを差し出す。すると、海斗先輩は嬉しそうにありがとう、と言いながら包みを開ける。
「ちょうど、腹が減ってたんだよ…お、美味い!」
手で掴み、海斗先輩は美味しそうにケーキを頬張った。幸せそうな海斗先輩を見ると、嬉しくなってしまう。
ケーキを食べている海斗先輩を眺めていると、急に一切れのケーキを私の方に差し出した。
「一緒に食べた方が美味いんだろ?」
そういえば、初めて海斗先輩にケーキを渡した時、そう言って食べてもらったんだっけ。
私は少しの恥ずかしさを覚えながら、差し出されたケーキを口にする。
唇に海斗先輩の指が触れて、思わず身体を強張らせてしまった。
「どう、美味い?」
私の唇に触れた指はケーキのかけらが付いており、海斗先輩はその指を舐めた。
その仕草が色っぽくて、私は思わずドキッとしてしまった。
「お、美味しいです…」
そっか、と海斗先輩は無邪気に微笑み、再びケーキを食べ始める。
高校時代と変わらない海斗先輩との関係。
この関係はまだまだ続きそうで、嬉しいのやら、悲しいのやら。
複雑な気持ちになりながら、私は今日も海斗先輩の笑顔で元気をもらうのだった。
〜海斗ルート:ハッピーエンド〜
【条件:12月までに攻略対象の好感度を90以上にすると3月に自動的に発動】
「海斗先輩と愛先輩じゃないですか!お久しぶりです!」
1年ぶりに母校を訪ねると、部活の練習をしていた後輩に偶然出くわした。
休日、私達は母校にアポイントメントを取って、久々に遊びにきたのだ。
久しぶりの校舎に先生、後輩に私達は高校時代に戻ったかのように、色んなところを探索し、昔を懐かしんだ。
そして、屋上の扉を開けると、懐かしい想い出が蘇ってきた。楽しい時も辛かった時も、ここの景色を眺めていたことが多かった。
海斗先輩も思うところがあるのか、屋上から校庭を見下ろし、懐かしむように眺めていた。
高校時代、本当にあっという間だった。
まさか、憧れの先輩と付き合うことになるとは夢にも思わなかった。
そんなことを考えながら、隣にいる海斗先輩を見る。
視線に気づいた海斗先輩はこちらを見て、首を傾げた。
「なんだかこの1年間色々あったな、って思って」
そう言うと、海斗先輩は頷く。
大学に入って、海斗先輩と再会してから色んなことがあって、気がついたら海斗先輩の彼女になって…
「そうだな…まさか可愛い後輩と付き合えるとは思ってもみなかったよ」
海斗先輩は事あるごとに私のことを可愛い、可愛いと言ってくる。
まだ妹扱いされているんじゃないかと思うと、複雑で仕方がない。
私は先輩を抱き締める。
「もう可愛い後輩じゃありません!先輩の彼女です」
そう言うと、海斗先輩はそうだったな、と言って私にキスをする。
真っ赤になった私を見て、海斗先輩は馬鹿にしたような表情を見せる。
「キスだけで顔を真っ赤にして、やっぱりお前は可愛いな」
私は何も反論出来ず、ただ海斗先輩の胸を叩いた。
相変わらず、無邪気な先輩に振り回されている私ですが、こんな日常は私にとってかけがえのないもの。これからもこの日々を大切にしていきたいな。
そんなことを想いながら、思い出の詰まった屋上で新しい思い出を作るのだった。
〜紅葉ルート:メインイベント〜
【条件:攻略対象を選択し、死亡ルートを回避して、秋を迎えると自動的に発動】
「紅葉さん!」
「花宮くん、おはよう」
今日は紅葉さんと公園でピクニックをする予定だ。この前、読んだ本でピクニックを楽しむ描写が描かれていた。
そして、紅葉さんがピクニックをしたことがなく、興味があるということで、今日ピクニックをすることになったのだ。
それにしても、紅葉さんはいつにも増して大荷物だ。
思わず凝視してしまった私を紅葉さんは不思議そうに見る。
「凄い荷物ですね…」
「ああ、これか…レジャーシートにウェットティッシュ、弁当にスープ、飲み物を持ってきている」
「お弁当やスープも持ってきてくれたんですか?」
私もお弁当を作ってきた。今日はバリエーション豊かなピクニックになりそうだ。
「あとは私がお気に入りの本を数冊持ってきた」
本も持ってきているとは。どうりで登山用のリュックを持ってきているわけだ。
…リュック、重くないのかな。
私はそんなことを思いながら、公園に向かった。
平日のお昼の公演は空いていた。
広大な草原にレジャーシートを敷いて、弁当を広げる。
