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各々が自由時間を過ごし、辺りも暗くなってきたところで花火を始めることにした。
彼女は勿論、海斗と二人の世界に入っている。
そんな二人を傍目に私達は花火を少し離れたところで楽しんでいた。
すると、魔姫がねずみ花火を取り出して、火をつけた。
私はねずみ花火を前世でもやったことがなく、概要を知っていながらも、怖さから逃げ回った。
そして、パニックになった私は思わず近くにいた人に抱きついたのだ。
誰に抱きついたか分かった瞬間、時間を巻き戻したくなった。
「ふふ、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ」
「いや、その、ごめんなさい。雪之助さん」
その様子を見ていた魔姫と紅葉が呟く。
「あわよくばと思っていたけれど、ここまで上手くいくとは思わなかったわ」
「ああ、想像以上だ」
先程からこの二人は私をくっつけたがる。
原作の魔姫であれば、自分がどうやって攻略対象に近づけるかを思考錯誤しているはずだが、今の魔姫にはそういった言動は見られない。
海斗や雪之助だけではなく、ペアである紅葉にも特段アプローチをしているようには見えなかった。
魔姫の原作との違いに思いを馳せていて、自分の現状を忘れていた。いや、おそらく現実逃避をしたくなったのだろう。
私は未だ雪之助の腕の中だ。
「雪之助さん。もう大丈夫なので、離してください」
そうすると雪之助は少し残念そうにしながら、解放してくれた。
「残念だな。もう少しこうしていたかったな」
私は冷静になるように自分に言い聞かせる。
勘違いするな、自分。私はモブキャラだ。本来、ここにいるのも不自然な人間だ。
このイベントに私がいるのも原作通りではない。魔姫が原作と違うのも、私がこのゲームの世界に関与してしまっているからかもしれない。
花火を終え、部屋に戻った彼女と魔姫と私は持ち寄ったお菓子を広げて、パジャマパーティーを開くことになった。
私は気になり、開始して早々に彼女に尋ねた。
「愛ちゃん、海斗さんとはどうなの?」
そうすると、彼女は口を窄めて少し不満げに話す。
「まだ私のこと妹扱いしてる。これでも結構アプローチしてるんだけどな」
「貴女は十分していると思うわ。問題は海斗の方よ」
魔姫の言葉に私は大きく頷いて、賛同する。
しかし、彼女は不安そうに話し続ける。
「私、やっぱり女としての魅力がないのかな」
「そんなことないよ」
私はすぐに断言する。そんなわけがない。彼女ほど魅力的な女性は見たことがない。
彼女を不安にさせるなんて、おのれ海斗、許すまじ。
魔姫もそんな彼女をフォローする。
「私もそう思うわ。少なくとも海斗も意識はしているんじゃないかしら。貴女を大切にしているように見えるし、特別扱いはされているわよ」
彼女はありがとう、と言ってから気合いを入れるように握りこぶしを作る。
「だから私、明日のプールでアプローチ頑張るんだ。水着も新調したし」
「あら、いいじゃない」
桜太と三人で買い物に行った時、彼女は白を基調としたレースをあしらったビキニを選んでいた。スタイルの良い彼女に、その水着はとても似合っていた。
ちなみに桜太は水着選びの際は、店に入らず外で待機していた。
「それで、きーちゃんはどうなの?」
「水着?それなら、愛ちゃんと一緒に買った黒のホルターネックのビキニだけれど」
私は最初全身が隠れるワンピースタイプの水着を選ぼうとしたが、彼女に全力で止められ、彼女が選んでくれたものにしたのだ。
彼女が選んでくれたというのに付加価値が付き、即決したが、彼女より断然スタイルの悪い自分だ。魔姫も服越しでも分かるほど、グラマラスな体型だ。
明日のプールで比べられるのがとても憂鬱だ。
「そうじゃなくて、雪之助さんとだよ。さっきも抱き合ってたし」
「あ、あれは事故だよ」
なんと、彼女にも見られていたなんて。
恥ずかしさで顔が紅潮する。
「私も気になるわ。雪之助と貴女、結構お似合いよ」
私は首を大きく振る。
私とお似合いの男性なんて、このゲームの世界に存在するのだろうか。
少なくとも雪之助は私には勿体無いほどの美形だ。相手として考えるのもおこがましい。
そう言うと、彼女は頬を膨らます。
リスみたいでとても可愛らしい。
「もう、素直じゃないんだから。雪之助さん絶対、きーちゃんに気があるよ」
「私も同感だわ」
「いやいや、ないない」
賭けてもいい。私への雪之助がするいじりは気まぐれである。本気になれば痛い目に遭うと自分の直感が訴えていた。
「そういえば、魔姫先輩の玉の輿作戦はどうなっているんですか?」
「話をすり替えたわね。玉の輿作戦って何よ!」
魔姫が抗議する。
出会った当初はライバルキャラとして、原作を辿っていたが、今やヒロインと恋話をしている。嫉妬している様子もなく、私としては不思議で仕方がなかった。
「私は二人と違って特定の異性がいるわけでもないし、玉の輿に乗るのは理想だけれども、しゃかりきに頑張るはやめたの」
私も特定の異性はいないのですが。
突っ込みたいところだったが、埒があかないため、追求するのはやめた。
「恋愛ってご縁じゃない?無理に掴み取るものでもないと思ったの。それに、その、貴女達と過ごすようになって、こうやって友達と楽しい時間を過ごすのでも十分幸せかなって」
魔姫は顔を真っ赤にして、そう告げる。
私と彼女は頬を緩めて、魔姫を抱きしめた。
こうして、ガールズトークに花を咲かせながら、旅行1日目の夜を終えたのだった。
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