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いよいよ、今日から一泊二日の旅行だ。
メンバーは彼女、海斗、雪之助、紅葉、魔姫、私の6人だ。
企画したのは彼女だ。彼女と行動している私は、彼女とほぼ同じ交友関係なので、ある程度気心の知れたメンバーだ。
ヒロインに桜太以外の攻略対象、ライバルキャラの中にモブの私はかなり不釣り合いだ。
しかし、私は彼女の黒子のような存在である。彼女の魅力をより輝かせる為に存在するのだ。
それに泊まりがけなんて、どんな死亡フラグが潜んでいるか分からない。
実際、ゲーム内では浴室に閉じ込められたり、ストーカーに誘拐されたり、交通事故に見せかけた殺害だったりと死亡フラグは彼女をどこまでも追いかけていた。
最近、順調に事が進んでいるので、つい浮かれてしまっていたが、ここは気を引き締めて、挑まなければ。
そう思いながら、私は集合場所の駅に向かった。
男性陣は全員運転が出来るので、女性陣がナビゲーターとしてペアを組んで、ローテーションで交代することになった。
海斗と彼女、紅葉と魔姫、そして雪之助と私だ。
当たり前のようにこのチーム分けをされた。
この関係性の疑惑はいつ晴れるのだろうか。
初めは海斗が運転で彼女がナビゲーターを務めた。
私達は後ろから彼女達のやり取りを微笑ましく見ていた。
彼女に気を遣いながら運転する海斗と海斗の役に立とうと一生懸命ナビゲーターする彼女。
思わず生暖かい目で見てしまった。
「季々ちゃん、これ食べる?」
隣に座っていた雪之助がチョコレートのかかったスナック菓子を差し出した。
私はいただきます、とスナック菓子を手で取ろうとすると、かわされた。
小学生レベルの意地悪かと思ったら、雪之助は私の口元にスナック菓子を近づけた。
「はい、あーん」
思わず、抗議しようと口を少し開いてしまった。その隙に、甘いチョコレート味が口元に広がる。
「美味しい?」
「お、いしい、ですけど」
私は紅潮した顔を隠すように口元を手で覆う。
そんな私達の様子を見て、魔姫達がからかう。
「私達、場違いじゃないかしら?前の二組、完全に二人の世界に入ってるわよ」
「ああ、同意だな。でも暗田君、ここは見守るのが友人として最善だ。私としても馬に蹴られたくないからな」
「そうね、私達は彼女達の仲がより深まるようにお膳立てをしなきゃいけないわね」
恥ずかしくなって、縮こまる私を見て、雪之助は笑う。
「それは頼もしいね」
雪之助が横で魔姫達にそう応えていた。
サービスエリアに辿り着き、私は車から降りた。この居た堪れない雰囲気から少しでも早く逃げたかった。
アスファルトから照りつける熱気と暑い日差しは夏の訪れを改めて感じさせた。
コテージに着き、荷物を降ろす。
一日目はバーベキューと花火。
二日目は近くのプールで遊ぶ予定だ。
彼女を守ると言う名目があるとはいえ、友人と泊まりがけで過ごすのは今世では初めてで、楽しみだ。
そんな風に考えていると、ふと、パーキングエリアにあるカーブミラーに映る自分が目に入った。
そして感じる既視感と恐怖。
私の動きが止まったことに気づいた雪之助が声をかけて、我に帰った。
なんでもない、と返事をしたが、まだ胸のざわめきが止まなかった。
私はまだ何かを忘れているのだろうか。
ぽっかり空いた自分の記憶。その記憶を取り戻したら、もう元には戻れない。
そんな恐怖が自分を支配した。
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