「うわぁ、可愛い!これ、紅葉さんが作ったんですか?」
紅葉が持ってきたのは、所謂キャラ弁というものだった。うざきやくまの形をしたご飯やタコさんウィンナーなど、可愛く象られておる。
「ああ、こういうピクニックではキャラ弁が良いとネットに書いてあってな」
なるほど、紅葉さんはそれを参考にしたのか。
流石、器用な紅葉さん。
紅葉さんの雰囲気とキャラ弁がミスマッチで、私は思わずまじまじと眺めてしまった。
「君のお弁当もとても美味しそうだ」
紅葉さんは柔らかい笑みを浮かべる。
…私ももう少し、可愛らしいお弁当を作ればよかったな。
お弁当を食べながら、他愛もない話をして、食べ終わった後は、読書に耽る。
とても良い昼下がりを過ごしている気分だ。
「こういう過ごし方も悪くないな」
どうやら、紅葉さんも同じ気持ちのようで、満足そうに頷いていた。
「そうですね。また来ましょうね!」
そう言うと、紅葉は笑顔で賛同した。
こうして私達は自然に囲まれゆっくりした時を過ごしたのだった。
〜紅葉ルート:バッドエンド(一部)〜
【条件:12月までに攻略対象の好感度が50以下、1月冒頭にある『気になることがある』の選択肢を『彼のことだ』にすると自動的に発動】
…紅葉さんから連絡が途絶えた。
最後の連絡は彼からの電話だった。
「やはり、私達は恋仲にはなれない…すまない、君のせいではない。それだけは忘れないでくれ」
突然のことに、頭が真っ白になり、私は何も言えずに電話を終えてしまった。
その後、何度も掛け直しても紅葉さんからの返信は来なかった。
それからの私は退屈な日常を過ごしていた。
何をしてもつまらない。思い出すのは、紅葉さんのことばかり。
料理をすると、ピクニックでの出来事を思い出し、本を読むと、紅葉さんと語り合ったことを思い出し、講義を受けると、紅葉さんに教えてもらったことを思い出す。
日常の些細なことにも、いつも紅葉さんがいた。
私は堪らなくなって立ち上がる。
やはり、このまま終わらせてしまってはダメだ。
今日は紅葉さんがバイトに入っているはずだ。シフト表を確認した私は身支度を済ませて、家を出た。
早く、早く、あの人に会いたい。
会って、ちゃんと話しがしたい。
私は早足で、バイト先に向かう。
途中、踏切に差し掛かった。
早くしないと足止めを食らうと思った私は走って、踏切に入る。
「…っ!」
ガクンと私はバランスを崩す。
足元を見ると、ヒールが線路に挟まってしまったみたいだ。
私は焦って靴を脱ぐ。 すると、踏切の音が鳴り響き、遠くから電車が向かってくるのが見えた。
早く逃げなければ。
立ち上がろうとした瞬間、私は右足に電流が入ったような痛みを感じた。
どうやら、先程バランスを崩した時に足を痛めてしまったようだ。
上手く、足が動かない。
「うそ…いやあああ!」
モタモタしているうちに、電車が来て、私は大きな衝撃を受けた。
「なんだか、騒がしいな」
キッチンまで聞こえるほど、ホールは騒然としていた。覗いてみると、ホールに設置してあるテレビから近くの踏切で事故があったことを報道されていた。
すると、速報のテロップが流れ、私は思わずそのテロップを凝視してしまった。
ニュースキャスターも慌てて速報について、説明をする。
「先程の踏切事故ですが、身元が判明しました。亡くなられた四季学院大学の花宮愛さんはー」
嘘だ。
私は嫌な汗が背中を伝うのを感じる。
しかし、現実逃避をしようとする私とは裏腹に辺りは一層騒がしくなる。
客だけではなく、スタッフも動揺を隠せないでいる。
「愛ちゃんってここで働いているスタッフだったよな」
「花宮ちゃん、嘘でしょう?」
それから先は覚えていない。
気づけば、私は彼女の葬式に参列していた。
電車でぐちゃぐちゃにされた彼女の死に顔は見ることが出来ず、彼女の顔を見た家族は顔を青ざめながら、席に座っていた。
帰り際、彼女の母が私を呼び止めた。
「…もしかして、秋坂紅葉さん?」
私は頷く。
すると、彼女の母は悲しみに顔を歪めながら、私に携帯電話を差し出す。
私は意図が読めずに首を傾げると、見てほしい、と私に携帯電話を持つことを促した。
携帯電話を見ると、そこには日記アプリが開かれており、私のことが書かれていた。
12月31日
紅葉さんから急に距離を置きたいと連絡があった。頭が真っ白、どうしてこうなってしまったんだろう?
