誕生日SS 6
閲覧いただき、ありがとうございます。
紅葉の誕生日のお話です。
紅葉視点です。
大学を卒業して、私は大学院に入った。
アルバイトを終え、私は彼女との待ち合わせ場所に向かった。
去年のある日から、彼女と急激に親しくなった。頻繁に一緒に出かけている。
私はこの関係が心地いい。
これ以上を望むのは欲深いことだろう。
待ち合わせ場所に行くと、彼女が落ち着かない様子で待っていた。
彼女の姿を見て、思わず私は足を止めてしまう。いつも綺麗だが、今日はいつにも増して魅力的に感じる。
髪型やメイク、服装で女性はこうも変わるものか。イメージチェンジをしたかったのだろうか?
私の存在に気づいた彼女は、ぱっと表情を明るくさせて、こちらに来る。
「紅葉さん、お疲れ様です」
「ああ、待たせてすまないな。今日はいつもと雰囲気が違うな」
そう言うと、彼女は顔を紅潮させて、自分の格好を見直す素ぶりをした。
「変でしょうか…?」
「いや、いつもは綺麗だが今日は可愛らしいな」
女性の見た目を何か言うのは失礼だっただろうか。彼女は俯いてしまった。
「か、かわいい…あ、ありがとうございます」
そう小さく呟かれ、私は短く返事をした。
暫しの沈黙と妙な雰囲気に耐えかねた私は話題を変える。
「そろそろ映画館に向かうか」
「そ、そうですね!」
彼女も気まずく感じていたのだろう。安堵した表情をして、私に賛同した。
普段、私は映画をあまり見ないが、今回の映画は非常に興味深かった。
著名人のドキュメンタリー。
気になる人と見るような映画ではないかもしれないが、彼女が私の観たいものを、と言ってくれたので、甘えることにした。
エンドロールが終わり、場内が明るくなる。
ふと彼女の方を見ると涙を流していた。
そっとハンカチを差し出すと、彼女は大丈夫です、と自分の指で涙を拭った。
「すみません、あまりに感動してしまって」
「感動的な最後だったからな、無理もない。落ち着いたら、出よう」
普段、見せない彼女の涙に私は不謹慎にもドキッとしてしまった。
私は自分の煩悩を払うように軽く頭を振る。
今日は全て彼女がスケジュールを練ってくれた。
凄く張り切っていたから任せていたが、今日は何かあっただろうか?
映画館を出て、彼女が予約したレストランに入る。
彼女はいつになく饒舌だ。
私は話を聞きながら、疑問に思う。
「暗田君、今日はいつもと様子が違うようだが、何かあったのか?」
「そ、そうですかね?」
私の質問に対して曖昧に返答し、彼女はぶつぶつと何かを呟いた。
「もしかして、気づいてない?じゃあ、私の誘いに乗ったのも脈ありなわけではない…?」
生憎、私は彼女の呟きが聞き取れず、首を傾げてしまった。
彼女が普段と違う理由はデザートが来る頃に分かった。
複数の店員が笑顔で、私達の席に来た。
「紅葉さん、おめでとうございます!」
そして、店員と彼女が一斉に祝いの言葉を言って、ケーキを差し出す。
そうか、今日は私の誕生日だったか。
呆ける私を見て、彼女がおずおずと尋ねる。
「もしかして、今日が自分の誕生日だって気づいてなかったんですか?」
「ああ…驚いた。ありがとう、嬉しいよ」
そう言うと彼女ははにかんだ笑顔を見せた。
思わず抱き締めたくなる衝動に駆られる。
だが、そんなことをしては彼女に嫌われてしまうかもしれない。
私はぐっと堪えて、彼女が渡してくれたプレゼントの包みを開ける。
そこには、橙色のボールペンが入っていた。
普段コンビニや購買で100円単位のものしか持たない私にとっては立派すぎる代物だった。
「ありがとう、大切に使わせてもらうよ」
きっと、このボールペンを使うたびに彼女を思い出してしまうだろう。
いつか、この気持ちを伝えるまで。
どうかこの関係が続きますように。
そう願いを込めて、私は彼女から貰ったボールペンを手帳に挟んだ。
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