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閲覧いただき、ありがとうございます。

講義が終わり、足早に教室を出る彼女を見送り、私は机に突っ伏した。

最近、彼女と時間が作れない。

講義は一緒だが、彼女は授業が終わると海斗の所へ足繁く通っている。


私との時間をもっと作ってなんて、とても言えない。一途な彼女のいじらしい恋路を邪魔したら、面倒な女だと思われてしまう。


彼女には幸せになってほしい反面、寂しさが募る。


そうこうしているうちに、月日は流れていく。気がつけば、初夏を迎えようとしていた。


このゲームは、彼女が大学一年生の時を舞台にしている。


春に攻略対象と出会い、夏に逢瀬を重ね、秋に攻略対象に告白され、冬には恋人としてのイベントが待っている。


ちなみに、死亡フラグはどのシーズンにおいても待ち構えている。


基本的に彼女を一人にしないよう気をつけているので、事故死やストーカー死は防げていると思う。


現にゲーム内で良く出ていた黒パーカーのストーカーは彼女に接触していないようだ。


原作通りなら被害がそろそろ出ている頃だ。

おそらく、ストーカー死亡ルートは今のところ避けれているのだろう。


もし、海斗がヤンデレ化したら、私が責任を持って鉄拳を下す。絶対にだ。



ふと、携帯が鳴り、見ると雪之助からメッセージが来ていた。


桜太から恐ろしいデマを聞いて、ご飯に行く約束を延期していた。


しかし、それも遂に終わりを迎えようとしている。


延期して1ヶ月。来週はシフト後にご飯に行くと2週間前から約束されていた。


憂鬱な気持ちで電車に乗ると、紅葉が本を読んで席に座っていた。


私の視線に気づいたのか、視線をこちらに向ける。


「あぁ、位方君。久しいな。君もこの電車を使うのか」


「はい。今日は補講があったので、いつもより遅くなってしまいました」


紅葉の隣の席が空いていたので、隣に座る。


「そうか。それはご苦労だったな。私は図書館が閉館するまでいるから、いつもこの時間なんだ」


「そうなんですね」


扉が閉まり、電車が動き出す。

少しの沈黙が流れ、電車の動く音だけが響いた。


「最近バイトはどうだ。慣れたか?」


紅葉は少し間をおいて、話題を振った。

おそらく、話題を探していたのだろう。


「お陰様で、まだ二ヶ月ですがだいぶ慣れてきました。でも来週の創業記念イベントの試作会が不安です」


そう告げると、紅葉は少し考えるそぶりをした。


「去年も私は参加したが、そんなに難しいものではない。君が思った通りに意見すればいい。何かあったら、私もサポートしよう」


「ありがとうございます」


相変わらず、紅葉は落ち着いていて大人の男性という印象だ。流石、攻略対象内で最年長なだけある。


「ところで、位方君」


紅葉は切り出そうとして、少し迷った。

私が話を促すと、少し気まずそうに尋ねる。


「雪之助とは上手くいってないのか?」


口に何も含んでいないのに、吹き出しそうになった。

紅葉のところにも噂が広まっているのかと思うと、恐怖で身が凍る思いだ。


「私と雪之助さんはそういう関係じゃないです」


断言すると、紅葉は慌てて訂正する。


「言葉足らずだったな。そういう意味で尋ねたのではない。雪之助が君とのデートを断られていると聞いてな。雪之助も気にしているようだったから、実際君はどうなのかと思ってな」


そういえば、原作ではバイトで同期の二人は仲が良かった。

雪之助がそこまで気にしているとは思わず、少し申し訳ない気持ちになる。


「嫌なわけではないです。雪之助さんは結構学内でもアルバイト先でも人気があって、有名なので少し気後れしているだけです」


私がそう告げると紅葉は少し安心したように微笑んだ。


「そうか。雪之助はああ見えて繊細で純粋だからな。君さえ良ければ、食事にも付き合ってやってくれ」


私は紅葉の言葉に頷いた。


紅葉の雪之助を思いやる気持ちに私は自分の彼女に対する思いとは違うものだと感じた。


きっと友情というのはこういうものなのだろう。


それに比べて自分の彼女に対する感情は酷く歪なものに思えた。


初めて、桜太が自分の彼女に対する気持ちが邪だと言っていた意味を理解した気がした。

良ければ、評価、コメント、ブックマーク等宜しくお願いします。

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