1月7日
紅葉さんと連絡が取れなくなって1週間。
考えないようにしようとしても、頭に浮かぶのはあの人のことばかり。
1月15日
2週間が過ぎ、やっぱり諦められないから、今からバイト先に押しかけてみようと思う。
シフト表を見たら、入ってるし、居るはず。
嫌われちゃうかもしれないけれど…このまま何もせず終わるのは嫌だ!
そして、その日を最後に日記は途絶えている。
彼女の母を見ると、どこか恨めしげに私を見ている。
「最期、娘は貴方に会おうとして踏切で事故にあったのよ…」
その言葉が私の心に重くのしかかった。
数日後。
私は彼女の墓に居た。
「…私は君のことが好きだった。でも、君を幸せにする自信がなかったんだ」
すまない、すまない、と私はもう居ない彼女に謝罪の言葉を繰り返した。
「…ここで謝っても仕方がない、今から君に会いに行くよ」
暫くして、1人の男の遺体が墓の近くにある森で見つかったのだった。
〜紅葉ルート:ノーマルエンド〜
【条件:12月までに攻略対象の好感度を50以上90未満だと3月に自動的に発動】
私はホールに出ると、紅葉さんが席に座っていた。今日は紅葉さんはシフトが入っておらず、私だけ入っていた。
いつもキッチンにいる紅葉さんと私は働いている時、接点があまりない。
この前、紅葉さんが私が働いている時に遊びに来たいと言っていたので、今日紅葉さんは客として来ている。
私は少し迷った後、他のお客様同様の対応をした。
「ご注文お決まりでしょうか?お伺いします」
そう言うと、紅葉さんは少し戸惑いながらも、コーヒーとサンドイッチを頼んだ。
「畏まりました。少々お待ちください」
今は比較的、店も空いている。
料理が出来るまで、手が空いた私はお手拭きにサインペンで紅葉さんにメッセージを書いた。
「『御来店ありがとうございます。来てくれて嬉しいです』愛ちゃん尽くすねえ」
私がメッセージを書いていると、後ろから主婦のパートの方が揶揄うようにメッセージを読んだ。
私は真っ赤になって、そのお手拭きをトレイに置き、コーヒーとサンドイッチの準備が出来たので、持っていくことにした。
「お待たせしました。ごゆっくりお過ごしください」
私は恥ずかしくなって、そそくさと退散し、遠くで紅葉さんが食事をしているところを見守った。
私のメッセージに気づいた紅葉さんは1人小さく微笑んだ。
私はそれが嬉しくて、思わず胸がぎゅっとなった。
1時間後。
紅葉さんは会計に向かった。
私は慌てて、レジに向かう。
「980円です」
紅葉さんはお金と一緒に机にあったペーパーナプキンを私に渡す。
「ご馳走さま。また後で」
そう言われて、ナプキンを見ると。
『20時に駅前で待ってる』
20時にバイトが終わる予定だ。
あと4時間。
私は胸を高鳴らせながら、今か今かとバイトが終わるのを待った。
バイトが終わると、バイト先のみんなに揶揄われながら、私は彼の待つ駅前へと向かった。
駅前に辿り着くと、そこには笑顔の彼がいた。
彼の柔らかな笑顔は疲れた身体を癒す薬だ。
大好きな彼の笑顔に癒されながら、私は今日も1日を終えた。
〜紅葉ルート:ハッピーエンド〜
【条件:12月までに攻略対象の好感度を90以上にすると3月に自動的に発動】
今日は紅葉さんと図書館デートだ。
本好きの私たちは各々で好きな本を読み耽っていた。
私はふと紅葉さんの読んでいる本を見た。
それは、昔私が読んだシリーズ本だった。
「あ、それ。私、昔読んだことあります。面白いですよね」
「ああ、まだ1シリーズ目だがとても興味深い題材だ」
普段大人びて見える紅葉さんが無邪気な瞳で本を見ているのがなんだか可愛らしくて、私は思わず笑ってしまう。
「何か面白いことでもあったのか?」
