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閲覧いただき、ありがとうございます。
少し残酷な描写があります。ご注意ください。
夏休みはあっという間に過ぎ、あと2週間で夏休みも終わる頃。
私は夏風邪で体調を崩していた。
バイトにも入れず、当面のシフトは真っ白だ。飲食業ということもあり、来週まで、安静にしていろという店長からの御達しがあった。
熱にうなされながら、私は夢を見た。
それは、原作のとある主人公のバットエンドだった。
今日、私は決行する。
全ては彼女を穢れから守るため。
私は彼女を匿うことにしたのだ。
私は高校生の時から彼女を見ていた。
まだ今よりもあどけない彼女。
私は彼女に一目惚れをした。
だから、私はこの大学に入ろうと思ったのだ。
晴れて、彼女と同じ大学に入った。
学部も一緒だが、彼女は可憐で愛らしくて、女神のようで私は近づけなかった。
遠くで見守るのが良いと思っていた。
でも、それは間違いだった。
月日は流れ、夏休み。
今日の彼女はいつもよりおしゃれをして家を出た。
いつものように彼女を見守っていると、男と仲睦まじげに街を歩いていた。
あんな男、彼女には相応しくない。
彼女は女神だ。庶民とは違う。対等になど扱ってはいけない。
そして、夏の暑さが和らぎ、秋が近づく頃。
私はその男が彼女に告白することを目論んでいた。
なんて身分不相応なことだろう。
私はその男を嵌めて、殺した。
男を私が殺せるか不安だったが、私の彼女への想いが通じたのか、簡単に殺せた。
そして、彼女はその男がいないことに気がついた。
さめざめと泣く彼女。
どうやら、彼女はもうその男の魔の手にかかってしまったのだろう。
私が目を覚まさせなければ。
そして今、私は大学に向かう途中の彼女を追っている。
ここは人気のない路地裏だ。
彼女を保護するのにはふさわしい。
ハンカチを握りしめ、角で様子を伺う。
ふと、カーブミラーが私を映していることに気がついた。
黒いパーカーを身に纏い、鋭い目つきをして、カーブミラーを睨んでいる。
風に煽られ、フードが少し揺れる。
そして、そこに映った自分の顔は。
私は目を見開き、勢いよく上体を起こす。
心臓の音が鳴り止まない。
ー今のは間違いなく、私だ。
全身が汗で濡れ、まだ暑い日のはずなのに、寒くてたまらない。
ーこのエンドで彼女を殺したのは。
時計の音だけが、妙に響く。
ーストーカーが今まで現れなかった、それは。
きっと、私はどこかで気づいていたのかもしれない。
衝撃よりも、見たくなかった真実を無理矢理見せられた、そんな感覚だった。
ー私、位方季々こそがストーカーだったのだ。
絶望感で目の前が真っ暗になる。
ということは、私こそが彼女にとっての脅威であり、死亡フラグなのだ。
ならば、私が取るべき行動は、ただ一つだ。
私はスマートフォンの電源を切る。
私がこのゲームの世界から退場すれば良いだけだ。
私はあの夢の後、彼女、攻略対象、ライバルキャラと一切連絡を遮断した。
シフトは彼女達の居ないオープンシフトに入り、大学が始まっても、履修は出来る限り、彼女達と会わないような授業を選択した。
そして、授業もバイトもギリギリに入り、すぐに家に帰った。
そんなことを始めて、1ヶ月。
スマートフォンを使わなくなることにも慣れてきた頃。
私は道端で、ばったりと彼女に会ってしまった。
「きーちゃん!」
彼女は駆け寄ってきた。
その表情はとても心配そうだった。
「きーちゃん、どうしたの?何かあった?」
私は何も言えず、押し黙る。
この現実が分かっても未だ、彼女のことは可愛らしく、庇護欲をそそられた。
このままでは、彼女が危ないと、私は踵を返した。
「ごめんね。愛ちゃん」
そう言って、私は全速力で逃げ出した。
走れば走るほど、息が苦しくなり、涙が溢れ出す。
好きだからこそ、私は貴女を傷つけてしまう。
貴女も周りの人も不幸にしてしまう。
私はこのゲームの死亡フラグなのだから。
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