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ひとしきり泣いた後、我に返った私は手を離した。
感情的になったとはいえ、何ということをしてしまったんだ。
雪之助は私の動揺を察して、身体を離してくれた。
そして、顔に伝う涙をハンカチで拭ってくれた。
「落ち着いた?」
「はい…すみません」
私の顔は涙でぐちゃぐちゃだ。
こんな恥ずかしい姿を見られるのは居たたまれない。
呼吸を整え、移動が出来るようになった私は立ち上がる。
「あの、今日はありがとうございました」
そう言うと、雪之助は軽く首を振って、手を差し出した。
「君の気持ちが聞けて良かったよ。このままの関係は寂しいからね。送っていくよ」
この手は手を繋ぐという意味だろうか。
私は一瞬迷い、そして手を取った。
雪之助は少し驚いた顔をしてから、嬉しそうに微笑んだ。
「後でみんなにも話そうね。言い辛かったら、僕も側にいるから、ね」
雪之助の優しさが心にじんわりと染みた。
この人は本当にタチが悪い。
そんなことを言われたら…
芽生えそうになる気持ちを抑えながら、私は雪之助と駅を出た。
家に帰り、自分の行いに後悔した。
1ヶ月ぶりに電源を入れたスマートフォン。
そこには大量のメッセージと着信履歴が残っていた。
そこには心配している、連絡してほしい、といったものだった。
そして、恐る恐るメッセージを返すと、着信とメッセージが何件もきた。
桜太は怒ってたし、魔姫もすごく泣きながら怒っていた。紅葉はとにかく心配していた。
海斗からも連絡が来ており、やんわりと今回の行いを注意された。
そして、彼女からも連絡が来た。
「きーちゃん」
その声色はいつもとは違い、怒っているように感じた。
その様子に私がオロオロしていると、ヒロインはクスッと笑う。
「ふふ、ちょっと意地悪しただけ。きーちゃん、何か理由があったんでしょう?私はいつでもきーちゃんの味方だし、話を聞くよ」
その声は優しかった。
そして、私は彼女のことを初めて、対等の友人として見た。
今までの私は彼女のことを崇拝していた。
その関係がどれだけ距離の離れているものか、実感した。
私は感謝の気持ちを述べ、事のあらましを説明した。
「そっか。雪之助さんと会ったんだね」
そして、雪之助と会ったこと、話を聞いて、これからどうするべきか分かったこと。
それを話していると、不意に彼女が不安げな声で尋ねる。
「今日ね、講義の後に雪之助さんのファンクラブ会員らしき人達に会って、きーちゃんの話をしていたの。不穏な雰囲気だったんだけど、きーちゃん大丈夫?」
私はぴしりと固まった。
ついにファンクラブに目をつけられてしまった。
彼女の話を聞くと、どうやら駅で雪之助と抱き合っていたことを見たファンクラブ会員が居たらしい。そして、手を繋いで帰ったことも。
それはそうだ。駅のホームであんな風にしていたら、流石に顰蹙を買っただろう。
私はファンクラブの脅威に怯えながら、彼女との通話を終わらせた。
そして、次の日の朝。
私がアルバイト先に向かおうとしている途中。
ガシャンと何かが割れる音がした。
そして急に左腿に鋭い痛みを感じた。
「調子に乗るんじゃないわよ!」
女の声がして、走り去る音が聞こえた。
振り向くと、植木鉢の破片が私の左腿を切りつけたことに気がついた。
あれ、もしかして私も死亡フラグあるの?
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