まさか自分のことを話しているとは思っていない紅葉さんは不思議そうに私に尋ねた。
私は内緒です、と意地悪そうな笑みを浮かべて答えた。
「君もそういう意地悪な顔をするんだな」
なぜか嬉しそうな表情をする紅葉さんは、私と紅葉さんの間に開いた本を翳し、キスをした。
「な、何を」
動揺する私を見て、紅葉さんは人差し指を口元に当てる仕草を見せる。
「図書館では静かにしないとな」
普段見せない紅葉さんの姿に私の胸の鼓動は高鳴るばかりだった。
これからも私は彼の新たな一面を見る度にドキドキが止まらなくなるのだろう、と私は胸に手を抑えてそう思った。
…私の心臓、もつかな。
〜雪之助ルート:メインイベント〜
【条件:攻略対象を選択し、死亡ルートを回避して、冬を迎えると自動的に発動】
「ここに居たんだ、愛ちゃん」
雪之助さんの家がやっている旅館に訪れた私は温泉に入った後、館内を散策していた。
僅かに髪が濡れた雪之助さんは、いつもより色っぽさが増していた。
それに、浴衣姿も新鮮で、なんだかドキドキしてしまう。
「顔真っ赤だよ?のぼせちゃったのかな?それとも…」
ぼうっと雪之助さんを見ていた私の顎を掴み、顔を近づける。
「ゆ、雪之助さん!顔近いです!」
そう言うと、雪之助さんは笑ってすぐに手を離した。
「冗談だよ。それより、さっきビリヤード見ていたけれど、興味あるの?」
雪之助さんに声をかけられる前、ゲームコーナーの真ん中に占められていた大きなビリヤードに目を奪われていた。
とはいえ、私はビリヤードをしたことがない。私が首を振ると、雪之助さんはウィンクをして、じゃあやってみよう、と私にキューを渡した。
やろうとしてみるものの、身長が足りないのか、全然上手くいかない。
「こうするといいよ…狙いを定めて…」
手こずっている私に覆い被さるように雪之助さんはキューを握り、アシストをしてくれる。
レクチャーをしてくれていると分かっていても、耳にかかる吐息や密着度に集中できない。
「手、震えているよ?」
そんな動揺に気づいているのか、雪之助さんは可笑しそうに笑う。
揶揄ってるのか、と反論しようとする私を宥めて、ブレイクショットをする。
「わ、やった!」
ポケットに入り、私は思わず歓喜の声をあげた。
「ナイスプレーだね、愛ちゃん」
そう言って、私は雪之助さんとハイタッチをする。ファンクラブも出来るほどの人気者なのに、今は凄く身近に感じる。
私は雪之助さんとの距離が近づいた気がして、嬉しさを覚えながら、雪之助さんとゲームコーナーで楽しいひとときを過ごしたのだった。
〜雪之助ルート:バッドエンド(一部)〜
【条件:12月までに攻略対象の好感度が50以下、1月冒頭にある『気になることがある』の選択肢を『彼のことだ』にすると自動的に発動】
雪之助さんとなかなか会えない日々が続いている。原因はおそらく雪之助さんのファンクラブのせいだろうと、推測している。
そして、それが確信に変わったのは、ファンクラブと思われる人達に下校時に絡まれ、人気の少ない場所に連れてかれた廃ビルの屋上に連れてかれ、確信に変わった。
「アンタ、雪之助に気に入られているからって良い気になっているんじゃないわよ!」
「そんなつもりは…」
「雪之助はみんなのものなんだからね!」
雪之助さんは誰のものでもない。
私が思わず不満そうな顔をしたのが良くなかったのだろう。
ファンクラブ会員の人達はじりじりと距離を詰めてきた。
私は、屋上にある手摺に背中を預けた。
「雪之助から離れなさいよ!このあばずれ女!」
誰かがそう言って私の肩を強く叩いた。
それと同時にガシャンと音がして、視界が反転した。
最後に見たのは、ファンクラブ会員の人達の驚いたような表情。
嘘、私、落ちているの?
