番外編1-1
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魔姫の番外編です。
新年。私は弟の魔咲と家でゆっくり過ごしていた。
大学三年生も、もうすぐ終わる。
去年は大学生活の中で一番濃い一年だった気がする。
それは、就職活動という最大のイベントよりも別の理由だ。
正直、私は今まで弟を最優先にしていたので、同世代との交流はあまり積極的に行って来なかった。
だから友達も少なく、私の大学生活は味気のないものであった。
それが変わったのは二人の友人の存在が出来たからだ。位方季々と花宮愛。
アルバイト先の後輩でもあり、大学の新入生だった。
彼女達と知り合ってから、私の日常は大きく変わった。バイトと大学の往復から友人と放課後を過ごしたり、旅行に行ったりと青春を謳歌するようになったのだ。
日常だけではなく、私の考えも大きく変わった。それまでは弟に安定的な生活を過ごしてもらう為、玉の輿に乗ろうと躍起になっていた。人を陥れることも厭わなかった。
しかし、彼女達を始め、様々な友人が出来、その考えが短絡的で愚かだということに気がついた。
私は彼女達に感謝してもし尽くせない。
「姉ちゃん。最近丸くなったよな」
ふと、魔咲がそんなことを言う。
「やだ、太ったってこと?」
そう聞くと、魔咲は違う、と答えた。
「母さんが居なくなってから、姉ちゃんずっとピリピリしてたじゃん。それがなくなった」
魔咲はそんな風に思っていたのか。
常に魔咲にとって、理想的な姉であろうと目指していたが、どうやら思い通りには行っていなかったようだ。
性格が丸くなったか。それもきっと彼女達のおかげだろう。
数日後。
魔咲は友達とバスツアーに出掛けた。
どうやら気になっている子がいるらしく、告白しようと躍起になっていた。
姉よりも先に春が来ている。
その現実にどこか虚しさを覚えていた。
私はそんなことを思いながら、アルバイト先に向かった。
店に着くと、紅葉が支度をしていた。
「暗田君か。明けましておめでとう」
「紅葉さん。おめでとうございます」
紅葉とは季々や愛を通して、仲良くなった。最も、最近は愛は海斗と、季々は雪之助と付き合い始め、交流も薄れてきていたのだが。
同じことを考えていたのか、紅葉は微笑む。
「なんだか久しぶりな気がするな」
「ええ。あの子達が付き合い始めてから私達はすっかりお邪魔虫になってしまいましたから」
友人として、彼氏との交際を応援したいが、少し寂しいのも事実だ。
彼女達は昔のように集まろうと言ってくれるのだが、私は距離感が分からず、ついつい遠慮をしてしまう。
そうこうしていくうちに、私は日に日に一人で行動することが多くなってきた。
私は思わず自嘲してしまう。
「また、みんなで集まれたらいいな」
紅葉が優しく笑う。
私は頷いた。
今日は私と紅葉は同じシフト時間だったようで、上がりの時間も同じだった。
「君も上がりか。お疲れ様」
「ええ、お疲れ様」
私は金庫を開けて、スマートフォンをチェックする。
そして、着信が何件も入っていることに気がついた。
着信は知らない番号だった。しかし、全て同じ番号で連絡が来ている。
就職活動はとっくに終わっている。
一体誰だろう、と首を傾げながらリダイヤルする。
それは病院からだった。
内容は魔咲が旅行先で怪我をして、頭を打ったらしく、意識が戻っていないこと。
すぐに来て欲しい、とのことだった。
私は思わず頭が真っ白になり、スマートフォンを落としてしまった。
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