バレンタインSS3
閲覧いただき、ありがとうございます。
魔姫と紅葉のバレンタインストーリーです。
誕生日SS6の後のお話です。
魔姫視点です。
他のバレンタインSSより少し長めです。
紅葉のことが気になってから、大分月日が経ってしまった。
うだうだするなんて、私らしくないと思いつつ、この関係を壊したくない、と消極的な自分が囁く。
今日はバレンタインデー。
結局、勇気が出なくて、私は会う約束が出来なかった。
自宅のダイニングテーブルには、ブランドのロゴが入ったチョコレートと携帯電話が置いてある。
手作りでもしようかと思ったが、彼女でもない女の手作りは重いかと思って、やめてしまった。
弟の魔咲は想い人と上手くいったらしく、彼女とデートだ。朝、嬉しそうに出かけて行った。
弟でさえ、好きな人と想いを通じて、一緒に過ごしているというのに、私は一体何をしているのだろうか。
「よし!」
私は勢いに任せて、携帯電話を取り、彼のチャットを開く。
『渡したいものがあるので、今日少し会えませんか?』
メッセージを送ると、直ぐに紅葉から連絡が来た。
『構わない。来客がいるから、すまないが家の近くで会ってもいいか?』
来客、という言葉に嫌な予感がしてしまう。
もしかして、女の人と一緒なのだろうか。
大学院に入って、新しい出会いがあったのだろうか、と不安になる気持ちを抑えて、私は了承の意を伝えた。
紅葉の家の最寄駅に着き、改札を出ると、紅葉の姿が見えた。
「紅葉さ…」
私は声をかけようとして、止まった。
柱で見えなかったが、紅葉の隣には女性がいた。とても仲睦まじそうな。
紅葉は鬱陶しそうにあしらい、女性は不承不承と改札に向かった。
女性とすれ違う。ふわっと花の香りが鼻腔を擽った。いつもは何も感じない女性の残り香がとても嫌でたまらなかった。
私は立ち止まり、逃げ出したくなる気持ちに駆られた。
不意に紅葉と目が合う。
私は無意識にホームの方に駆け足で戻った。
ちょうど着ていた電車に飛び乗る。
しばらくして、発車音が鳴る。
同時に紅葉が飛び乗り、扉が閉まった。
息切れした紅葉がこちらを向く。
「…どうして逃げるんだ」
私は思わず泣きそうになる。
そんな私を見て、紅葉は動揺する。
「とりあえず、次の駅で降りよう。戻って、私の家で話をしよう」
私は首を振った。
何も聞きたくない。真実を聞くのが怖かった。
もし、先程の女性が紅葉の想い人だったら…
私は嫉妬に狂ってしまいそうだ。
紅葉は私の肩を強く掴んだ。
「頼む。家じゃなくてもいい。一度ちゃんと話させてくれ」
真剣な紅葉の声に私は冷静になる。
そして、周りがこちらを見ているのに気がついた。
私が小さく頷くと、紅葉はホッとしたような顔をした。
結局、周囲の目が気になりだした私は紅葉の家にお邪魔した。
男子学生の一人暮らしだから、もっと散らかっているかと思っていたが、綺麗に片付けられていた。
先程の女性が来たからか、それとも彼女が片付けたのだろうか?
少し冷めていた心が嫉妬という黒い感情で覆われていく。
紅葉は紅茶を持ってくると、私の向かいに座った。
「何から話そうか…そういえば、用件があったんだったな」
私はそう話題を振られて、首を振る。
「よ、用件は無くなったんです!」
我ながらなんて身勝手な台詞だろうと思った。私はチョコレートの入った袋を背中に隠したまま、そう告げた。
瞬間、紅葉の悲しげな顔が目に入り、胸が痛む。
突き放さないと、傷つきそうで。
「君を不快にさせてしまったようだが…申し訳ないが、思い当たるところがないんだ。すまないが、理由を聞かせてもらえないだろうか」
知らない女と仲睦まじそうにしていたから。家にあげるほどの仲みたいだから。
どこかで、私のこと好きになってくれてると期待していたのかもしれない。
裏切られた気持ちと嫉妬でいっぱいだった。
「…先程の女性は誰ですか?」
紅葉は少し驚いたような顔をする。
私はその意図がわからず、眉を顰めた。
「従姉妹だが…大学の推薦入試が上手くいったようで、報告に来てくれたんだ」
ほら、と一枚のポラロイド写真と手紙を見せた。
そこには、笑顔で両親と映る先程の女性がいた。
そして、四季学院大学合格しました!の文字が書かれていた。
手紙には女性の母親らしき人からお礼の言葉が記されており、苗字は同じ苗字だった。
私は思わず力が抜けてしまった。
「それで…暗田くんは何に怒っているんだろうか」
おずおずと紅葉が尋ねる。
勘違いをしていたことに気がついた私はどう言えばいいか、戸惑う。
こんな勘違いをするのも、私がちゃんと想いを伝えていないからだ。
私は意を決して、チョコレートの袋を手に取り、紅葉の方へ向かう。
紅葉は少し動揺しながらも、私が来るのを待った。
緊張のあまり、足が震えていた。
そして、カーペットに足を取られ、紅葉に向かって思い切り飛び込んでしまった。
紅葉は驚きつつ、私のことを抱き締め、庇ってくれた。
床に押し倒す形になってしまい、私は恥ずかしくて穴があったら入りたい気分になった。
「す、すみません…」
「いや…怪我はないか?」
私は首を振る。
この状況に混乱した私は変なことを考えていた。
吊り橋効果が期待できるのでは、と。
私は紅葉の胸の前にチョコレートを差し出した。
紅葉は袋を持ち、それを確認する。
「これは、チョコレート?私にか?」
相変わらず、イベントごとに頓着しない紅葉はおそらくバレンタインデーの存在を忘れているのだろう。
幸か不幸か察してもらうことは出来なさそうだ。
「…紅葉さん」
告白というのはこんなに緊張するものなのか。私は顔が熱くなる。
いつもと違う様子の私を見て、紅葉も真剣な表情をする。
「好きです。私と、付き合ってください」
覚悟を決めて、口にする。
その言葉を聞いた紅葉は固まってしまった。
拒絶反応だろうか、再び泣きたくなる気持ちを堪えて返事を待つ。
しばらくの沈黙。
数分経ち、紅葉は我に返り、顔を手で覆った。
「…先に言われてしまったな」
そう言うと、紅葉は私の背中に腕を回した。
「私も君のことが好きだ。こんな不甲斐ない私だが、付き合ってほしい」
返事は勿論決まっている。
頷いた私は紅葉の胸に顔を埋めた。
バレンタインデー、それは秘めた想いを伝えるチャンスの日。
私はやっと好きな人に想いを伝えることが出来たのだった。
良ければ、評価、ブックマーク、コメント等よろしくお願いします。
バレンタインストーリーは毎日12時更新です。