まだ、雪之助さんに気持ちを伝えてないのに、こんな…
そして、私の意識は飛んだ。
彼女が事故にあったと聞いて、僕はすぐに病院に向かった。
しかし、僕が辿り着いた頃には彼女はもうすでに息絶えていた。
「愛ちゃん…?」
白い布に覆われた彼女からの返事はない。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
何でこんなことになったんだ?
屋上の手摺が壊れて、落ちたと聞いたが、何で廃ビルなんかに?
現実を受け止めきれず、疑問ばかりが僕の脳内を駆け巡る。
不意に、誰かの声が病室の外から聞こえた。
「ねえ、301号室の花宮さん。揉めてトラブルになって死んだらしいわよ」
「聞いたわ、男関係でしょう?女の嫉妬ってやつかしら?」
恐らく、看護師だろう。病室の前でこんなことを喋るなんて不謹慎な人達だ、と僕の顔は歪んだ。
そして、彼女たちの会話で1つの可能性に気がつく。
もしかして、僕のせいで死んだのか?
ファンクラブ会員とちゃんと話し合わなかった僕のせいで…
混乱していた僕の脳が急激に冷えていくのを感じた。
これは僕の不始末だ。じゃあ、僕が後始末をしなければ。
私は血がついた彼女の髪を掬い、キスをする。
「君のこと好きになってごめんね…ちゃんとケリをつけるから」
そうして、雪之助は病室から離れた。
数ヶ月後。
雪之助は歌いながら、ダイニングでニュースを見ながら、珈琲を飲んでいた。
ニュースには、女子大生集団行方不明と大々的に報道されていた。
ここ最近、女子大生が次々と行方不明になっているが、未だ犯人の消息は掴めておらず、真実は迷宮入りするのでは、と世間を騒がせている。
そんなニュースをつまらなさそうに見ていた雪之助はぽつりと呟く。
「君の死の原因も見抜けないような愚かな世界で生きるのは苦痛だよ…」
珈琲の水面に浮かんだのは、血に濡れた雪之助の顔だった。
〜雪之助ルート:ノーマルエンド〜
【条件:12月までに攻略対象の好感度を50以上90未満だと3月に自動的に発動】
最近、雪之助さんとよくシフトが被る。
そのお陰で、私は雪之助さんと色んな話をすることが出来、距離もどんどん縮まっている気がした。
私は給仕をしながら、雪之助さんを盗み見る。ウェイター姿の雪之助さんは本当に着こなしが出来て、素敵だ。それに外見だけではなく、接客も丁寧で完璧だ。流石、旅館の息子である。
私も雪之助さんみたいに頑張らなきゃ…!
そう思った私はいつもより笑顔とホスピタリティを心掛けて、お客様と接した。
そんな時、いつもの常連さんが声を掛ける。
「愛ちゃん、今日は一段とかわいいね」
私はありがとうございます、と御礼を言い、給仕に戻ろうとしたが、手を掴まれる。
「ね、連絡先教えてよ。もっと愛ちゃんのこと知りたいなあ」
私は戸惑いながら、どう対応するか困ってしまった。
「お客様」
雪之助さんが常連さんの手を取り、恭しくお辞儀をする。
「私が給仕を引き継いでもよろしいでしょうか?」
雪之助さんの所作に見惚れた男性は、思わず頷いてしまう。
「ありがとうございます。お客様は珈琲もお好きですが、甘いものもお好きでしたよね?本日のオススメは当店オリジナルのウィンナーコーヒーです。如何でしょうか?」
「じゃあそれを…」
かしこまりました、と礼をする雪之助さんはこっそり私にだけ見えるようにウィンクをしてくれた。
「雪之助さん、先程はありがとうございました」
例の男性が帰った後、私は雪之助さんにお礼を言った。すると、雪之助さんは微笑んで、どういたしまして、と言ってくれた。
男性も魅了する雪之助さんの魅力に私もやられてしまいそうです。
〜雪之助ルート:ハッピーエンド〜
【条件:12月までに攻略対象の好感度を90以上にすると3月に自動的に発動】
晴れて雪之助さんとお付き合いすることになって1ヶ月が経ったある日。
私は大学にある教会に来ていた。
礼拝時間ではないので、人も居らず、私は1人で教会の中に入った。
私は教会の椅子に座って、ステンドグラスを眺めながら、今までのことを思い返す。
数ヶ月前、雪之助さんとの関係に思い悩んだとき、泣きながらここで自問自答をしていた自分を思い出し、懐かしくなる。
…あの時は凄く辛かった。
叶わない願いだと、そう思っていたから。
