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番外編5-1

閲覧いただき、ありがとうございます。

季々と雪之助のアフターストーリーです。

番外編は今回で一旦終了します。

数年後。

大学を卒業した私は雪之助の実家である旅館の仲居として住み込みで働くことになった。


慣れないことばかりで失敗ばかりしていたが、最近やっとミスも少なくなり、周りとうまく連携が取れるようになった。

それにモブキャラだったお陰で、気配を消すことができ、宿泊客の滞在を影からサポートすることは誰よりも得意だった。


雪之助は仕事も完璧で容姿も端麗な為、宿泊客だけではなく、仲居の間でも人気だ。

影の薄い私とは雲泥の差だ。


私と雪之助の関係は従業員には話していない。雪之助の家族と一部の人しか知らないのだ。


だから、雪之助と会う時は決まって人気の少ない深夜か早朝だった。


今日は仕事の後、中庭へ行くよう、雪之助に呼び出しがあった。


私は仕事を終えると、足早に中庭へ向かった。

辺りは暗く、木も多く、足元に気をつけながら進むと、雪之助の姿が見えた。


「雪之助さん」


私が呼ぶと、雪之助は嬉しそうに微笑んだ。

旅館の制服である和服姿の雪之助はどこか色気を感じさせる。数年経った今でも見慣れない。


雪之助は池のそばに座り、おいで、と雪之助の横に座るよう促してきた。

私はそれに従い、座る。


暗闇に光る小さな光が池を照らす。

蛍だ。


幻想的な景色に思わず感嘆の声を漏らす。


「ここ、僕のお気に入りの場所なんだ。この時期になるとちょっとした見ものになる」


「凄いです…私、本物の蛍を見たの、初めてです」


気に入ってもらえて良かった、と雪之助は笑う。


「仲居の仕事は慣れた?」


私は少し迷い、苦笑いをした。


「まだ全然勉強していかなきゃいけないことが沢山あります。でも、旅館の方達はみんな良い人なので、皆さんの役に立てるように頑張っていきたいです」


雪之助は頼もしいね、と無邪気に笑う。

そして、雪之助は私の肩を抱いた。


ふっと、指元に何かが触れる感触があった。

左薬指に蛍が止まっている。

それはまるで婚約指輪のようだった。


私が指輪に見惚れていると、雪之助はくすくすと笑う。


「蛍に先を越されてしまったな」


私はその言葉の意味を理解出来ず、雪之助の方を向いた。

すると、雪之助は優しく甘い表情をして、小さな箱を差し出した。


私は恐る恐る箱を受け取り、ゆっくりと箱を開ける。

そこには、綺麗な石が嵌め込まれた指輪があった。


「この数年間、色んなことがあったけど、君と一緒にいて、凄く楽しかった。これからも何があっても一緒に乗り越えて、幸せを分かち合いたい」


私は目から涙が込み上げてきて、雪之助の顔が涙でぼやけてよく見えなかった。


「僕と結婚してほしい。受け取ってくれる、かな」


真剣に、でも少しどこか不安げに雪之助が返事を待つ。

私は力強く頷いた。


「もちろん」


私は左薬指に指輪をはめる。

金属独特の冷たい感触が、これが現実だと告げる。


私達は蛍の光に包まれながら、口づけを交わした。


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