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濃い2日間の旅行が終わり、平凡な日常が戻ってきた。
そんなある日、いつものように彼女の働く姿を眺めながら、アルバイトをしていた時だった。
客数も疎らになる頃、彼女が可愛く私にお願いをしてきたのだ。
要件はまだ知らないが、私は勿論100パーセントOKで返すつもりだ。
「今度の日曜日さ、私と海斗先輩、きーちゃんと雪之助先輩でダブルデートしない?」
いや、90パーセントの確率で了承しよう。
今回は滅多にない10パーセントだ。
色々突っ込みどころがありすぎて、私が唖然としていると、彼女は慌てて説明した。
「その、私まだ海斗先輩と二人で休日に出かけたことなくて。高校の時とかは、いつも放課後にちょっと遊ぶだけで」
慌てている彼女も可愛い。
いや、これは現実逃避ではない。
事実を述べているのだ。
「でも、二人っきりのデートに誘う勇気もなくて、きーちゃん達とダブルデートなら、頑張れるかなって思って」
そんなことを言ってくれるな。
揺らぐではないか。
不安な状況で、サポート役として選ばれたのが自分というのは、何が何でもOKしたい。
しかし、状況が状況だ。
ただでさえ、最近の雪之助に対する私の考えはあらぬ方向に行っているのだ。
これは、苦渋の決断である。
彼女のガーディアンとして、使命を果たすか、保身に走るか。
私が悩んでいると、後ろから声がする。
「僕は別に構わないよ。可愛い後輩の頼みだしね」
雪之助がにっこりと微笑みかける。
私は思わず驚いて、肩を僅かに揺らした。
彼女は、ぱっと花が開いたように明るい表情を見せる。
「なにより、季々ちゃんのデートの相手役なんてとても魅力的だ」
この前の車内のあの真剣な表情とは打って変わって、ウィンクをして微笑む。
至って、いつもの色男だ。
うむ。やはり信用ならない。
彼女は上目遣いで目を潤ませて私にお願いする。
ああ、小悪魔的彼女。ファビュラス。
この小悪魔の誘惑に勝てる人がこの世にいるのだろうか。いや、いない。
私は頷いてしまった。
ええい、ままよ。
こうなったらどうにでもなれ。
私は半ば投げやりな気持ちだった。
だが、仕方ない。私の小悪魔からのお願いだ。致し方ないだろう。
すると、後ろから私の耳元で雪之助が囁く。
「楽しみにしてるよ、君とのデート」
そう呟くと雪之助は料理を運びに行ってしまった。
私は熱くなった耳を抑えて、声にならない悲鳴をあげた。
選択肢を間違えたかもしれない。セーブアンドロードしたい、切実に。
私は暫く遠い目でどこかを見つめていた。
数日後
今日は彼女と買い物に来ている。
勿論、今回の買い物は彼女のデート服探しだ。
デート服探し、とはいえ、彼女には既にめぼしい物があったらしく、それを見てほしかったらしい。
白を基調としたワンピースは可憐な彼女にとても似合っており、今日の目的は僅か1時間で終えた。
「さぁ、次はきーちゃんの番だね!」
そういうと、彼女は腕を引っ張って様々な店に私を連れて行き、彼女が手に取った服を片っ端から試着することになった。
あれよあれよと言う間に彼女のお目当の店に全て行き終えた私達はカフェで休憩することにした。
彼女はスマートフォンで、私の試着姿の写真を見比べていた。
「うーん、こっちの路線も捨てがたいけど、あっちのお店も可愛かったよね」
「愛ちゃん、私は家にある服でいいよ」
そう言うと彼女は不満を漏らした。
「折角のデートだよ!きーちゃんも可愛くしていこう?この前、魔姫先輩にオシャレしてもらったんでしょう?今回のデートは私がきーちゃんをもっと可愛くさせたいの」
彼女が私の為に動いてくれている。
それに素直に感動していた。
前世の記憶がなければ、彼女とこんなに近くには居られなかった気がする。
彼女はそれ程、尊く、女神のような存在なのだ。
彼女が私の為に頑張っているのに、水を差す訳にもいかず、私は彼女が選んでくれた青色のワンピースを買うことにした。
普段、黒系の服ばかり着ているので、かなり抵抗があったが、彼女が選んだ服だ。頑張って着ることにした。
青色のワンピースを見た時、雪之助のイメージカラーが青だったことを思い出し、変な感じがした。最近、妙に些細なことに意識してしまい、自分自身でも戸惑っている。
彼女とは、ダブルデートの2時間前に待ち合わせをすることになった。
どうやら、彼女は私の髪とメイクのアレンジをしたいらしい。
彼女が私を見つめ、触れていると思うと、今からでも失神しそうだ。当日までにイメージトレーニングをしなければ。
ダブルデートの準備は着々と進んでしまっている。大丈夫、私は彼女のデートの成功の為にサポートを頑張ればいいのだ。
私は自分にそう言い聞かせて、僅かな緊張を緩めるよう努めた。
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