表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/59

12

閲覧いただき、ありがとうございます。

バイト終わり、魔姫がこっそり私に話しかけてきた。


「今日、雪之助とご飯行くんですってね。貴女も隅に置けないわ」


流石に私では、玉の輿ライバルとは認知されなかったようで安心した。

魔姫は平然と話している。いや、どこか悪戯めいた感じがするが。


「貴女、上がったら10分、時間を頂戴。男は少しくらい待たせる方が良くってよ」


相変わらずの高飛車な態度だったが、魔姫はどこか楽しそうだった。

断る理由もなかったので、了承した。


雪之助は今日のシフトにはおらず、19時に店で待ち合わせをすることになっている。


雪之助に少し遅れる旨を伝えると、すぐに了承の返事が来た。


バックルームで待っていると、すぐに魔姫が来た。


「さぁ、やるわよ!」


魔姫の手にはヘアアイロンとメイク道具が用意されていた。

私が動揺している間にあれよあれよと事が進んでいく。


椅子に座らされ、髪を巻かれ、メイクを整えられて、最後に軽くボディスプレーをかけられた。


「良い感じね」


魔姫が得意げに頷く。

鏡を見ると、普段とは違う雰囲気の女が立っていた。


「貴女普段化粧っ気ないものね。ちゃんとメイクしたら化けると思っていたのよ」


魔姫が自信たっぷりに言う。

確かにこれなら運良く行けば、立ち絵を作ってもらえるかもしれないレベルだ。


我ながら下手な言い回しである。


魔姫に快く見送られ、私は店を出る。


店の近くの木の下で、雪之助は待っていた。

私に気づくと、一瞬驚いたような顔をしてから、すぐに満面の笑みを浮かべた。


「バイトお疲れ様。いつもと雰囲気が違ってびっくりしたよ」


私は恥ずかしくなり、顔を背ける。

しかし、雪之助は軽く頬に触れ、それを制した。


「いつもの君も可愛いけれど、今日の君はとても綺麗だね」


歯の浮くような甘いセリフを言われ、居たたまれなくなってしまう。


「魔姫先輩がしてくれたんです」


そう言うと、彼は少し意外そうな顔をする。


「へえ、あの魔姫がね。やっぱり君は随分魔姫に気に入られてるみたいだね」


普段より距離の近い雪之助に動揺し、生返事しか返せない。

そんな私を見て、微笑んだ。


「じゃあ、行こうか」


さっきまで全然意識していなかったのに、調子が狂ってしまう。

私は彼の一歩後ろを歩いて、レストランに向かった。


着いたレストランはかなり雰囲気のあるお店だった。とても変わり種を用意しているとは思えないほど、落ち着いたところだった。


メニューを見ると、普段使わない食材を使った品がオシャレなネーミングセンスで書かれていた。


雪之助は私の気になるメニューを聞くと、慣れた手つきで店員に注文した。


なんだが、緊張してしまう。

前世を含めたら、結構な歳を生きてきているが、恋愛経験はゼロなのだ。


恋愛パートはオートスキップ人間が、いきなりこんなハイスペックな相手と2人きりはハードモードすぎる。いや、最早ナイトメアモードだ。


「やっと君と食事が出来て、嬉しいよ」


雪之助が本当に嬉しそうに顔を綻ばせて言う。私は警戒心バリバリだ。


「雪之助さん、私とご飯に行くこと色んな人に話してませんか?」


そう聞くと、雪之助は少し恥ずかしそうに頷く。


「あまりにも楽しみでね。つい話してしまった」


そのせいで、色んな人に勘ぐられて大変だったぞ、こっちは、とは流石に言えなかった。


その後も雪之助は様々な会話を私に振ってくれたが、私の反応が悪く、いまいち会話が続かない。


いたたまれなくなった私の気持ちに気づいたのか、雪之助はこんな質問をした。


「ねぇ、季々ちゃんが、もし無人島に1ヶ月滞在しなければならなくなったら、何を持って行く?」


突拍子も無い質問に意表を突かれた。

私はしどろもどろになりながらも、答える。

すぐに浮かんだのは彼女の存在で、私はそのまま答えた。


「そうですね…愛ちゃんですかね。いや、でも危険には晒したくない…」


私が真剣に考えていると、雪之助は面白そうに笑う。


「そんなに一生懸命考えて、余程、愛ちゃんが大切なんだね」


それはそうだ。もう私の世界は彼女を中心に回っている。

彼女なしでは生きていけないほどには。


「ええ、真剣に悩むほどには」


そう答えると雪之助は興味深そうに私を眺める。


「な、なんですか?」


「君は本当に面白いなぁと思ってね。見ていて飽きないよ」


どこかですか、と言ったら秘密、と言われてしまった。

色男はこうやって女を弄ぶのだ。


食事が来て、久々の珍味に舌鼓を打っていると、不意に雪之助がとても優しい顔でこちらを見ていることに気がついた。


それからは料理しか見ていない。お皿にターゲットロックオンだ。


食事が終わると、気づけば、雪之助は二人分の会計を済ませていた。


払うと言っても、上手くかわされてしまった。最寄り駅に着くと、頭を撫でられた。


「じゃあ、またご飯に行こうか。それでチャラってことで」


そして、雪之助はさらっと次の約束を取り付けた。

侮れない、この男。


結局、雪之助のペースのまま、その日の食事は終わった。


帰宅後、メッセージ上で、彼女と魔姫から今日の食事について質問攻めを受け、寝不足で次の日を迎えたのだった。


良ければ、評価、ブックマーク、コメント等宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