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孤独にも慣れてきたと思ったのに、彼女に会ったら楽しい想い出が溢れ出すように蘇った。
自宅に帰り、私はベッドに飛び込んだ。
ふと、引き出しが目に入った。
スマートフォンは引き出しの奥底にしまってある。
スマートフォンの中にも、そこについているストラップでさえ、想い出なのだ。
私は居ても立っても居られなくなり、一泊二日の旅に出ることにした。
遠くに行けば何か変わるかもしれない。
そう思ったのだ。
今まで原作の死亡フラグを避けようと努力してきた。
攻略対象がヤンデレ化して死亡、ライバルキャラが嫉妬して死亡…そして最も多いストーカーに溺愛されて死亡。
最も確率の高い死亡フラグが分かった今、私はここにいるべきではない。
物理的に離れれば、彼女の被害も減るだろう。
そう思って出た旅はとても味気のないものだった。
有名な場所にオシャレなカフェ、贅沢なご飯に素敵な宿。
何一つ心が動かされない。ぽっかりと空いた空虚感は埋められることがなかった。
そして、旅が終わり、最寄駅に着いた時。
私は雪之助と会ってしまった。
彼女の次は雪之助かと思い、私は全速力で改札に向かおうとした。
しかし、それは出来なかった。
雪之助に後ろから抱きしめられたからだ。
「ゆ、雪之助さん!離してください」
そう言うと、雪之助は更に力を込める。
少し息苦しさを感じ、雪之助の手に触れると彼の手は少し震えていた。
「やだ。離さない」
人気の少ないホームとはいえ、この状況はかなり恥ずかしい。
逃げないことを伝え、なんとか解放してもらい、ホームのベンチで並んで座った。
普段、饒舌な雪之助だが、今は何も言わない。
ただ、私の手をしっかり握っている。
私も何を言って良いのか分からず、押し黙る。
暫く、沈黙が続いた後、雪之助が口を開く。
「さっきは急に抱き締めてごめん。もう会えないんじゃないかと思って、つい」
私は首を振る。
雪之助は寂しげに私を見る。
「ねえ、どうして僕達を避けているの。君に何があったの」
そんなこと言えるわけがない。
ここは乙女ゲームの世界です。
自分は転生者で、ストーカー役になりました。
ヒロインの死亡フラグを立てたくないので、消えました。
そんなことを言って、誰が信じるのだろうか。
雪之助は私をじっと見つめ、真意を探っている。
雪之助はどうあがいても解放する気はないようで、やがて、私は抗うのを諦め、説明を始めた。
「私、自分が怖くなったんです。このままだと、愛ちゃんのことも、みんなのことも傷つけてしまいそうだなって」
雪之助は真剣に聞いている。
「時々、自分の愛ちゃんに対する感情が怖くなるんです。友情でも恋情でもない独占欲や執着心。私はどこか狂ってる気がしているんです」
段々と目に熱いものが込み上げ、溢れてくる。
自分は泣いているのだろうか。
「夢を見たんです。自分がストーカーで愛ちゃんの好きな人と彼女を傷つける夢。とても現実的で、私はその未来を知っていて」
私は嗚咽しながらも、話を続ける。
「みんなのこと好きだから、傷つけたくない。だけど、みんなとも離れたくない…!」
原作のストーカーとしての自分と今の友人としての自分。
その間に挟まれて、私の感情はぐちゃぐちゃになっていた。
今まで感じまいとしてた感情が一気に溢れる。
雪之助が優しく抱き締める。
まるで赤子をあやすように背中を撫でる。
「大丈夫だよ」
そんなのわかるわけない。
だって、私は原作を知っているのだから。
「君が例えどんな予知夢を見たって、それは未来のことだ。過去は変えられないけれど、未来はいくらだって変えられる。今の君には僕達がいる。僕達は君の味方だ。絶対に君を一人にさせないし、誰も傷つけさせない」
顔を見上げると、雪之助はいつも以上に優しく微笑んでいた。
「一人で抱え込まないで。恐ろしい未来があるなら、みんなで変えていけばいいさ」
私はその彼の言葉に声にならない声で泣いた。
「だから、もういなくならないで…」
その声には悲しさが混じっていた。
私は間違えたのだろうか。消えることが正しかったと思っていたのに。
まだ彼女達と歩む未来を望んでもいいのだろうか。
私は雪之助の背中に手を回し、抱きしめ返した。今、私はゲーム世界に酷似した現実にいることを実感したかったからだ。
彼の背中からは優しい温もりが感じられた。
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