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閲覧いただき、ありがとうございます。

プールで遊び、日が傾いてきた頃。

私達は車に乗り、帰路に向かった。


途中まで紅葉が運転していたが、道が混んでおり、サービスエリアで雪之助と交代することになった。


サービスエリアでの休憩中、私はみんながつまめる用のお菓子と雪之助にコーヒーを一つ購入した。


この前、レストランで食後にコーヒーを飲んでいたから、おそらく好みに合っているだろう。


先程、ナンパ男から守ってくれたお礼だ。

店から出ると、遠くで彼女と海斗が手を繋いでいたのが見えた。


私は追いかけたくなるのを必死に堪えた。

それにしても、海斗はあれで妹扱いなのか?絶対脈あるでしょう!


「季々」


目で彼女達を追っていると、後ろから魔姫に呼ばれる声がした。


「魔姫先輩。どうしたんですか?」


そう尋ねると、魔姫は店に手招きした。

彼女達を観察していたかったが、魔姫の断ることはないだろう。私は不承不承で魔姫の方へ向かった。

魔姫の手には有名なお菓子の詰め合わせが二箱あった。


「それ、買うんですか?」


「ええ、弟とバイト先にと思って」


確かにこのメンバーは全員バイト仲間だ。

バイト先に買う考えはなかった。

流石は魔姫だ。抜かりない。


「バイト先のは皆で折半しませんか?きっと皆も賛成してくれますよ」


私は写真付きでグループチャットにお土産の旨を伝える。

魔姫は少し戸惑っていた。


「私の勝手な判断に皆を巻き込むのは申し訳ないわ」


「そんなことないですよ。ほら」


私は魔姫にメッセージを見せる。皆から賛成の声が上がっている。

それを見た魔姫は優しげに微笑んだ。


「私を呼んだのはお土産の件ですか?」


そう尋ねると魔姫は少し恥ずかしそうに顔を赤らめながら、ある棚を指差す。


そこはストラップが売っているコーナーだった。

そして、魔姫が選んだのは三連のストラップ。


「その、ネットでこのストラップが人気で友達とシェアしている写真をよく見て。記念に、季々と愛と三人でお揃いしたいなって」


子供っぽいわよね、と付け加えながらも、彼女はそのストラップに釘付けだった。

魔姫は意外と可愛いところがある。原作の魔姫は悪役そのものだったが。


私は勿論承諾し、二人でレジに向かった。

彼女にはサプライズで渡そうと約束して。


魔姫は飲み物を買ってから戻るとのことだったので、私は一足先に車に戻った。


車には雪之助がいた。どうやらこれからの進路を確認しているようだった。

他のメンバーはまだ帰ってきていない。


皆の知らない間にこうやって下準備をしている姿に私は尊敬や感動にも似た温かな感情を抱いた。


私はドアを開ける。

雪之助は集中していたのか、一瞬驚いたような顔をしてから優しく微笑んだ。


「何か買い物してきたの?」


「飲み物と後は魔姫先輩と愛ちゃんとお揃いのストラップと友達へのお土産を買いました」


「へえ、それはいいね」


雪之助は作業を止めて、すぐに私と会話を始める。却って邪魔をしてしまっただろうかと、先刻の行動を後悔した。


ふと、膝上にある冷たい感覚で、雪之助のコーヒーを買ってきたのを思い出した。

あの感じだと外には出ていないようで、飲み物が被ってしまわなくて良かったと少し安心した。


「雪之助さん、これ」


ん、と雪之助は少し首を傾げる。

改めて言うと恥ずかしくなり、思わず目を逸らしそうになる。


しかし、これはお礼だ。ちゃんと目を見なければ。


少し俯き加減になりながらも目を合わせて、私はコーヒーを差し出した。


雪之助が目を見開く。そして、手で口元を覆った。


もしかして、コーヒーが嫌だったんだろうか。


「さっき、絡まれてたのを助けてくれたお礼にと思ったのですが…この飲み物嫌いでしたか?」


コーヒーの種類が嫌いだったのだろうか、と不安そうに雪之助を見つめる。


すると雪之助は、はっとした顔をしてから、微笑む。


「そんなことないよ…好きだよ、すごく」


後半の部分の言葉を真剣に言われ、思わずドキッとしてしまった。

違う、これはコーヒーについてだ。


コーヒーを持っていたせいか、少し私の手は冷たくなっていた。

そして、渡す時に僅かに雪之助の指先から温かな温度が伝わり、顔を赤くしてしまった。


意識するな自分。私はモブキャラ。彼女の黒子でありガーディアン志望者なのだ。


必死に自分に言い聞かせる。

すると、雪之助は妖艶な笑みを浮かべる。

そして、空になった冷えた手を掴んだ。


「…手、冷たくなってるね」


「コーヒーが冷たかったので」


思わず片言になりかける自分。

いつから私はこんな変になったのだろう。


こんなドキドキする展開、求めていない。

私が求めているのは彼女だけだ。


雪之助の体温で冷えた手がじんわりと温かくなってくる。


彼女達が帰ってくる暫くの間、私達は手を握りながら沈黙していた。


二人きりの時の私は雪之助から目が離せなかった。


皆が戻り、移動を開始してから暫くは雪之助に握られていた手の感覚が僅かに残っていた。


良ければ、評価、ブックマーク、コメント等よろしくお願いします。

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