あんな人気者を好きになって、ファンクラブ会員にも目をつけられて、一時はどうなることかと思ったけれど、気づけば隣には雪之助さんがいた。
扉が開かれる音がして、私は振り向く。
そこには、驚いたような顔をした雪之助さんが立っていた。
「愛ちゃんもここに来ていたんだ」
私が頷くと雪之助さんは私の隣に座った。
「実は愛ちゃんと付き合う前に何度かここで考え事をしていたんだ。本当に君を幸せに出来るのか、とかね」
今度は私が驚く番だった。まさか雪之助さんも同じようなことをしていたなんて。
「だから今日はお礼と誓いをしようと思ってここに来たんだ」
雪之助さんは立ち上がり、私の前で跪く。
「僕の誓いに付き合ってくれる?」
私は頷き、雪之助さんの手を取り、祭壇に向かう。
「楽しいことも辛いことも2人で分け合っていこう。これから何年先でも君を愛し続けるよ」
「私も誓います。2人で幸せになりましょうね」
こうして私達は教会で2人だけの誓いを立てて、キスをしたのだった。
・魔姫バッドエンド(一部)
【条件:12月までに攻略対象の好感度が50以下、1月冒頭にある『気になることがある』の選択肢を『嫌がらせのことだ』にすると自動的に発動】
日に日にエスカレートしている嫌がらせ。
郵便受けにゴミを入れられたり、植木鉢を落とされたり、ネット掲示板でデマを拡げられたり…
私は精神的にも身体的にも疲れ果てて来ていた。この嫌がらせをしている人物に、私は気がついていた。
暗田魔姫。彼女が一連の主犯だろう。
規模が大きいことから、おそらく魔姫の仲間が手助けをしているのだろう。
この前、偶然バイト先のバックルームで携帯をロッカーに仕舞い忘れた人がいた。
その携帯のメッセージ表示にはこう記されていた。
『この前の掲示板、足がつきそうよ。早急に対処して』
彼女から送られてきたメッセージにはそう書いてあった。
そして、その日のうちにその書き込みは削除されていた。
この嫌がらせに彼女が関わっているのは前から気づいていたが、これをきっかけに主犯が彼女であることを確信した。
今日は彼女とバイトのシフトが被っている。
…話してみよう。
私は意を決して、バイト先に向かった。
バイトが終わり、私は彼女に声をかけた。
すると、彼女も私と話したかったらしく、人気の少ない場所に連れてこられた。
初めは冷静だった彼女も話していくうちに興奮し、彼女は甲高い声で怒鳴った。
「気に入らない、あの人と何で貴女が仲が良いの?何も努力をしていないくせに!」
顔を歪めて、話す彼女。
私は彼女に何て声をかければいいか分からなかった。
…嫌がらせをやめてくれるには相当な時間がかかりそうだ。
すると、彼女は急に笑顔になり、パチンと指を鳴らした。
指の音と共に、彼女の背後から何人かの男性が木の茂みから現れた。
「この子、こう見えてすごく男好きなの。だから、好きにしていいわよ」
彼女はそう言って、足早にその場を離れた。
私は複数の男性の力に敵うことなど出来ず、されるがままになっていた。
「いや、やめて、お願い!助けて…」
薄れゆく意識の中で最後に想ったのは彼のことだ。
数日後。
大通りから離れた裏路地で、女性が陵辱されて倒れて発見されていたと地元の新聞で小さく取り上げられていた。
そして病院には放心した女性がいた。
あれから、私はすっかり男性恐怖症になってしまった。
毎日のように彼がお見舞いに来てくれているが、最早私は彼のことも怖いと思うようになってしまっていた。
心にぽっかりと穴が空いた私に彼の声はもう届かない。
・ストーカーバッドエンド(一部)
【条件:12月までに攻略対象の好感度が50以下、1月冒頭にある『気になることがある』の選択肢を『妙な気配のことだ』にすると自動的に発動】
…最近、妙な気配を感じるのだ。
初めは大学など外にいた時だったが、今は家にいる時でもその気配を感じるようになった。
今も大学からの帰り道、誰かにつけられている気がしていた。
私はその人の不意をつくべく、全力で走り、先回りをしようと思った。
辿り着いたのは人気の少ない神社。
一瞬戸惑うように足を止めた音がして、私はその音に向かって姿を現した。
「…花宮愛さん…」
小さな声でその人は話す。
声や背丈からして、女の人だろうか?
目深にフードを被っている為、実のところは分からない。
「あの…私のことつけてますよね?なんで、そんなことを…」
恐る恐る私はその人に尋ねると、その人は不気味に笑い、肩を揺らした。
「守護者だからですよ…ずっと貴女のことを見守っていました」
貴女とこうして話すなんて夢のようだ、とその人は恍惚とした様子で語る。
…これは、きっと話が通じないタイプだ。
私は直感的にそう感じた。
「と、とにかく、私困っているんです。私は大丈夫ですので、放っておいてください」
そう言うと、その人は嬉しそうに距離を詰める。
「相変わらず、慈愛に満ちた人だ…お気遣いありがとうございます。私は大丈夫ですので、これからも…」
話が噛み合っていない。
私達は暫く、噛み合わない話をした後、痺れを切らした私は大声をあげた。
「迷惑なんです!金輪際、私と関わらないでください」
そう告げると、その人は一瞬固まった。
私はそそくさと退散しようと、踵を返すと、その腕を掴まれた。
私は情けない悲鳴を上げて、逃げようとするが、その人はぶつぶつと何かを呟きながら、掴んだ手の力を強めた。
「彼女がそんなことを言うわけがない…きっと、あの男の影響だ…」
暫く、ぶつぶつと言った後、その人はハッと気づいたようにこちらを見て、口角を上げた。
「浄化すればいいんだ!」
急な大声に私は驚く。
そして、腕を強く引っ張られ、古井戸の方に連れて行かれる。
何をするつもりなの?
抵抗しているが、その人の力は存外強く、離れることができない。
古井戸に着くと、その人は綺麗にしましょうね、と楽しそうな声で話し、私を突き落とした。
井戸水は濁っており、上手く泳げない。
沈み行く中で最期ににその人は嬉しそうな声が聞こえた。
「これでもう貴女は穢れることなく、私のそばにいてくれる…」
・事故バッドエンド(一部)
【各月の自由行動で誤った選択肢を選ぶと自動的に発動。各月、選択肢が変わる】
→図書館で時間を潰そう。
3階建てになっているかなり大きな図書館だが、訪れる人々は少ない。
趣のある昔ながらの図書館。お気に入りの場所になりそうだと胸を弾ませながら、上の本を取ろうとしたヒロインは、バランスを崩して脚立と一緒に倒れてしまう。そして気を失っているヒロインの上に追い打ちをかけるように本棚が落ちてきて、圧迫死してしまう。
→買い物をしよう。
久しぶりに買い物をしよう。そう思い、街をぶらつくと、可愛らしいアクセサリーが目にとまる。店で立ち止まっていると後ろから喧騒が聞こえる。通り魔に刺され、朦朧とする意識の中、ヒロインが最期に見たのは通り魔の笑顔だった。
→徒歩で帰ろう。
いつもは電車だけど頑張れば歩ける距離だ。健康のためにも歩いて帰ろう。
大通りに差し掛かったその時、大きなクラクションと共に目の前に車が飛び込んできた。
そして、ヒロインは轢死してしまう。
→校内を探検しよう
まだ知らない棟もある、これを機に散策しよう。そう思い、ヒロインが探検していると、開けてあったはずの扉が固く閉ざされてしまう。叩いても人の気配はない。老朽化で、普段使われない棟。扉もコツがないと開かないため、人もこない。衰弱死したヒロインが見つかるのは数週間後だった。
→空き教室で勉強をしよう
空き教室で勉強していたら、すっかり遅くなってしまった。ヒロインは眠い目をこすりながら、階段を降りていると、後ろから危ない、と声がした。そして、背中に来る衝撃。咄嗟のことで、足がもつれたヒロインは、頭の打ち所が悪かった為、植物状態に。
→バイトのヘルプを拾おう
ヒロインを気に入っている常連にいつも以上に絡まれる。出待ちをされ、無理矢理どこかへ連れてかれそうになる。抵抗したヒロインを怒鳴りつけ、突き飛ばされるとそこには植木鉢。頸動脈に突き刺さった破片で失血死。
→友達の家に遊びに行こう
乗った電車が火事になり、逃げおくれたヒロインは窒息死。まだやりたいことがたくさんあったのに、と後悔しながら死亡。
私はわなわなと震えた手でペンを握る。
「改めて、記憶をたどってメモを取ってみたけれど…ゲーム製作者はヒロインに何か恨みがあるのかっていうくらい、死亡フラグが異常!死亡フラグが多すぎて、バットエンドがメモに書ききれない!」
共通ルートの事故エンディングなんて、バリエーション豊富すぎて、箇条書きにしても全然書ききれない。
制作会社よ、何でこんなに死亡フラグを立てたんだ。
それに、ヒロインが大好きだった私はバッドエンドで苦しむ彼女を見たくなくて、恋愛イベント同様にオートスキップを連打していた為、はっきりと覚えていないのだ。
くっ、彼女と出会えると知っていれば、隅から隅まで舐め回すように読んだのに!
しかし、前世の私が攻略中に辿り着いた最初の個別ルートのバッドエンドだけはインパクトが大きすぎてはっきり覚えていた。
…彼女を誰ともくっつけたくないな。
そんなことを思いながら、対策するフラグの多さに机に突っ伏した私はそのまま眠ってしまったのだ。
ああ、前途多難。
この時の私はヒロインの死亡フラグの一つであるストーカーが自分だったということだけでなく、数年後、このノートを雪之助に見られ、妄想ノートだと苦し紛れな言い訳をした結果、愛情表現不足だったと、たっぷり可愛がられることになるなど、知る由もなかった…
「季々ちゃん、これ何?」
ノートを掲げられた瞬間、私の肝は一気に冷えた。ゲーム設定が書かれたノートだ。なんで、こんなものを見つけているんだこの人は。
「え、えっと…これは、私の妄想ノートでして…」
自分が転生者だということは口が裂けても言えない。そんなことを言ったら、精神病院にでも送られる。
「へえ、季々ちゃんは妄想で、恋人である僕と友人である愛ちゃんを恋仲にするんだ?」
そして、私のノートをばっちり読んでいる。
自分のヤンデレ化したバッドエンドの方が量的には長いし、インパクトがあると思ったのだが、雪之助はどうやら自分と愛が恋仲になるという設定がお気に召さなかったらしい。
いや、その前に人のノートを勝手に読まないでくれ。
「美男美女でお似合いかなと思って、はは…」
渇いた笑いをしながら、私がそう言うと、雪之助は目を細める。
心なしか雪之助の纏うオーラは暗い。
「僕は妄想でも季々ちゃんが他の男と恋仲になるなんて、嫉妬で狂いそうになるのに…しかも未だ、こんなに大切に取ってあるってことはこのシナリオ気に入ってるのかな?」
雪之助の顔に憂愁の影が差す。
雪之助はかつて、ゲーム上、バッドエンドでヒロインを虐めたファンクラブを屠った男である。
ヤンデレ化フラグが健在していそうで、怖い。
「いや、気に入ってはいないですけれど、今後の可能性の一つとして…」
こんな可能性は出来れば起こらないでほしいが、何かの役に立つかもしれないと、保管していたのだ。
「僕が季々ちゃん以外の子を好きになることはないよ?今まで結構ストレートに愛情表現してきたつもりだったけど、どうやら表現不足だったみたいだね…改めるよ」
そう言うと、雪之助は私を抱き締め、そして押し倒した。
「あ、改めなくていいです!ストップ!待ってください、雪之助さん!」
ごめんなさい、と情けない私の声が室内に響き渡るのだった。
乙女ゲームと酷似した世界で生きる背景は今日も攻略対象に愛されるのだった。
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